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JASジャーナル目次
2024summer
OTOTEN2024開催報告
日本オーディオ協会 事務局 八木真人
6/22、23に東京国際フォーラムガラス棟にて「OTOTEN2024」を開催いたしました。来場者6,179人(前年比142%)、特に40歳未満に若い世代の来場が2,124人、構成比34%と、2022年にOTOTENを再開して以降、順調に来場者数を伸ばしており、ようやく若い世代も多く来場されたことを、今後のOTOTENに向けて弾みにしていきたいと考えております。若い人たちがたくさんいることで雰囲気が明るくなり、またオーディオの楽しさを知るきっかけとして興味深く巡り歩いてくれたことで、オーディオの未来が見えてくるイベントとなりました。主催者と代表しても出展企業の皆様、関係者の皆様、そして来場された皆様に深く感謝申し上げる次第です。ありがとうございました。
1. オーディオ・人・楽しみ方、多様性に対応するOTOTEN
OTOTENは、オーディオの多様化する現代に適応し、オーソドックスな試聴スタイルも含めて様々なカテゴリ製品との出会いやライフスタイルの体験を一度に楽しめる「多角的総合オーディオイベント」として開催しております。また、会場向かう時から各ブースで音を聴くまでワクワクドキドキ、一日中楽しめるお祭りのような雰囲気も演出しております。今年のOTOTENは、OTOTENをまったく知らなかった人たちを招いて、オーディオの楽しさをあらゆる世代に体験していいただき、新しいオーディオファンになってもらうことに一層注力しました。これは日本オーディオ協会としての大変重要なミッションと考えております。OTOTEN2024の取組を以下に紹介してまいります。
2. 新しいファンを招き活気あるイベントへ
2-1. キービジュアルはイベントの顔
2-1. キービジュアルはイベントの顔
イヤホン・ヘッドホンで音楽を楽しむ若い人たちに話を聞いてみると、OTOTENは大人の展示会という敷居の高さを感じており、なかなか近寄りづらいイメージが浮き上がってきました。一方で彼らはスピーカーにも関心がないわけではないとも聞いております。このようなイメージは業界が健全に発展していく上での課題であると認識し、あらゆる世代の方にオーディオを楽しんでもらいたいというメッセージを、昨年より、イヤホン、ヘッドホンファンに馴染みのあるイラストレーターの協力を得てキービジュアルで表現しております。今年は、人気イラストレーターのpopman3580氏に制作を依頼しました。昨今、自らの声や演奏をオンラインで発信する若い人も増えていることから、マイクで配信するイメージも表現しました。
このキービジュアルを使ってイベント会場の雰囲気を刷新しました。具体的にはエントランスを明るく開放感のある雰囲気にし、OTOTENに訪れた来場者がまずエントランスで楽しくワクワクするような演出をしました。退場時にはこのキービジュアルのポスターやクリアファイルがプレゼントされ、帰宅後にもイベントの楽しかった思い出が手元に残るようにしました。
2-2. VTuberをきっかけに新しいファン作り
VTuber AZKiさんとのコラボレーションを実施しました。
VTuber AZKiさんとの
コラボレーション配信番組
音楽は好きだけど、オーディオイベントには行ったことがない、OTOTENを知らない人はたくさんいます。そのような人に人気VTuberで、歌手でもあるAZKiさんを通じて、オーディオの楽しさやOTOTENの存在を広めてもらうライブ配信を行いました。このライブ配信の番組制作にあたっては、OTOTENの出展社が提案する様々な音を聴き比べて、自分の好きな音を見つけて欲しい!その見つけたオーディオで好きな音楽を楽しむと、もっと音楽生活が楽しくなるよ!というメッセージを強く発信してもらいました。またオーディオは難しいというイメージをできる限り取り払い、基本的なオーディオの知識をクイズ形式で行うこともしました。そのおかげもあり、AZKiさんとホロライブ新人スタッフVTuberの春先のどかさんが、自ら今日の配信は楽しかった!と語られ、多くのファンの共感が得られ、ライブ配信は7千人以上、アーカイブ配信は約6万人の方々に視聴されました。また、OTOTEN会場にはAZKiさんのファンの方がAZKiさんの楽曲を楽しめる試聴ブースを設置し、AZKiさんの等身大パネルやグッズなどで飾り付けをしました。
