2024summer

500年ぶりの発見、第3の聴覚
「軟骨伝導」が拓く新しい音の世界

奈良県立医科大学 理事長・学長
 細井裕司
株式会社CCHサウンド 代表取締役社長
 中川雅永

概要

細井は2004年に、気導(第1の聴覚経路)骨伝導(500年前に発見された第2の経路)に次ぐ、第3の経路を発見し、「軟骨伝導」、”cartilage conduction”と命名しました。軟骨伝導を応用すれば気導や骨伝導では実現できなかった種々の新音響機器が開発可能です。軟骨伝導の理解には、「1時間の講演より5秒の試聴」です。試聴し従来からの気導音と比較していただくと一瞬にして軟骨伝導の優れた特徴が理解いただけると思います。

1. はじめに

-骨伝導とは全く異なるメカニズムの聞こえである軟骨伝導の発見によって、音響製品の選択は気導と軟骨伝導の優劣の比較の時代へ-

骨伝導の発見から500年ぶりに発見された軟骨伝導は、一つの製品、一つの技術の話ではなく、聞こえに関する新しいカテゴリーの登場です。気導や骨伝導とは違った音響・聴覚のメカニズムの発見で、音響機器全般にイノベーションを起こします。
軟骨は組織学的にも骨とは異なる組織ですが、日本語ではその名称に「骨」という字が含まれるために、骨の一種と誤解されがちです。英語においては、soft-boneではなくcartilageですから誤解されることはありません。まず最初に認識していただきたいことは、「軟骨伝導は頭蓋骨の振動は不要で、骨伝導とは全く異なるメカニズムによる聞こえであること」、「骨伝導の長所をすべて持っており、かつ、すべての点で骨伝導より優れていること」です。今後の製品開発には骨伝導ではなく軟骨伝導が選択されることが予期されます。音響機器により大きな影響を与えることは、気導イヤホンでは実現できないことが軟骨伝導で実現できることです。音響の世界に新しいカテゴリーを拓きます。音量調節が瞬時にできる「スマートフォン」、イヤホンを使用しなくてもメガネをかけるだけで聞ける「スマートグラス」、ステレオサウンドで「水中音楽」を楽しむ、宝石で音を聞く「サウンドジュエリー」、音楽を聞きながら「耳ツボ刺激」を行うデバイス、などです。

本年3月には、参議院の予算委員会で岸田首相、齋藤経産大臣が、衆議院の厚生労働委員会で武見厚労大臣がその有用性について答弁されました。NHKの全国放送でご覧になった方もおられると思います。また、昨年12月には日本オーディオ協会から「音の匠」に顕彰されるなど、多くの賞を受賞するようになり、その認知度が向上してきました。役所や金融機関などの窓口に窓口用軟骨伝導イヤホンが設置されるようになったことにより、多くの一般の方々に「軟骨伝導音」を聞く機会が与えられ、その数は急速に増加しています。「穴がない清潔イヤホン、外耳道炎にならない、耳閉感がない、隣に漏れない、音声が明瞭」などの軟骨伝導の長所を多くの方が体験を通して認識されるようになってきました。
軟骨伝導の発見から20年経過し、2024年1月現在で40編以上の軟骨伝導の論文が国際誌に掲載されています[参考文献1]。世界の音響・聴覚の専門家の方々に軟骨伝導の存在が認識されるようになってきたことを表しています。今後ますます多くの専門家の「耳」にとまり、新しいイヤホン(スマートフォンなどの機器に組み込まれたイヤホンを含む)を設計するに当たって、頭から気導と決めつけずに軟骨伝導を選択枝に加える開発者も多くなってきました。
音響メーカーの方々が、発見から20年を経て、世界から認知されてきた軟骨伝導を新製品に採用していただき、従来からの気導イヤホンに勝る製品を上市していただければ幸いです。

2.音源から内耳に至る3つの音伝導経路(図1)


