2024spring

ホームシアターに第三の革命を!
JBLが挑戦した新たなオーディオの可能性

ハーマンインターナショナル株式会社
マーケティング部シニアマネージャー
 濱田直樹

概要

スマートフォンが普及し、完全ワイヤレスイヤホンが最も身近な「オーディオ」となった現代において、「スピーカーで音を楽しむ」というスタイルにもはや未来はないのでしょうか。75年を超える歴史の中で挑戦を続けるJBLが2022年末に発売した革新的なホームシアターシステム「BAR 1000」は、クラウドファンディングで支援金額1億円以上を集め、多くの権威ある賞を受賞するだけでなく、連日テレビや雑誌で取り上げられる文字通り話題沸騰のプロダクトとなりました。ここではJBLが挑戦した「オーディオの明るい未来」の可能性についてお話しします。

1. ホームシアターに第三の革命を

まずはホームシアターの歴史について簡単に説明します。

ホームシアターという言葉1990年代にアメリカから生まれ、DVDの普及に伴い一気に全世界で市民権を獲得しました。当初の一般的な「ホームシアターシステム」は「AVアンプ」と「5.1chスピーカー」を組み合わせたものでした。やがて、2000年代ごろからブラウン管テレビから液晶テレビへの移行がはじまり、テレビの薄型化に伴い大型のアンプや仰々しいフロア型スピーカーが疎まれるようになり、その代わりにスピーカーとアンプを一体化した「サウンドバー」が台頭し、「2つ目の大きな波」となりました。また昨今では、リビングルームのトレンドが「より広い居住空間」となり、さらにスマートフォンとタブレットの誕生によりエンターテインメントの中心が「テレビを家族で楽しむ」から「それぞれの端末で個別に楽しむ」というように変化し、より一層サウンドバーの小型化・スリム化が進んでいる状況でした。

サウンドバーが手軽さを追求するなか、映画館のサウンドは「イマーシブ化」の道を着実に進め、家庭で楽しむブルーレイディスクやビデオストリーミングにおいても簡単に高品質なコンテンツを入手できる環境も整いました。

そんな中、「BAR 1000」が目指したのは、現代のリビングに求められる「設置性」を妥協することなく、映画館の最高峰のサラウンドサウンドを楽しめる「クオリティ」の両立でした。そこで生まれたのが革新的な「完全ワイヤレスリアスピーカー」で、最新のイマーシブオーディオに対応した7.1.4chを圧倒的な設置性を両立させながら実現しています。
私たちはこれをこれまでのホームシアターシステムやサウンドバーと区別するために「完全ワイヤレスサラウンドシステム」と命名しました。これがまさに第三の革命です。その最大の特長は何と言っても充電式バッテリー搭載によりスピーカーケーブルも電源ケーブルも一切不要の「完全ワイヤレス」リアスピーカーです。

映画をたっぷり楽しみたい休日の夜に2つの充電式ワイヤレスサラウンドスピーカーを背後に設置するだけで、瞬く間に究極のシアター空間が誕生。

またWi-FiやBluetoothで音楽ストリーミングを楽しんだり、サラウンド効果を必要としないニュースやバラエティ番組を視聴するときには、無理にサラウンドスピーカーを背後に設置する必要はなく、サウンドバーに装着したままでも本格的なサウンドを楽しむことができます。リアスピーカーは常設する時代から、「使う時だけ置くスタイル」へ。JBLが提案する新しいサラウンドシステムのかたちです。

2. リビングが最高峰のシアタールームに早変わり

今、家庭で楽しめる最高のサラウンド「イマーシブオーディオ(没入型の3Dサラウンドサウンド)」を7.1.4chで再現するためには床に7個のスピーカーと1個のサブウーファー、そして天井に4個のスピーカーの合計12個のスピーカーが必要です。

その圧倒的なサウンドは、一度聴くと虜になること間違いなしですが、設置のためのハードルはとても高いのが実際のリビングルームの現実ではないでしょうか。

さらにスピーカーをアンプと接続するためには同じ数のスピーカーケーブルが必要になるわけですからホームシアター専用ルームを作ることができる人以外には実現不可能に思えます。

「BAR 1000」は画期的な完全ワイヤレスサラウンドシステムで、これらの問題をスマートに解決します。

リスニングポジションの周囲に必要な7個のスピーカーは、充電式のワイヤレススピーカーとJBL独自のMultiBeam技術を組み合わせることで前方に1個、後方にワイヤレススピーカーを2個置くだけで再現。また、天井スピーカーの代わりに、天井の反射を利用する「イネーブルドスピーカー」を前方に2基とリアスピーカーにも2基の合計4基搭載することで、上方からの音楽信号(ハイトチャンネル)もしっかりと天井から降り注ぎます。

わずらわしいスピーカーケーブルなどを這わせることなく、自宅のリビングでもDolby AtmosやDTS:Xがもたらす立体音響空間を作りだすことが可能なのです。

3. 合計15基のスピーカードライバーが実現する空前絶後の7.1.4chサウンドバー

JBLの最大の特長は何と言っても、「スピーカーメーカー=スピーカードライバーを設計できるブランド」であることです。JBLではハイエンド用のスピーカーや映画館で使用されるプロフェッショナル向けスピーカー同様、BAR 1000においても自社で設計したスピーカードライバーを採用しています。

