2024summer

ミュンヘン・ハイエンド2024見学記

日本オーディオ協会 専務理事 末永信一

2024年5/11(土)、12(日)と、「ミュンヘン・ハイエンド2024」を見学してきました。小川理子会長から、ミュンヘン・ハイエンドは素晴らしい!OTOTENをあんなイベントにしたい!というお言葉をいつも耳にしていたので、どんなところなのか肌で感じて来ようと、3泊5日で弾丸出張してきました。個々のブースの展示内容や機器の紹介などについては、色々なメディアに詳しく取り上げられていますので、私はイベントの概要や運営という視点でレポートします。

序章

まだロシア上空を飛べないもので、40年近く前に初めてヨーロッパに出張した際にはアンカレッジ経由だったことを思い出しながら北極海上空へ。せっかくオーロラが見えると話題になっていたのですが、ほとんどの時間に太陽が燦燦と輝いており、どのタイミングが夜だったのか気付かず、残念でした。朝9:40羽田発のミュンヘン直行便に搭乗し、到着は現地時間の17:00。約14時間のフライトでした。


ミュンヘン・ハイエンド2024の広告
@ミュンヘン国際空港

ミュンヘン国際空港に到着後、3万円両替すると、たったの170EUROにしかならず、空港から街中までタクシーに乗ると100EURO掛かると聞いていたので、ここでさっそく円安と物価高を思い知ることとなります。これではあっという間に現金がなくなると思い、頑張って地下鉄で移動。この時期のヨーロッパは日が長く、ホテルに着いたのは20時近かったと思いますが、まだ明るい。でも、翌日からの行動を考えて、軽く夕食をして、すぐに就寝。

いざ、会場へ

10:00開場の30分前にMOCという会場に到着したのですが、熱心なファンと思われる人たちがちょっとはいましたが、日本のイベントのように朝から長蛇の列にはなっていませんでした。私が見学したのは土・日で、一般開放デイ。その前の木・金はビジネスデイで、B2B、すなわちディーラーなどが商談に来る日となっており、知り合いの出展者に様子を聞くと、木・金は来場者が多かったが、土曜日はがくっと少なく、日曜日は家族連れなど来るので、またちょっと多くなる傾向にあるとのこと。2023年の来場者数が、トータルで22,000人だったとのことなので、ざっと1日平均5,000人というのはなかなかのもの。

入場に際しては入口でチケットを提示し、バーコードリーダーでチェックを受けると、入場登録が済んだことを示すリボンが腕に巻かれます。何度もバーコードのチェックをしない措置のようです。チケットを入れるホルダーは自ら手に取って中に入ります。入口は5~6か所ありましたが、どの入口もリーダーを持った人は一人だけで、朝はちょっとした混雑ぶりが見られたものの、それほど大勢が押し寄せるわけでもないので、こんなに効率化された対応でも十分なんだろうな、と思いました。


ミュンヘン・ハイエンド2024のチケット

チケットは有料で、土・日は1日あたり10EURO(私が訪問した時のレートでは、約1,800円)、2-day B2Bチケットは30EURO、4日間通しの4-day B2Bチケットは49EUROでした。他の食費などから考えて、日本人の感覚的には10EUROの入場料というのは1,000円といった料金体系かと思います。

ちなみに、チケットの上半分は、その日の地下鉄のフリーチケットとなっています。ヨーロッパの地図にミュンヘン-ロンドンを半径としてミュンヘンを中心に円を描きますと、下記の様にヨーロッパの大半が入るところにミュンヘンが位置していることが分かります。ミュンヘン市はヨーロッパにおける展示会をたくさん誘致して、近隣諸国からのインバウンドを重要な政策としているそうです。ミュンヘン・ハイエンドはその中にあって、大変人気のあるイベントとなっているとのこと。すなわち、ミュンヘンやドイツのオーディオファンが集うというだけでなく、ヨーロッパ中のオーディオファンがここに集まってきているということなのですね。世界最大級のオーディオショーと位置付けられることも納得です。地下鉄のフリーチケットもその政策の一環となっているようです。


ミュンヘンを中心に円を描くと…

まずは1階から


会場全体図

1階(地上階 ヨーロッパではこれを0階と数えますが、このレポートでは、日本式に1階と表記します)に4つのホールがあり、2階、3階に大小様々な会議室がずらりと並んだ建物となっており、青く塗られたところに今回のイベントの出展ブースが示されています。