図1 音源から蝸牛までの3経路

従来から教科書には、音が外界から感覚器官である内耳に達する経路として気導経路と500年前に発見された骨伝導経路の2つが記されています。2004年に細井は、気導とも骨伝導とも異なる第3の音伝導経路を発見し、日本名「軟骨伝導」、英語名”cartilage conduction”と命名しました。この新しい経路が加わったことにより、外耳道、中耳が正常な多くの人にとって、音伝導経路は以下の3つとなりました。

①気導経路:耳外部の音源から発せられた空気の疎密波が外耳道入口部を通って外耳道内に入り、中耳伝音系を通過して内耳に達する経路です。頭蓋骨の振動は不要です。

②骨伝導経路:頭蓋骨に与えられた振動が頭蓋骨内を伝播して内耳に達する経路です。頭蓋骨の振動が必須です。

③軟骨伝導経路:耳軟骨に与えられた振動が外耳道軟骨を振動させ、その振動によって外耳道内に気導音(空気の疎密波)を生成し、その気導音が中耳伝音系を通過して内耳に達する経路です。頭蓋骨の振動は不要です。


図2 音伝導の3経路

(注)
・自然界では、音を聞くすべての場合において、上記3経路からの音伝導があり、純粋気導も純粋骨導も純粋軟骨伝導も存在しません。従って、その寄与度によって気導、骨伝導、軟骨伝導を区別することになります。
・図3中の点線は、振動子を外耳道入口部に近接させるが耳軟骨には触れていない条件、実線は振動子が耳軟骨に触れた条件の外耳道内音圧の周波数特性です。振動子を耳軟骨に接触させると3kHz以下で平均約30dB、500Hz付近では50dBもの音圧上昇を外耳道内に認め、自覚的には接触した瞬間に音が非常に大きくなることを感じます。この接触条件と非接触条件の差が軟骨伝導音です。


図3 接触条件、非接触条件における外耳道内音圧レベル
参考文献[2]のFig.6の和訳)

3.軟骨伝導に適した振動子の位置

軟骨伝導によって外耳道内に音を生成するためには、筒状の外耳道の外3分の1の軟骨部外耳道の外縁を振動させる必要があります。(ちなみに内3分の2は骨部外耳道で、頭蓋骨の一部で形成されています。)図4に、軟骨伝導振動子の3つの装着位置を示します。この部分には軟骨のみが存在し骨は存在しませんから、骨伝導は生じません。


図4 軟骨伝導イヤホン3種類の装着位置

3つの位置とは、
(1)耳甲介腔:外耳道開口部の外下の位置にくぼみがあります。この部位を耳甲介腔と言います。この部位に軟骨伝導振動子を置く利点は、軟骨部外耳道外縁の全周を振動させることにより軟骨伝導が最も効率よく起こること、従って最も聞きやすい場所と言えます。また、イヤホンの固定がしやすいことが挙げられます。
振動子本体または蓋付きの振動子によって、外耳道を閉鎖すると、外耳道閉鎖効果が働いて、音量を非常に大きくすることができます。このとき、外耳道は閉鎖されていますので、外部からの雑音が遮断されることと、内部音である軟骨伝導音が大きくなることの2つが相まってS/Nが瞬時に大きく改善されます。一時的にS/Nを改善したい場合は、手で押さえて外耳道を閉鎖しても同様の効果が得られます。

(2)耳珠:耳の前の突起を耳珠と言います。この部位を振動させると軟骨部外耳道に振動が伝わり、外耳道内に気導音が生成されます。この部位の利点は、押圧を変えることによって音量を変更することができます。スマートフォンなど手で保持する音響機器においては、ボリュームツマミで操作しなくても、手加減で一瞬にして音量を増減できます。上記の外耳道閉鎖効果は、特別な操作をしなくても、耳珠を押し込むだけで得られます。

