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JASジャーナル目次
2024spring
配信スタジオ
「Studio Extreme Tokyo」の紹介
株式会社コルグ
技術開発部 LX営業グループ マネージャー
山口創司
株式会社ジーロックス G-ROKS(本社:東京都杉並区)は、2024年4月1日に最新撮影機材を揃え、「Live Extreme」に対応した配信スタジオ「Studio Extreme Tokyo」をオープンさせました。この配信スタジオの立ち上げにおいて、コルグの開発したインターネット動画配信システム「Live Extreme」を運用する中で得た経験を、しっかりと活用しましたので、そのコンセプトを紹介していきたいと思います。
※株式会社ジーロックス G-ROKSは、プロフェッショナル・アーティスト向けリハーサル・スタジオを運営する電子楽器メーカー・コルグ傘下の企業です。
配信スタジオのコンセプト
1. 本格的な音楽配信を最適な環境で行える
「最適な配信環境」とは、オーディオ・ファーストな配信をかかげるLive Extreme同様に「最適な音声ミックスができること」を第一に考えました。コロナ禍で数多くの配信現場に立ち会いましたが、直接音とは遮断された環境で音声のミックス作業ができる現場やスタジオは非常に稀でした。配信おいては、会場の音作りだけではなく、配信視聴者に向けたミックスを意識する必要があります。このミックス作業は演奏の直接音が大きい現場では遮音性の高いイン・イヤーモニターなどを使用してもなかなか難易度が高く、適切な音量でモニター・スピーカーを使用し、ミックス作業ができる現場はさらに稀でした。そこでまずは、音声ミックス、映像スイッチングを行う「コントロール・ルーム」を、スタジオからは分離するフロアプランを提案しました。
2. 少ないスタッフで撮影と配信を可能
配信制作と切っても切り離せないのが「制作費と予算」です。コロナ禍で配信が多く行われましたが、主催者の方々はやはり配信に関わる制作費に苦労している現場を多く見てきました。配信制作費の中でもやはり大きい部分は「人件費」になります。配信の映像を楽しんでもらうためには、定点カメラ1台という訳にも行かないのでやはり複数台のカメラを用意する必要があります。その中でも少人化に寄与するカメラとしては映像スイッチャー担当が手元で遠隔操作制御ができる「PTZカメラ」の導入も優先度の高い項目でした。
ただしPTZカメラは監視目的のものが多くまた、PTZカメラだけ他のカメラとの色の差や品質の差が出てしまうといった番組も多く経験していましたので、PTZに関してはフルサイズセンサー搭載、レンズ交換可能でCinema LineのPTZ「SONY FR7」を選定しました。予算構成としては珍しいのかもしれませんが、Studio Extreme Tokyo内でもっとも高額な機材のうちの一つはPTZカメラになります。これは少人化でも良い絵を作りたいというコンセプト背景に起因しています。
3. ハイレゾ音声での配信が可能
コルグの開発したインターネット動画配信システム「Live Extreme」の最大の特徴として映像4K+ハイレゾ音声に対応していることが上げられます。Studio Extreme TokyoはLive ExtremeだけでなくYouTubeをはじめとする一般的な配信でもご利用が可能ですが、やはり「Live Extreme」配信を考えると、常に4K+ハイレゾ音声が使用できるインフラを構築することがマストな条件と考えていました。
また、後述しますが、離れたスタジオ間をマルチチャンネルで楽に音声伝送できる技術としては、Dante(Audinate社が開発したネットワークオーディオ技術)が普及していますが、実は配信にも使用しやすい「Dante対応かつハイレゾ対応の小型デジタル・ミキサー」という選択肢はあまり多くありません。この条件に合致するミキサーは以下の3機種です。
- YAMAHA DM3
- TASCAM Sonicview 16
- ALLEN&HEATH SQ-5
各ミキサーを使用している現場でのヒアリング調査や各社のご協力の下、デモ機を借りての比較を行うことを経て、Studio Extreme TokyoではDM3、Sonicview 16の2機種を導入しまして、これが大いに活躍しています。
4. 立体音響配信への対応