主催者の情報によれば、550の出展社(1000ブランド)、会場面積は30,000㎡とのこと。OTOTENと比較すると、出展社が50社であり、東京国際フォーラムのガラス棟の床面積がざっと5,000㎡なので、かなり規模の大きさが分かります。

1階の様子

目に見えて違いを感じたのは、平地にブースを用意した出展社がとても多いということ。日本でも、InterBEEであったり、ヘッドホンやモバイルオーディオを中心とした展示会では、広いスペースにブースを構えたり、テーブル展示を配置したりするスタイルがありますが、ホームオーディオを中心とした展示会においては、出展社が個別の部屋にて試聴デモを行うスタイルの会場作りが求められており、特に東京国際フォーラムは、他の部屋との独立性が高いため、試聴する環境としては非常に良い場所とされています。

オープンなスペースが多いだけに、会場全体に光が差し込み、とても明るい雰囲気であると共に、人もブースに近づきやすいということを感じました。オーディオフェアといった時代には、このようなオープンスペースにブースを構えた企業も多かったと思いますが、だんだんと試聴室自体が重視され、出展社も主催者サイドもこうでなければならないとの意識になってしまったのだと思われます。昨今、OTOTENにおいてもオープンなスペースの展示で構わないという出展社を集めたコーナーを設けていますが、まだまだそれを希望される企業様は少ないというのが現状です。

一方で、では試聴室スタイルの展示は無いのか?と言えばそういうわけではなく、多くは2階3階にある会議室に配置されているのですが、ただし、イギリスのブランドであるTANNOYのように、オープンな展示スペースに加え、試聴室を組み上げている出展社もありました。日本から出展されていたトライオードも展示スペースに加え、試聴室を用意されていたので、山﨑社長に話を聞いてみると、2階3階の会議室はガラス窓が大きいこともあって、調整に苦労するから、自社で試聴室を用意しているとのこと。LUMINのように試聴室の外壁をデザインとして見せているブースもあり、これは賑やかな演出でなかなかいいなと思いました。

2階、3階へ

先に述べたように、2階、3階には会議室がずらっと並んでおり、その中で試聴デモが行われていました。かかっていた音楽は様々に感じたものの、意外とプレゼンテーションというか、商品の説明をしないものなんだなという印象で、この辺は地域性というものなのかな?と感じました。聴いている人たちはいい音に浸って幸せそうであるのと、言葉が分からないのであくまで想像ですが、一緒に来た奥様も、これはどうだこうだといった会話をしている様子でした。

2階3階の様子

ソフト販売

会場内のところどころで目に留まったのが、ソフト販売のコーナーでした。会場全体の広さもありますが、各々のブースの規模の大きさと出展社数に驚かされます。昨今のレコードブームもあって、掘り出し物の中古レコードを漁るファンがたくさん集っているのは、日本と同じで微笑ましく見えました。特に日本製のレコードは評判がいいらしく、日本製レコードを集めたコーナーというのもありました。

ソフト販売の様子

ヘッドホンコーナー

Hall1には、「WORLD OF HEADPHONES」と称したヘッドホンやモバイルオーディオのコーナーがありました。このコーナーも非常に人気で、立ったままヘッドホンを手に取って試聴するスタイルはなかなかカジュアルなイメージでした。さらには、テーブルの上空に展示されているブランドを示した各々のフラッグが非常に印象的。TWSイヤホンの一点張りである日本市場と違い、オーバーヘッドの展示が多かったことに少し驚きましたが、とはいえ、街中でTWSイヤホンを着用している若者は結構見かけたので、TWSの人気がないわけではないと思います。

ヘッドホンコーナーの様子

ユニークなコーナー

ゲーミングゾーンと書かれた場所がありました。日本におけるゲーミングデバイスの代表格であるヘッドセットのようなものの展示はなく、ゲームを映したテレビとそれに組み合わせたオーディオ機器が、空間表現をしている展示がされていました。日本の住宅事情と違って、大きな音が出せるんでしょうか?