(3)耳介裏:耳介の裏から耳介軟骨を介して軟骨部外耳道に振動を与えることにより、気導音が外耳道内に生成されます。この場所の利点は、耳穴周辺に振動子などの機器が配置されていないので、他人から見て、イヤホンなどによって音を聞いていることがわかりません。補聴器や集音器では他人から使用していることを見られることを嫌う人がいますが、このような方に最適です。また、スマートグラスにおける音の提供に関してこの位置に振動子を置く軟骨伝導が最も優れています。スマートグラスの音を提供する条件として、①音漏れなく隣の人に迷惑をかけない。②ステレオで聞ける。(骨伝導はステレオで聞けない。)③眼鏡をかけるだけで特別な操作をしなくてもそのまま聞こえる。の3点が挙げられます。軟骨伝導が最も適しているといえます。
ただ、耳甲介腔や耳珠に比較して、外耳道内に生成される音の音圧が低いことがありますので、音圧確保の工夫が必要です。

4. 骨伝導イヤホンに対する軟骨伝導イヤホンの優位性(表1)

表1

軟骨伝導は骨伝導の利点をすべて持っており、以下に示すようにすべての項目において軟骨伝導が勝っています。

①振動子による圧迫
骨伝導では、頭蓋骨を振動させるために、骨伝導振動子を頭蓋骨に圧着させる必要があります。圧着が十分でないと、振動子から頭蓋骨に振動が伝わりません。軟骨伝導では、耳軟骨に軟骨伝導振動子を軽く接触させるだけで、軟骨は振動します。骨伝導振動子の圧着による痛みはありません。

②消費電力
骨伝導では、頭蓋骨を振動させるのに大きな消費電力が必要です。軟骨伝導では、耳軟骨のみを振動させますので、消費電力が小さくて済みます。

③音もれ
骨伝導振動子は頭蓋骨を振動させるために、出力が大きく、周囲の空気を振動させて音漏れが生じます。軟骨伝導は、出力が小さいので、音漏れによって周囲の人に聞かれたり、周囲の人に迷惑をかけることが少ないといえます。

④両耳聴効果 (ステレオ感等)
両耳で聞くことによって可能となる両耳聴効果には以下のものがあります。方向知覚、距離知覚、音像定位、両耳加算、カクテルパーティー効果などです。両耳聴効果が得られるためには、左耳に入った音は左の蝸牛で、右耳に入った音は右の蝸牛で別々に処理され、その間に位相差と音量差が必要です。骨伝導においては、頭蓋骨の左右に2つの振動子をあてても、頭蓋骨は一つですから融合した同一の波が左右の蝸牛に達しますからステレオにはなりません。

5. カナル型(耳閉鎖型)気導イヤホンに対する軟骨伝導イヤホンの優位性(表2)

表2

①清潔
気導イヤホンには音の出る穴がありますので、穴の中に耳垢など不潔物が滞留します。軟骨伝導イヤホンには、音が出る穴がなく、表面平滑ですから、不潔物が滞留することはなく、アルコール等で完全に清潔を保つことができます。

②外耳道の病気の心配がない。
カナル型イヤホンは皮膚の薄い外耳道内に挿入し外耳道皮膚を損傷することがありますが、軟骨伝導イヤホンは外耳道内に入れないので、外耳道炎や外耳道真菌症の原因になることはありません。

③耳のつまり感がない
カナル型イヤホンでは、外耳道内に挿入するため、不愉快な耳閉感が生じますが、軟骨伝導イヤホンは外耳道内に挿入しないため、耳閉感は生じません。

④周囲の音が聞ける
イヤホンを使用する場合、周囲の音を聞かずにイヤホンからの音に没入する場合と、周囲の音を聞く必要がある場合の二つがあります。没入する場合は、カナル型イヤホンを両耳に装用するのが良いと思います。周囲の音を聞く必要がある場合は、両耳にカナル型イヤホンを装用することはできません。片耳装用になりますので、両耳聴効果(音源定位、方向感、距離感、両耳加算効果、カクテルパーティー効果など)は無くなります。軟骨伝導イヤホンですと、これらの両耳聴効果を得ることができます。

