ホームシアターに挑戦するべく、FAQにある「スピーカーをどのように配置したらいいのでしょうか?」の解説図に従ってサラウンドスピーカーの設置場所を検討すると‘理想的な円形’ITU-R推奨配置と現実の空間の中でどこに置くべきか迷うことがあります。リアルなサラウンド再生を求めながらも置き方にはどれくらいの自由度があるのか。技術メンバーが3年に渡って調査して導き出されたスピーカーシステム設置自由度についてのお話しです。

5.1chサラウンド再生の現状を調べる

すでに5.1chサラウンドサウンド再生にチャレンジしている人達の設置の現状はどうなっているのでしょうか。友人知人に声を掛けて自宅に設置してある3本のフロントスピーカーと2本のリア(サラウンド)スピーカーの位置関係を図面に起こしてもらい82サンプルを集めました。得られたデータは実に興味深い内容で5つのタイプに分類することが出来たのです。

(パターン1)…5本全てのスピーカーが床面から高い所に配置されている
(パターン2)…2本のリアスピーカーのみ床面から高い位置に配置されている
(パターン3)…左右フロントスピーカーの間隔が狭く、2本のリアスピーカーの間隔も狭い配置されている
(パターン4)…ITU推奨に近い配置
(パターン5)…2本のリアスピーカーを視聴ポイントの横に配置されている

パターン

実際に音を聴いて評価実験する

このように分類されたパターンはどの程度正確にサラウンドサウンドを再現できるのか?ITU推奨設置のスピーカーシステムとの効果の違いを聴き分けるテスト(評価実験)を行います。テストする配置パターンは次の7つに設定しました。

(配置 1)…2本のリアスピーカーの間隔が狭い設置を想定した
(配置 2)…2本のリアスピーカーが床面からある程度高い設置で壁面取り付けを想定した
(配置 3)…センタースピーカーを床面ぎりぎりまの高さまで下げ大型スクリーン使用時を想定した
(配置 4)…2本のリアスピーカーが視聴ポイント真横に設置された場合を想定した
(配置 5)…3本のフロントスピーカーが床面から低い位置にあるシアターラックなどを想定した
(配置 6)…2本のリアスピーカーの天井埋め込みを配置想定した
(配置 7)…5本全てのスピーカーシステムの天井埋め込み配置を想定した

評価

評価には3種類のサラウンド音源を用意して「臨場感(包まれ感)」「定位感」「移動感」の3つをキーワードとして設定し、20から50歳代の25名の音響専門家に聴取をお願いしました評価結果がこの表です。3がITU-Rと同等、数字が大きくなると優れている、小さくなると劣化しているという評価になります。
評価実験を進めて有る程度の結果傾向が出て来るうちにスピーカーの煽り角度によっても結果が影響されることに気が付きました。そこで、天井埋め込みタイプを意識した配置やシアターラックを意識した床面に近い配置などで、スピーカーの首振り角度を変化させて追加評価も含めて行いました。

評価

評価実験から得られた結論

ITU-R基準配置との比較では

  1. リアスピーカーを視聴ポイントの真横に設置するなど開き角度が広すぎる場合臨場感が劣化する傾向にある
  2. フロント側を通常の高さにしてリアスピーカーだけを天井に配置すると移動感が劣化する傾向にある
  3. 全てのスピーカーを天井に設置すると定位感が劣化する傾向にある
  4. リアスピーカーがフロントスピーカーよりも少し高い、またはセンタースピーカーのみ少し低いといった配置はITU-R基準配置と遜色は無い

と言ったことが判りました。

一般家庭での設置ガイドライン

これらのことから技術メンバーが提案するガイドラインは以下のようになります。

(1) リアスピーカーの開き角度
100度から135度を目安に設置する。これはITU-Rの100度から120度という指定よりも範囲が広がる分だけ自由度が増すことになります。

(2) センタースピーカーの高さ
フロント側のスピーカーでセンターのみ低くしたい場合20度以内に設置する。テレビスクリーンの大型化に伴いセンタースピーカーの配置場所が確保しづらいケースなどでも自由度が増すことになります。

(3) インウオール設置
フロント、リア各スピーカーを壁面設置する場合仰ぎ角度は16.7度以内を目安にする。

(4) リアスピーカー距離
ITU-R基準では全てのスピーカーが視聴位置から等距離を求めているが、リアスピーカーのみフロントスピーカーとの距離±10%まで許容できる。

(5) 音場補正ツールの活用
以上のように物理的な位置関係を確認した上でAVアンプに内蔵している自動音場補整機能を併用することで制作者が意図したサラウンド効果を充分楽しめる。

ガイドラインに示した通り、従来提唱されてきたITU-R勧告配置よりも自由度が確保されています。この範囲の中でトライして、ぜひとも素晴らしいサラウンドサウンドをお楽しみください。