2024autumn

香港ハイエンド・オーディオ&ビジュアルショウ[香港高級視聴展]見学記

日本オーディオ協会 専務理事 末永信一

2024年8月9日(金)から11日(日)にかけて、香港ハイエンド・オーディオ&ビジュアルショウ[香港高級視聴展]を見学してきました。今後のOTOTENを検討する上で、海外の展示会をベンチマークする目的で、5月にはミュンヘン・ハイエンド2024を見学しましたが、世界一のオーディオショーと言われるミュンヘンに追い付け追い越せ!ならば、まずはアジア最大のオーディオショーを知って、これをまず超えることを考えねば!という意気込みで、香港に乗り込んできたのであります。

今回も、個々のブースの展示内容や機器の紹介などについては、色々なメディアに詳しく取り上げられていますので、私はイベントの概要や運営という視点でレポートいたします。

序章

社会人2年目、人生初の海外旅行先が香港でした。現地では自由行動となるツアーだったので、当時、香港に駐在していた同期に、遊びに行くから案内してくれないか?と頼んだら、その時期は日本に帰っているとのことで、行くべきところを教えるから一人でまわるように!とメモをくれました。今では信じられない話かもしれませんが、英国領だし、英語で会話ができるものだと思っていたら、ほとんどの住民が英語をしゃべれないどころか、英語を知らないというレベルでした。それ故に、めちゃくちゃ苦労しましたが、それ以降、言語に頼らずに海外を旅する覚悟というか、その方がもっと楽しめる海外旅行の醍醐味を味わってしまいました(笑)。

その同期が教えてくれた飲茶が本当に美味しくて、いい思い出となり、その後、プライベートの他、深圳へのトランジットなどを含めて何度も香港を訪れていますが、ここ10年はコロナ禍もあって行けておらず、どんな風になっているかと心配でしたが、通りには相変わらず2階建てバスやトラムが引っ切り無しに走り、活気のある街はそのままで、とても嬉しくなりました。ただし、飲茶をワゴンで運んでくるのではなく、QRコードで発注するシステムになっていたのには驚きました!時代ですねぇ。

香港ハイエンド・オーディオ&ビジュアルショウの会場へ

さてさて、私の香港の思い出話はこの辺にして、香港ハイエンド・オーディオ&ビジュアルショウは、香港島の湾仔(ワンチャイ)という街にある、香港コンベンション&エキシビションセンター[香港会議展覧中心]で開催されました。1997年の返還式典が行われたというかなり由緒正しきところで、海沿いにある非常に大きな建物でした。

10時開場の15分ほど前に3階(日本では4階になりますが、このレポートの中では、英国式に表示します)の会場入口に到着したら、ちょうどオープニングセレモニーが始まり、たくさんの人がカメラを構えていました。広東語と時々英語で挨拶が続き、銅鑼の音がなると共に、大量のクラッカーが放たれ、さすがド派手な開会宣言!出展社の代表の方々が登壇されていたようで、知った顔が何人か見えました。

一方で、受付と思わしき小屋に向かってすでに大勢が並んでいました。まるで入国審査の大行列のような人数で、あら~午前中はこれで終わった!と焦りましたが、誘導係の人に「事前登録してQRコードを持っているけど、これに並ばなければならないのでしょうか?」と聞いたら、「事前登録してあるならあっちに!」と誘導された先では、10人くらいで順番が来ました。大行列は、その場で入場料100香港ドル(この時点のレートで約2000円/日)を支払って入場したい人達でした。えええ、そんなに事前登録しないものなの??と、驚き。

カウンターでQRコードを見せると、腕に巻くリボンとトートバック、会場案内のパンフレット、それに来場記念品であるSACDが手渡されます。2日目と3日目には、会場でメディアを購入する際に使えるクーポン券ももらえました。

ここで、このイベントの全体像を紹介しておきます。


主催者であるオーディオ専門メディア「音響技術(AUDIOTECHNIQUE)」
このブースでは、雑誌のバックナンバーを販売していた。

2階から4階の3層の会場となっており、主催者情報では、全部で130社以上の出展があったとのこと。基本的には、輸入代理店や販売店が出展社の形になっていました。3階がメイン会場[Hall 3]と言っていいと思いますが、約9,000㎡の平地に所狭しと、ブースがたくさん建てられた会場になっていました。ホームオーディオだけでなく、ヘッドホン・イヤホン、アクセサリーなど、ありとあらゆる製品が見られるという賑やかな雰囲気。


Hall 3 会場図

特徴的なのはHall 3で、会場図の外周部[X]に見られますが、[Silent Zone]というものが設けられており、詳しくは後述しますが、簡易的に作られた27の試聴室がありました。また図面の左側[J、K、L]の領域には、CDやレコードを売る店がこれも30近くあったかと思います。受付やセレモニーを行っていたステージは、このホールの外にあり、図面の下側に位置します。Hallに入る際は、入場登録が済んだことを示す腕に巻いたリボンを係員に見せて入ります。首から下げるIDのようなものはありませんでした。