⑤食事時の咀嚼音が響かない
カナル型イヤホンを装用したまま食事をすると咀嚼音が響いて不愉快です。テレビや会話を楽しみながら食事ができません。軟骨伝導イヤホンは咀嚼音が響きません。

⑥水中でステレオでの音楽、音声の聴取が可能
気導イヤホンは水中で使用できませんし、骨伝導はステレオになりません。軟骨伝導によってはじめて水中でステレオで音楽を楽しむことができるようになりました。

⑦耳ツボ刺激効果がある
軟骨伝導イヤホンによって音を聞くと、同時に耳ツボに振動が与えられます。

⑧耳裏からの音入力が可能
耳裏から外耳道軟骨を振動させても、外耳道内に音が生成されます。

⑨審美性が良い
気導イヤホンのように音が出る穴が不要なので、真球形などきれいな形にすることができます。

7. オープンイヤー型(耳開放型)イヤホンに対する軟骨伝導イヤホンの優位性(表3)

表3

①清潔
軟骨伝導イヤホンは穴や凹凸がなく完全に清潔を保てます。

②音漏れが小さい
代表的な耳開放型のイヤホンと軟骨伝導イヤホンの音漏れの比較実験において、軟骨伝導イヤホンの方が12dB音漏れが少ない結果を得ました。[参考文献3, 参考文献4]

③低音域の音圧が保たれる
外耳道開放によって低域の音圧が減少しますが、軟骨伝導イヤホンの方が減少が小さいことが実験的に示されています。[参考文献4]

④騒音下での対策が可能
外耳道を開放するタイプのイヤホンにおいては、騒音下での聞き取りが悪くなりますが、軟骨伝導イヤホンでは、耳栓や手で外耳道を閉鎖することによって、S/Nが改善します[参考文献5]

⑤水中での聴取、⑥耳ツボ刺激効果、⑦耳裏からの音入力、⑧審美性
上記カナル型との比較と同様です。

8. 軟骨伝導が切り開く音響の新ジャンル

1)ステレオで「水中音楽」を楽しむ(図5)


図5 全く新しい音楽ジャンル「水中音楽鑑賞」
軟骨伝導イヤホンによって初めて水中でステレオ音楽を楽しむことができるようになりました。

これまでは水中においてステレオで音楽を楽しむことはできませんでした。気導イヤホンはすべて使用できません。骨伝導イヤホンはステレオになりません。軟骨伝導を利用すれば、耳の中に水を入れた状態で、ステレオ音楽を楽しむことができます。ここで重要なことは、空中で聞く音楽と異なる音楽を聞けることです。水中では、音量も周波数特性も変化します。軟骨伝導イヤホンではこの変化を楽しむことができます。現時点で水中音楽を実際に体験した人は世界で7人しかいません。「水中音楽鑑賞」という新しいジャンルを世界に広げたいと思っています。

(注)
水中でステレオの音楽を聞く機器は以前からありました。しかし、これは耳穴をタイトにイヤホンで閉鎖し耳穴に水が入らないようにして聞くものです。イヤホンと鼓膜の間は水ではなく空気ですので、聞いている音は空気中で聞いている音と同じです。通常の水泳や潜水の時の状態、つまり外耳道内に水をいれた状態で聞く「水中音楽」ではありません。軟骨伝導によってはじめて可能になった「水中ステレオ音」は「空気中の音」と異なる音です。多くの人にこの異なる音を体験していただきたいと思っています。

2)サウンドジュエリー(図6)