ライブ配信を視聴し来場されたAZKiさんファンの多くは、この試聴ブースだけでなく、他の出展ブースにも足を運び、“自分の好きな音を探す”という楽しみ方もされていました。AZKiさんのファンネームを“開拓者”と呼ぶのですが、AZKiさんがきっかけでOTOTENに来られた方々は、自分の好きな音を開拓する楽しみ方をしておられました。VTuberのファンの皆様はロイヤリティが高いと聞いておりましたが、AZKiさんに共感し、OTOTENを楽しんでもらい、新たなオーディオのファンになるという流れが作れたことは、大きな成果だったと感じており、AZKiさんには本当に感謝しております。
AZKiさんとのコラボレーションではSNSを中心とした広報活動を行ったことから、イベント開催前よりOTOTENを話題にしたコミュニケーションが活発に行われ、当日も多くのSNS投稿がありました。来場者が会場で音を楽しむ他に、会場の外でもSNSで感想を述べあうという現代的コミュニケーションは、OTOTENの楽しみ方の幅を広げることにも繋がったと感じております。
2-3. 扉を開けてさらに活気あるイベントに
キービジュアルによる演出以外にも、OTOTEN2024の空間演出は、今年も出展社各社に協力をいただき、ガラス棟の廊下をロールバナーなどで華やかに飾り付けしていただきました。さらに今年は個室のドアを開放し、中の様子が分かると同時に、音に吸い寄せられて気軽に部屋に入れる取り組みを実施しました。これまでガラス棟個室ブースは、音を集中して聴いていただくためにドアの開放を行ってきませんでしたが、それゆえ、中の様子が分からないだけでなく、部屋に入ることに抵抗感があるものでした。以前、若い人から「個室のドアを開けるのはとても勇気がいる」というコメントをもらったことがあります。この抵抗感は若い人だけでなく、多くのOTOTEN来場者が抱えるストレスだと分かり、今年から個室ブースについてはドアの開放を強くお願いしました。結果、室内で何が行われているか分かりやすくなり、気軽に部屋に立ち寄れるようになると共に、多くの方が集まる活気ある雰囲気が生まれました。
3. OTOTENだから味わえる多様な音体験
冒頭に記述しました通り、OTOTENは特定のカテゴリに偏ることなく、様々な試聴スタイル、楽曲、カテゴリを体験することで、新しい発見や音の楽しさに対応できる「多角的総合オーディオイベント」を目指しております。これは、多様な価値を感じていただいたり、あらゆる用途、楽しみ方を、老若男女が入り混じり、様々なブースを自由に訪れて、自分の好きな音を探したり、「いつかこんなオーディオで音楽を楽しみたい」と夢見ていただきたいからです。今年も様々な出展社から興味深い提案がされました。一部にはなりますがご紹介します。
3-1. カーオーディオ
個性あふれるデモカーが今年は4台並び、大変盛況なエリアとなりました。常に試聴を希望する人が並ぶと共に、デモカーの写真を撮る人で常ににぎわっていました。OTOTENはホームオーディオのイベントのイメージがありますが、アンケートから来場者の半数の人が自家用車を保有していることが分かり、カーオーディオエリアの人気の理由が分かります。
3-2. 制作・録音・配信系オーディオ
自らライブ配信を行い、良い音で配信し、良い音で聴いてもらおうという新しいオーディオの楽しみ方に対応すべく、制作、録音、配信用オーディオ機器を取り扱う企業にもご出展いただき、オーディオの楽しみ方の幅を広げる提案を、昨年のOTOTENから行っております。どのブースでもマイクを試されたり、モニターヘッドホンを試聴されたりなど、若い人を中心にどの出展ブースでも大変な人気でした。
3-3. 技術提案・用途提案
最新の技術やソリューションの提案を行う企業にもご出展いただき、オーディオの可能性や未来を体感していただく機会は、業界の発展にとってとても重要なことと考えております。発売前の製品を始め、ソフトやアプリ技術、モジュール提案など、OTOTEN2024では様々な技術提案、用途の紹介が行われました。OTOTENにはオーディオ業界関係者が毎年大勢来場されておりますが、今年は来場者と出展社を含めると1,000名を超す業界関係者が集い、新しいビジネスネットワークの構築や、自社技術のブランディングを広められる絶好の機会として、各社熱心なプレゼンテーションが常に行われ、各ブースは熱気に包まれていました。
3-4. デスクトップオーディオ、ポータブルオーディオ、ピュアオーディオ
イヤホン・ヘッドホン、デスクトップオーディオ、ピュアオーディオなどのカテゴリはどこのブースも盛況で、部屋に入り切れないブースも多数ありました。音をしっかりと堪能される方、技術的な質問をされる方、自分の好みの音を探し周遊される方、OTOTENを存分に楽しむ方々で会場は常ににぎわっていました。