また、スタートアップ企業を集めたエリアがあり、10社ほどの出展社が自前の技術を売り込んでいました。こういう若い企業のチャレンジを応援することをOTOTENでもやりたいですが、SXSWのように、投資するお金を握っている人が来場しないと意味をなさないのか、このエリアはいまいち静かでした。何社か話を聞いたものの、軽いノリでやっている人たちと、妙に学術的な雰囲気を感じる人が多く、オーディオファンが心惹かれるような話とは違うあたりも、人が近寄らない課題であるのかなと感じました。

台湾企業の出展ブース

何ヶ所かでTAIWANと書かれたロゴを見掛け、TAA(台湾音響発展協会)の記載があったので、会員企業だからロゴ表示しているのか?と思って話を聞いてみたところ、台湾政府から輸出を奨励する補助金が出ているそうで、この展示会に出展することもその一環となっているらしく、TAAがいわばエージェントとして、台湾のオーディオメーカーや部品メーカーの出展の橋渡し役を果たしているとのこと。そのため、何社かがひとつのブースの中に共同して出展しているところもありました。

昨年、台北インターナショナルオーディオショーを訪問した際に興味を持った、ガラスで振動板を作っているGAITが出展していて、台北では部品を見せてもらっただけでしたが、今回はスピーカーの形になっていたので、音を聴かせてもらうことができました。曲も高音を強調したようなものを使われていたので、なおさら澄んだ音に聴こえて、いい音に感じましたが、日本でもビジネスを開始しているという話をされていたので、是非OTOTENを見に来てね!と宣伝しておきました。

OTOTEN2024にも出展された鹿港音響(Lu Kang Audio)が、こちらにも出展されていたので、ちょっと顔を覗かせたら、わざわざ挨拶しに寄ってくれて、ありがとう!とめちゃくちゃ喜んでくれました。また来月、東京のOTOTENで会いましょう!と、がっちり握手。

台湾企業のブースの様子

日本企業の展示

最後に、日本企業の出展の様子を記載します。今回、最も話題になっていたのは、なんといっても、テクニクスのランボルギーニ・コラボでしょう。テクニクスの元CTOの井谷氏によれば、ランボルギーニ側からコラボの要請があったとか。まったく関係ない分野とのPR協力関係にチャレンジしたい意欲があったようです。さすがに井谷さんに頼んでも、展示してあるランボルギーニに乗り込むことは出来ませんでした。SL-1200M7Bを購入すると、ランボルギーニのエンジン音が収録されたレコードがプレゼントされるそうで、そのレコードのデモを体験しましたが、なかなか切れのいい、また力強さを感じる素晴らしい音が聴けました。まあ、好きな人は飛びつくでしょうね。

ヤマハは、1954年に初めてレコードプレーヤーを発売してから70年のHi-Fiの歴史をたどってきたという年表が大きく掲示されており、展示されていた5000シリーズの商品群が、ヤマハらしい美しい音色を奏でていました。

また、ナガオカは、モノラルレコード専用カートリッジ「MP-MONO」を展示。サエクはダブルエッジナイフ型トーンアームの復活で話題となった「WE-4700」の進化系として、「WE-709」を初お披露目。ティアック、ラックスマン、オーディオテクニカ、ファイナル、由紀精密など日本の人気ある企業のブースには、常にたくさんの人が集まっていたことを記しておきます。

日本企業の出展の様子

まとめ

来場者の年齢層を見ると、若い人たちがそんなにたくさんいるとは思いませんでしたが、確かに日曜日はファミリーをよく見かけました。今もドイツでは日曜日は店が休みということが多いらしく、展示会は人気のお出かけスポットとなっているとのこと。ファミリーがたくさん来ているので、ファミリーで行くことに違和感を感じないという雰囲気がありました。ミュンヘンでは日本ほどオーディオが特別なものではないということなのかもしれません。

有料でありながら、これだけの人が集まるイベントなのも、一見不思議には見えますが、実は当地で行われるどのイベントも有料だから、ここに集まる人たちは有料だということを不思議に思わないというわけで、そんなことも考えたら分かりそうなことではありますが、現地に行ってみて、ああそういうことなのね!と色々と理解できた、実りの多い出張となりました。

オーディオ、まだまだ元気!という眩いばかりの印象を受けてきたミュンヘン・ハイエンド2024でした。

執筆者プロフィール

末永信一(すえなが しんいち)
1960年、福岡市生まれ
2019年、ソニー株式会社退社
2020年6月より、日本オーディオ協会専務理事に就任