2階と4階には、各々10個の会議室を使った展示スペースがありました[S2、S4]。それぞれが約1,500㎡とのことで、3層の会場全部を合わせて、約12,000㎡といった床面積となりますが、これはミュンヘンの会場(30,000㎡)の半分以下、OTOTENの会場(5,000㎡)の2倍以上といった比較になります。

加えて、来場者数がまた驚きです。2024年の来場者数は3日間合計で30,000人だったとのこと。OTOTENの来場者が2日間合計で6,000人なのに、その5倍の来場者数というのは、これはすごいこと。ミュンヘンの来場者が22,000人なので、人数的には圧倒しています。ミュンヘンの会場の半分以下なのに、来場者は1.5倍ほどあるので、かなりの混み様であり、その熱気はこちらのほうが世界一と言っても過言ではない気がしました。

会場で会った日本の知り合いに聞くと、ミュンヘンはトレードショーの意味合いが強く、どちらかと言うと大人しい来場者が多いのに比べて、香港はオーディオ愛の強いファンが押し寄せており、会場の熱気がすごい!とのこと。まさに、私もそう感じました。香港ハイエンド・オーディオ&ビジュアルショウ[香港高級視聴展]は、2003年から始まっており、しっかりとその歴史を積み重ねていると思いました。

Hall 3の様子

3階のHall 3は平地にブースを立てているため、色とりどりのブースが大変華やかな雰囲気を演出しており、また、ありとあらゆる製品をここで目にすることができるのは、ファンとしてはなんとも言えず嬉しい気持ちにさせてくれる場でした。ヘッドホンを扱うブースは、座って接客しているところもありましたが、多くはミュンヘンと同じスタイルで、立ったまま試聴するところが多かったのが印象的。気になったものをすぐに手に取って聴ける手軽さがあって、とてもいいと思いました。

あと、ケーブルを扱うブースがめちゃくちゃ多く、出展社と来場者で太いケーブルをお互いに握り合って談笑している姿がなんだか微笑ましく思えました。ケーブルを床から浮かす木製のアクセサリーを販売しているブースもあったのですが、木の種類がいろいろと取り揃えられていて、面白いなぁ・・・だけど、けっこうなお値段するなぁと見ていたら、2つ買ったら1つサービスするよ!と。たぶんそんなことを言っていたんじゃないかと思います。広東語だから分かりませんが(笑)。

さらには、オーディオ製品とは思えない不思議なものをたくさん飾っているブースがあったので、これは何?と尋ねると、金属加工や塗装を得意とした企業が自社技術をアピールするために出展をしていることが分かりました。いわゆるパートナーを探しのために出展しているのですね。普段目にすることの少ない展示が色々あるのは、なにかワクワクさせてくれます。

テレビやプロジェクターを扱う出展はほぼ無く、プロジェクターの展示が1か所あったのみという感じなので、ピュアオーディオやHiFiオーディオに特化しているイベントと感じました。だから、立体音響なんて展示も全くありません。ちなみに、”Hi-Res Audio”ロゴの利用状況を確認することも今回の出張の目的だったのですが、ほんの数社でしか見ることができませんでした。もっとモバイルオーディオの強いイベントだと状況が違ったのかと思いますが、ここに集う人たちは、CDなどのフィジカルメディアがまだまだ一般的なんだろうなと思いました。

オープンスペースであるにも関わらず、みんな構わずに大きな音を出して、常に賑やかな会場なのですが、ホールの外周部には簡易的に作られた試聴室がたくさんありました。日本のオーディオショーでこれを実施しようとする場合、天井を作ると消防法の対応のためにスプリンクラーの設置が義務付けられることや、この程度の遮音では、出展社だけでなく来場者にもご満足いただけないのが現実かと思いますので、なかなか難しいかと思いますが、出展社たちの真剣さが伝わるというか、こんな環境であっても、来場者はしっかりと聴き入っておられる様子でした。

入口は、透明なビニールで暖簾状のカーテンが作られているだけで、中の様子が見えることが、なかなかいいなぁと思いましたが、壁を触った感じでは、段ボールを貼り合わせたような素材だと思います。なかなかいい聴こえ方になっていると思いました。むしろ、エアコンの音が気になるというのもあり、色々と痛し痒しだなぁと、やっている方々の苦労が忍ばれました。

S2、S4の様子

2階と4階のフロアにおいては、各会議室で試聴を中心としたブース展開がされていました。常に扉は空いている状態で、人が出入りしやすい様子でした。時々、プレゼンテーションタイムが設けている部屋が多かったのですが、広東語で説明が行われるのが普通で、時々英語の説明を広東語に通訳したりしているところもあり、割と話が長い。来場者も説明を受けるのが好きな人たちが集ってきているのかな?という雰囲気でした。ミュンヘンではまったく説明がない雰囲気でしたから、お国柄があるものなんですね。