4. セミナーの数々
毎年OTOTENを楽しみにされている来場者の中には、セミナーの参加を心待ちにされている方々がたくさんいらっしゃいます。例年通り、出版社セミナーにはたくさんの方々が参加されていましたし、学生向けセミナーもいつも満席の状態でした。今年は、日本オーディオ協会も主催団体となっている「日本プロ音楽録音賞(プロ録)」が30回目の開催となりますので、日本音楽スタジオ協会の名誉会長である内沼映二氏と前会長の高田英男氏による記念の講演が行われました。30年という月日の中においては、メディアやフォーマットの変遷などがあり、その中でエンジニアの皆さんが工夫されてきた音楽制作の移り変わりを振り返るという貴重なお話が聞けました。
また、日本オーディオ協会が主催しております「学生の制作する音楽録音作品コンテスト(ReC♪ST)」も、今年10回目の開催ということで、こちらは共催しておりますAES日本学生支部による作品紹介が行われました。第6回のコンテストの最優秀賞を受賞された田中克さん、元審査員の深田晃さんを迎えてのトークショーも開催されました。
「ReC♪ST」10回目の開催を記念して、
過去の受賞作品を聴く
5. データからみたOTOTEN2024
今年のOTOTEN来場者数は、前年比142%、6,179名となりました。全世代で前年以上の方が来場され、特に39歳以下の若い世代は前年比231%、2,124名の方が来場されました。冒頭にも記したように、若い方々がたくさんいることで会場の雰囲気が明るくなり、オーディオの未来が見えてくるイベントとなりました。協会が目指す「あらゆる世代にオーディオの楽しさを知ってもらう」イベントになったと思います。他にも、今回の特筆すべきデータを紹介してまいります。
来場者数6,179名(対前年+1,842名、+142%)
男性5,341名(対前年+1,551名)
女性718名(対前年+237名)
平均年齢47歳(対前年▲5歳、54歳以下61%、39歳以下35%)
39歳以下の来場者数2,124名(対前年231%、+1,205名)
今年は約半数の方がOTOTENに初来場されました。特にAZKiさん効果によって、39歳以下の初来場が非常に大きく伸びたことが、目に見えてご理解いただけると思います。また、2回以上OTOTENに参加したことがあるリピーターも2,500名近くが来場され(対前年108%)、新規のファンとリピーターの双方で伸長しました。
今回、OTOTENに来た来場者の滞在時間について分析を行いました。平均滞在時間は約3時間ですが、1~2時間と5時間以上滞在されるという2つの滞在時間のパターンが多く、どちらかというと初来場の方が短い時間、リピーターになるほど長く滞在されております。初めてOTOTENに参加した人でも長く楽しめるようにしていく工夫が必要なことが分かりました。
6. OTOTEN2025に向けて
今年のOTOTENでは、台湾から鹿港音響(Lu Kang Audio)が、中国からEDIFIRE、SHANLINGやWiiMを扱うMUSINが初出展されました。このように海外のオーディオメーカーが日本でオーディオ製品の提案をしたいという架け橋として、OTOTENが今後その役割を果たしていくことも重要なことであると考えます。
OTOTENに初めて来場した人にまた来ていただけるような仕掛けが重要です。初来場者のアンケートには、「いろいろなオーディオが聴けてとてもよかった」「オーディオに興味が持てた」など、OTOTENをきっかけにオーディオの楽しさに気づいてもらえた方の意見が多数でしたが、一方で「初心者には敷居が高く感じた」「出展社の説明が難しく、何を参考にしていいか分からなかった」という意見も頂いております。新しいオーディオファンを増やすことはオーディオにあまり詳しくない方が多数来場されるということです。将来のオーディオファンを創っていくことは業界の発展に不可欠であり、分かりやすいイベントの紹介や会場案内など、ユーザーインターフェースも改善していく必要があると考えています。
また、広報活動も今回は一定の成果がありましたが、オーディオに興味を持ってもらう仕掛けを次年度以降も発展させる必要があります。今年得られた知見をさらに深め、オーディオの楽しさをあらゆる世代に体験していただき、ワクワクしてもらえるようなOTOTENにするために、出展社の皆様、協会会員の皆様と共に、より良いOTOTENにして参ります。引き続き、ご理解ご協力をよろしくお願いいたします。