サウンドバーの限られた筐体スペースの中に10基ものスピーカーを配備し、それでいて最高のサウンドパフォーマンスを実現するためには高度なスピーカー設計と緻密な筐体設計が必要です。スピーカーを知り尽くしたJBLのエンジニアだから成し得た奇跡のようなスピーカーシステムなのです。

そして、Dolby Atmos対応サウンドバーの多くが、「バーチャルハイト」といういわば耳の錯覚を利用して高さ方向の再現を行う中、BAR 1000では天井の反射を利用する「イネーブルドスピーカー」方式を採用しています。また、前方だけでなく、後方にもハイトスピーカーを装備することにより、天井全体にドーム状の音のキャンバスが広がります。

また、音のビームを放射する「ビームフォーミングスピーカー」が部屋の壁を反射してリスニングポジションに側面から音を届けます。前方のサウンドバーと後方のワイヤレススピーカーの間を音のビームが満たし、全方位抜け目のないサラウンド空間を形成します。

最後に重低音用として、300Wのハイパワーアンプを搭載した大口径25cm径ワイヤレスサブウーファーがセットで付属しています。正確でキレのある重低音は、アクションシーンに興奮をもたらし、音楽に感情をもたらします。

こうして合計15基のスピーカーによって、映画館さながらの没入感の高いサラウンド環境を実現しています。

4. 必要な時だけ設置!脱着式ワイヤレスサラウンドスピーカー

ワイヤレスサラウンドスピーカーをサウンドバーから取り外し、ソファの後ろに置く。たったそれだけのアクションで、リビングルームのソファはあっという間にプレミアムシアターのVIPシートに早変わりです。

低遅延の2.4GHzワイヤレス伝送技術によりその他のチャンネルとの遅延は無く滑らかな音のつながりを実現しています。また内蔵充電池は約3,200mAhの大容量タイプなので、およそ10時間の連続使用が可能、映画4~5本の鑑賞が可能です(映画の内容や再生音量等により連続使用時間は変わります)。もっと長い時間映画を楽しみたいときのために、リアスピーカーには充電用のUSB-C端子が装備されていますので、充電しながら使用することも可能です。

5. 「革新的なプロダクト」の成功に欠かせない「どう伝えるか」

BAR 1000の日本導入に際し、社内の反応は当初冷ややかでした。その理由は、「今売れているサウンドバーは小さくて薄くて安価なもの」で「ましてサブウーファー付きモデルは全体の3割以下」という市場データによって導き出されました。

しかし、イチ映画ファンの40代としては、「これこそが今まさにちょうどいい理想のホームシアターだ」と強く感じ、文字通り世の中を変えるくらいの力があるプロダクトだとすら感じました。一方で、「進歩的すぎて、普通の人には自分事化してもらえないかもしれない」という危惧も感じました。

私が行きついた答えは「クラウドファンディングで民意を問う」というものでした。クラウドファンディングに限らず、現代は様々な方法で「お客様に直接意見を聞く」ということが可能になっています。

ふたを開けて見れば「BAR 1000」は多くの支援者様を獲得することに成功し、グリーンファンディングがその年に成功したプロジェクトに与える「Green Award 2022」の最高位「プラチナムアワード」を受賞することができました。

受賞よりもうれしかったのは、支援者の皆様からの「こんな商品を待っていました!応援しています」や「子供が生まれてホームシアターをやめてしまっていましたが、これなら置けるので20年ぶりに復活します!」と言った応援のメッセージや喜びのコメントを直接お聞きすることができたことです。

6. まとめ

「完全ワイヤレスサラウンドシステム」という日本市場に全く存在しなかったプロダクトだった「BAR 1000」はクラウドファンディング終了後、無事一般販売へとつなげることができ、2023年を代表するシアターシステムとして、当社にとっても記録的な販売実績を残すことができ、2024年に入ってもますます好調が続いています。

この経験を元に、これからオーディオ製品を企画・開発されるみなさんにぜひお伝えしたいことは、「今こそ独自性のあるプロダクトを大胆に生み出してみよう」ということです。私たちのお客様は、オーディオをお届けしている我々と同じくらい音楽や映画でワクワクするのが好きな方々です。そして、プロダクトを考える際にそれを「誰に」「どのように」伝えるかまで思いを巡らせることができたならば、必ずや最高のプロダクトを最も愛用してくださるお客様にお届けすることができるはずです。

執筆者プロフィール

濱田直樹(はまだ なおき)
2002年よりオーディオメーカーで商品企画・マーケティングに従事。2019年4月よりハーマンインターナショナル株式会社へ入社し、ホームオーディオ製品のプロダクトマーケティングを担当。2021年4月よりプロダクトマーケティング部門全体の統括マネージャーを歴任し、2024年3月よりコンシューマーオーディオ部門のマーケティング統括に就任。趣味は映画鑑賞とボルダリング。