デモ曲の方向性は様々でした。クラシックは少ないように感じましたが、定番の「ホテルカリフォルニア」は何か所かで耳にして、世界標準か!と納得しました。その他、現地で流行っている曲を掛けていたのか、私が知っている曲はなかった印象です。日本の曲を聴くこともほぼありませんでした。

午後からすごい人人人

初日の午前中に、ロケーションを確認する程度に会場内を一回りして、昼食を食べに一旦外に出て、戻ってきたら、受付の奥の案内図に載っていない部屋に、人がどんどん吸い込まれていくので、何があるのか?と覗いたら、なんと、チケットカウンターの行列が更に奥に伸びていて、さすが30,000人規模のイベントだと納得させられました。というか、香港の人は事前予約をしないものなの??そして、Hall 3に再入場して細かに見学しようとしたら、人人人で前に進めない状態になっていました。まあこうなるよね。あきらめて他のフロアに行っても、結局人の多さは一緒でした。これはどう見ても、香港ハイエンド・オーディオ&ビジュアルショウが世界一ですよ!すごいもの、この熱気!


チケットカウンターの行列が更に後ろまで伸びていた

ソフト販売ブースの様子

Hall 3の左サイドには、かなりたくさんのソフト販売のブース(というか、出店)がありました。<八折>と書いた表示をよく見かけるので、どういう意味なんだろうかと調べたら、八掛けつまり20%OFFという意味なのですね。覚えておくといいかもしれません。

せっかくクーポン券ももらえたのだから、ここでしか買えないようなものを買ってみようと思って眺めていたら、ブースの中から「自分はプロデューサーで、これは自分が作ったCDだから是非聴いてくれ!」と男性が話しかけてきました。これを買ってくれたら、これも付けるからと積極的で、ちょっと怪しい感じだったのですが、昔の香港ならこんな人がたくさんいたなぁ、この感覚はなんか懐かしいなぁと思いながら、聴かせてもらえないか?と頼むと、プレーヤーを再生しながら熱心に説明してくれました。中国の伝統楽器を使った曲だったのですが、まずまずいい感じだったし、いいね!と手でサインしたら、「じゃあプレゼント!」とくれました。あらま!

他のブースでも、自主製作したというCDを説明する人や歌っているアーティストがサインをしながら手売りする姿も見掛けたので、CDやレコードをただ単に販売しているだけでなく、ここが登竜門となって、アピールの場になっているのかもしれません。会場の外では、コーラスグループが歌っている様子を見ましたが、プロではないと思いますが、こういった文化的な側面も我々は学ぶべきところがあるのかもと思いました。

台湾の方々との再会

OTOTEN2024には、台北インターナショナルオーディオショーの主催者(TECA)の方々の来訪や、台湾のスピーカーメーカー鹿港音響(ルーカンオーディオ)の出展がありました。彼らも香港ハイエンド・オーディオ&ビジュアルショウに来ておられたようで、偶然の再会を喜び合いました。OTOTENへの参加に感謝していることを伝えられましたし、二人ともOTOTENは楽しかった!と言ってくれました。今後とも、このような国際交流をしっかりとやっていきたいと思います。

日本メーカーの出展

香港ハイエンド・オーディオ&ビジュアルショウには、日本のメーカーもたくさん出展されていました。代理店などを通じて出展されている様でしたが、日本からキーマンがたくさん乗り込んできて、商品の素晴らしさを熱心にアピールされていました。非常にこの展示会を重視していることが感じられます。ここに掲載する写真以上にたくさんの日本のメーカーが出展されていたのですが、話に夢中になって写真を撮るのを忘れてしまったのは申し訳ありません。

評論家の潮晴男先生、麻倉怜士先生とは行きも帰りも一緒の飛行機になるという偶然。CDのサイン会をするから寄って!と言われていたのですが、あっという間に売り切れたみたいでした。香港でも知名度が高いんですね。由紀精密のプレーヤーやサエクのトーンアームなどが目に留まりましたが、レコードの価値の高さは感じるものの、ミュンヘンや日本に比べると、全体的にレコードプレーヤーの展示は、そう多くなかった気がします。それでなのか、ここでのランボルギーニの展示は、模型になっていました(苦笑)。

まとめ

来場者の年齢層は幅広いと思いましたが、やはり中高年の男性が中心のイベントとなっているのは否めない感じがします。ファミリーはほとんど見掛けませんでした。とにかく、人が多く、熱気がすごい!このエネルギーは見習うところが相当にあると思いました。

香港の住宅事情は、いわゆるマンション形式のところに住む人が多いと思われるのですが、近隣に迷惑とかそういう背景があまりないのか、これだけの来場者はどこから来ているのか、そういったことももっと深掘りしてみたいですね。

とにかく、久しぶりに香港に行ってみて、たくさんのエネルギーをもらい、日本の中だけで物事を考えていてはダメだ!世界はまだまだ広い!知らないことが多い!と感じてきたことを、この見学記の締めとしたいと思います。

執筆者プロフィール

末永信一(すえなが しんいち)
1960年、福岡市生まれ
2019年、ソニー株式会社退社
2020年6月より、日本オーディオ協会専務理事に就任