Live Extremeはマルチチャンネルのライブ・ストリーミング配信も可能なため5.1chや7.1chのサラウンド音声としての配信のご用命も多く、またAURO-3DやDolby Atmosによる立体音響配信にも対応しております。立体音響配信コンテンツのデモやコンテンツの確認作業を可能とするために、ゲスト用ラウンジの部屋上部にはハイト・スピーカーを設置し、7.1.4chの立体音響にも対応しています。
立体音響のリアルタイム配信は、その環境準備が難易度を上げる要因の一つですが、Studio Extreme Tokyoではリアルタイムの立体音響配信も可能なスタジオです。是非、立体音響配信でのご利用もお待ちしております。
5. 配信設備のネットワーク化
ジーロックス リハーサル・スタジオはプロフェッショナル・アーティストにも数多くご利用いただいているリハーサル・スタジオでもあり、小規模なライブなども可能なスタジオです。過去にもジーロックス・スタジオからの配信を行うことはありましたが、冒頭に述べたように、演奏を行なっているスタジオからの配信はミックス作業に難があって最適な環境とはいえないため、今回のスタジオ構築においては、各ジーロックス・スタジオとStudio Extreme Tokyoのコントロール・ルーム間で映像音声の送受信が可能な環境を構築することをインフラ設計の基本コンセプトにしました。
ただし、Studio Extreme Tokyoの入るビルとジーロックス リハーサル・スタジオのビルは同一敷地内ではあるものの別棟になり、またすでに建築済みの建物のため、SDIケーブルや音声アナログ回線を引くことのできるスペース的な余裕はありませんでした。そこで映像音声のオーバーIP化が必要になります。
音声は普及率も高く機材選定の幅からDanteネットワークを採用しましたが、映像データをIPネットワークで伝送するVideo over IPに関しては一般的なスタジオでの常設採用例はまだそこまで多くなく、かつ4K配信を可能とするとさらに選択肢は狭くなります。その中で、Studio Extreme TokyoはBlackmagic Design社のIP伝送機器を選定しました。主な選定理由は以下です。
- Blackmagic Design社のIP伝送機器は映像の圧縮技術としてintoPIXによるTICO 4:1ビジュアル・ロスレス圧縮アルゴリズムを採用していること
- IPビデオ伝送のユーザー数としてはNDI(ネットワーク・デバイス・インターフェース)普及率が多いのですがNDIにくらべTICOのデータ圧縮が小さく映像が綺麗なこと
- 4K映像であっても10Gbps帯域を用意することで伝送でき、またここ数年で10Gbps対応のスイッチがアン・マネージドはもちろんのことマネージド・スイッチも比較的に安価に導入できるようになったこと
- NDIを採用している映像配信システムとしては、「TriCaster(トライキャスター)」が有名ですが、Studio Extreme Tokyoの利用者層や乗り込みエンジアの使用機材経験を考えるとBlackmagic Design社が群を抜いて高いこと
以上から、各スタジオとStudio Extreme Tokyoのコントロール・ルームは、音声はDanteネットワーク、映像はBlackmagic Design社製のBlackmagic Design Teranex Mini IP Video 12Gで構築することとしました。
このネットワークを最大限に利用した配信番組の例としては、ジーロックス スタジオでライブを行い、司会者がStudio Extreme Tokyoでライブを見ながら感想を話し、そのふたつのスタジオの映像を自由にコントロール・ルームで映像スイッチングするといった利用も可能です。
以上が「Studio Extreme Tokyo」の主なコンセプトと施策内容です。
本記事では、主に機材選定面でのコンセプトを紹介しましたが、撮影スタジオには、厳選した高品位な家具やインテリア、多様なコンテンツ制作やリピート利用においても飽きのこない演出を可能にするために、グリーンバック、背景用の白黒カーテン、カメラクレーンなども取り揃えております。配信はもとより、撮影だけでのご利用まで幅広くお使いいただけます。
皆様のご利用を心よりお待ち申し上げます。
スタジオ情報
https://www.live-extreme.net/set
執筆者プロフィール
- 山口創司(やまぐち そうし)
2021年、株式会社コルグ入社。同社技術開発部にて高音質・高画質インターネット配信技術「Live Extreme」の事業開発に従事。2024年4月より、LX営業グループとして事業グループ化、引き続き事業開発・営業を推進。