図6 サウンドジュエリー
宝石で音を聞くことが実現します。

気導イヤホンには音を出す穴があり、耳に固定するために凹凸があります。つまりイヤホンの形をしている必要があります。軟骨伝導イヤホンは穴は不要で、形も球形やディスク形など自在に設計できます。真珠や金の珠のような通常の宝飾品の形でありながら、その珠から音が聞こえる「サウンドジュエリー」が実現します。

3)窓口用軟骨伝導イヤホン(図7)


図7 窓口用軟骨伝導イヤホン

金融機関や役所の窓口には、高齢者のために老眼鏡が用意されています。しかし、難聴の方のためには何の用意もありませんでした。スピーカーを使えば隣の人に聞こえます。通常のイヤホンは音の出る穴の中に前に使用した人の不潔物が付着し清潔が保てません。軟骨伝導イヤホンは穴や凹凸がなく完全な清潔が可能です。この特質を生かして、世界で初めての窓口用軟骨伝導イヤホンが誕生しました。2024年7月時点で全国の230以上の団体の本支店(所)に配備されて、高齢者が生き生きと活躍できる社会の実現に貢献しています。

4)軟骨伝導イヤホンによる耳ツボの刺激(図8)

耳ツボの刺激効果として、疼痛の緩和、不安・ストレスの軽減、禁煙・減量の補助、睡眠改善、血圧の調整などが報告されています。耳ツボの刺激方法として、指圧、耳ツボ針、耳ツボ球、マッサージ、電気刺激などがあります。第74回日本東洋医学会の特別講演「軟骨伝導の東洋医学への応用」において、軟骨伝導でピンクノイズの印加により左片麻痺に伴う手指の巧緻運動障害が改善された例が報告されました[参考文献6]。振動を軟骨に与える軟骨伝導イヤホンによって、楽しく音楽を聞きながら耳ツボを刺激する新しい可能性が示唆されました。

5)両耳装用インカム(図9)


図9 インカム片耳装用による騒音性難聴の可能性

従来からのインカムは、片耳にイヤホンを挿入して通信音を聞き、もう一方の耳で周囲の音を聞いて状況を判断したり、会話をしていました。これでは、人が固有に持つ両耳聴効果が発揮できません。方向知覚、距離知覚がないので、警護官は暴漢が来る方向も距離も把握できません。車が来ても自分との位置関係が把握できません。また、両耳加算効果が働かないので、特に騒音環境下では音量を大きくする必要があり、騒音性難聴の原因になっています。軟骨伝導は両耳を開放したまま使用できるので、すべての両耳聴効果が働き、周囲の状況を完全に把握できるだけでなく、片耳装用より音量を6~10dB下げることができるので使用者から騒音性難聴の危険を減らすことができます。健康経営に必要な配慮です。

6)軟骨伝導集団音響システム

軟骨伝導音を体験するためには、軟骨伝導振動子(イヤホン)を試聴する人個々人の耳珠、耳甲介腔、耳介裏などに接触させなければなりません。多くの人が一挙に体験する方法として、「軟骨伝導集団音響システム」が開発されました。個人用より大型の軟骨伝導振動体を床に置き、音情報を含む振動を床に与えます。床に耳介を接触させることにより、それぞれの人の耳軟骨が振動し、それぞれの人の外耳道内に音を生成します。このシステムは犬伏、細井によって科学教育の現場で利用されています。

7)スマートフォン -音量調節、S/N調節が瞬時にでき、騒音下でも聞き取り易い-(図10)


図10 軟骨伝導スマートフォン

電車のプラットホームでスマートフォンで話しをしていた時、電車が入ってきたら音量を上げる必要があります。軟骨伝導スマートフォンなら、ボリュームツマミを操作しなくても、耳珠側に押すだけで音量が上がり、強く押し込んで外耳道を閉鎖するとS/Nが瞬時に改善します。電車が通り過ぎると瞬時に元の音量に戻せます。この間、ボリュームツマミの操作は必要ありません。

8)スマートグラス、メガネ型音響機器(図11)


