2025winter

新年を迎えて

一般社団法人日本オーディオ協会 会長
 小川理子

2025年がスタートいたしました。皆様方におかれましては、暖かで穏やかな清々しい新年をお迎えになったことと存じます。昨年12月には日本オーディオ協会の重要な行事である「音の日」のイベントを無事終えて、次なる1年間に思いを馳せる年末年始でございました。

思えば21世紀に入って、はや四半世紀。世界情勢、ライフスタイルから、技術の進化に至るまで、激動の四半世紀だったように思います。私自身を振り返ってみましても、次から次へと発生する課題に直面して、ひとときとして、落ち着いて肩の力を抜いていた時期はなかったように思います。しかしながら、変化に適応し、持続可能でありたいという、世界共通の願いはしっかりと定着しているように思えます。音や音楽を取り巻く環境に身を置く私たちにおいても、変化に適応しながら普遍的な価値を大切にして、知恵を集めて対応してきたように思います。

そんなふうに昨年も忙しく過ごしていましたが、ひとときの心の潤いを求めて足を運んだコンサートの中で、印象に残っているのが、大阪出身の神尾真由子さんのバイオリンと香川県出身の上原彩子さんのピアノによるデュオコンサートでした。京都コンサートホールの中にある小ホール「アンサンブルホールムラタ」で開催されましたので、半年前からチケットを購入して楽しみにしていました。一番の動機、最も聴きたかったのは、神尾真由子さんが演奏されるストラディバリウスが、小ホールのかぶりつきで演奏される、その音のすべてです。音色、音速、密度、温度、輝き、響き、時の流れ、ダイナミズム、可能性、などなど、ありのままを吸収したかったのです。

演奏されたストラディバリウスは1731年製作「Rubinoff」。その音のすべては、期待以上のものであり、一言では言い表せません。まさに音が活き活きと躍動し、空間にエネルギーが満ち溢れ、うねり、自分の心身の感度が全開になって音を吸収するとともに、自分の魂が時間のブラックホールに吸い寄せられていくような、生きる歓びを感じたひとときでした。製作されて300年近くも経過するというのに、まるで手塚治虫さんの描いた「火の鳥」のように、永遠のいのちの輝きを宿しているのではないかと思える、そんな凄みのある音と演奏でした。

オーディオは、こういう世界を表現、再現できないといけない、と、あらためて気が引き締まる思いもしました。帰宅して家人にこの日の感想を伝えると、「どうして今の時代に、300年前に製作された楽器の音を超えることができないのか?」と問われましたが、これは音楽関係者なら長年にわたって研究されてきたテーマだということを知っていますし、かといって明確な回答ができない自分にもどかしさも感じた次第です。

今後、AIやロボティクスと共存する世界では、人類の創造性が最先端研究テーマとなっています。オーディオが貢献する領域に、「人類の創造性を拡げる」ことを加えたいというのが、新年にあたっての私の夢であります。

本年も日本オーディオ協会へのご協力、ご支援のほど、よろしくお願い申し上げます。