図11 スマートグラス、メガネ型音響機器

軟骨伝導は、外耳道軟骨を振動させて外耳道内に音を生成するメカニズムなので耳裏から振動を加えることも可能です。音漏れがない、ステレオで聞ける、メガネをかけるだけで聞ける、この特徴は今後大きなマーケットになるゴーグル型などのスマートグラスの音を担当する機構の主流になると思われます。

9. 認知度の向上

1)軟骨伝導に関する国会審議

参議院の予算委員会(2024年3月15日)では、岸田首相、齋藤経産大臣が、衆議院の厚生労働委員会(2024年3月29日)では武見厚労大臣が軟骨伝導イヤホンを高く評価されました。

2)2025年大阪・関西万博に軟骨伝導導入決定

2024年5月14日、パソナグループパビリオンに軟骨伝導技術を活用した両耳聴取によるスタッフ用インカムと、来場者向けのガイド用インカムの導入が記者発表されました。また、大阪ヘルケアパビリオンにおいて、CCHサウンド社が未来の軟骨伝導製品を展示します。

3)受賞

軟骨伝導に関連して、2023年度の「音の匠」(日本オーディオ協会)、「ミュージックペンクラブ音楽賞」を受賞。さらに「Sustainable Growth Company Award 2024」(船井総研)の受賞が決まりました。

10. CCHサウンド社

-日本発の軟骨伝導を世界に普及させるために設立-

株式会社CCHサウンドは、2019年に設立されたベンチャー企業です。その設立目的は、2004年に発見された「軟骨伝導」を音響機器として世界の人々に提供することです。世界の7カ国(日本、アメリカ、EU、韓国、台湾、中国、香港)に100件超の特許を登録しています。軟骨伝導に関する世界の特許の大部分を保有していると言えます。また、軟骨伝導専用の振動子を開発し発売中です。この振動子はその性能に高い評価を得ています[参考文献7]。オーディオテクニカ社やTRA社から軟骨伝導製品が発売されていますが、それらの製品のパッケージには「CCH軟骨伝導」のロゴが表示され、CCHサウンド社からの特許の許諾を得た製品であることが明示されています。
(参考)https://cch-sound.co.jp/

11.おわりに

軟骨伝導は日本の発見です。発見以後は学問的研究が進み現在世界で”cartilage conduction”の論文が40編以上掲載されています。学問的には「第3の聴覚」として世界に認められました。発見から20年が経過し、次は製品化の段階です。スマートフォン、スマートグラス、インカム、水中音楽、補聴器など、どれをとっても極めて大きなマーケットが控えています。海外のメーカーも軟骨伝導に注目し、CCHサウンド社に問い合わせが増えてきました。私たちは日本で生まれ、日本で育った「軟骨伝導」を世界で花咲かせたいと思っています。音響メーカーの皆様におかれましては、この新しい聴覚メカニズムを応用した新製品の開発をお願い申し上げます。軟骨伝導採用の第1歩は「軟骨伝導音」を試聴していただくことです。試聴を含めた新製品開発のご相談はCCHサウンド社までお気軽にお問い合わせください。
https://cch-sound.co.jp/contact

参考文献

執筆者プロフィール

細井裕司(ほそい ひろし)
奈良県立医科大学卒業後、近畿大学医学部助教授、奈良県立医科大学耳鼻咽喉・頭頸部外科学講座教授を経て、2014年から奈良県立医科大学理事長・学長。専門は聴覚医学、臨床耳科学、MBT(医学を基礎とするまちづくり)。2004年に軟骨伝導を発見し、現在26編の軟骨伝導の論文を国際誌に掲載している。
中川雅永(なかがわ まさのり)
1956年7月17日生まれ。京都大学農学部卒業後、(独法)UR都市機構西日本支社副支社長、(公財)関西文化学術研究都市推進機構常務理事を経て、2023年6月より株式会社CCHサウンド代表取締役社長。京都府助言役を2021年5月から務めている。