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- 「最新ビルボードからアニソンまで!3時間ぶっ通しリクエスト大会!」参加レポート
JASジャーナル目次
2023summer
「最新ビルボードからアニソンまで!
3時間ぶっ通しリクエスト大会!」
参加レポート
フリーライター 有路昇
概要
OTOTEN2023では、日本オーディオ協会の主催企画となるイベント「最新ビルボードからアニソンまで!3時間ぶっ通しリクエスト大会!」が開催されました。これは、参加者からのリクエストに応じて、普段聴いている楽曲や好きな楽曲をハイエンドオーディオで再生し、思う存分楽しんでもらおうというものです。OTOTEN史上初となる本イベントはどのような内容だったのかを、来場者目線で紹介していきます。
記事執筆の経緯
はじめまして、フリーライターの有路と申します。私は大学時代に買ったONKYO integra A-927でオーディオをはじめ、社会人になってからは薄給のほとんどをつぎ込む勢いでオーディオに熱を上げていたのですが、家庭の事情もあって、ここ10年来オーディオを休止していました。すっかりオーディオ熱が冷めていたのですが、『明日ちゃんのセーラー服』などで知られる漫画家・博(ひろ)先生の描き下ろしイラストが、OTOTEN2023のキービジュアルに採用されたとSNSを通じて知ったことで、だいぶご無沙汰になっていたOTOTENに興味がわいてきました。
ピュアオーディオのイベントで、2次元のキャラクターがキービジュアルに使用されたことはあまり例がなく、しかも連載中の作品を持つ人気漫画家が、こうしたイベントに描き下ろしのカラーイラストを提供するのはレアケースです。それだけに、日本オーディオ協会には何か狙いがあるのではと考え、くわしく調べてみようという気持ちになったのです。
すると公式サイト内に、ガラス棟G701で行われる「最新ビルボードからアニソンまで!3時間ぶっ通しリクエスト大会!」というイベントの開催情報を発見。「アニソンやJ-POP、最新洋楽ヒット曲などを、アキュフェーズのフラッグシップ機器とJBL K2 S9900で思う存分にお楽しみいただけます!」という売り文句に驚きを覚えました。私の経験上、特にピュアオーディオを扱うオーディオイベントでこれらの音源をかけるのは、どことなくご法度的な雰囲気があるからです。「例のない試みだ、面白そう!」と思い、本イベントを目当てに、久しぶりにOTOTENへ行くことを決めました。実際に現地を訪れたところ、旧知の仲である日本オーディオ協会の秋山真君がいたので声をかけてみたら、「今年のキービジュアルとリクエスト大会はふたつでひとつなんだよ。せっかく来たなら、ついでにレポート記事書いて!」と言われ、本記事を担当することになった次第です。
1. 予想を大きく上回る参加者が来場
前置きが長くなりました。ここからはリクエスト大会の模様についてレポートしていきます。本イベントは第3部構成。第1部、第3部がオーディオ評論家の野村ケンジさん、土方久明さんをナビゲーターに迎えての参加者によるリクエスト大会、第2部がアイドルユニット「つりビット」の元メンバーである聞間彩さん、長谷川瑞さんを招いたトークショーとなっていました。本記事では第1部、第3部のリクエスト大会を中心に取り上げていきます。
初めての試みにも関わらず、開演前から長い行列ができていました
G701の前には多くの方が列をなしていました。OTOTENの来場者は50代が中心ですが、その年代よりは一世代若い方が多い印象でした。セミナー事前登録は不要で、イベント当日でも気軽に立ち寄れるため、ふらっと訪れた方も多数いたようで、用意された約180席があっという間に埋まるほどの大盛況!期待度の高さがうかがえます。
第1部が開始し、はじめに登壇したのは、ナビゲーターを務める野村さん、土方さん。続いてスペシャルゲストとして、いま飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍中の若手マスタリングエンジニアの吉良武男さん、そして、高音質アニソンを探求するオーディオサークル「黒鉛音響」のがくふぁさんが紹介されました。
メインMCの野村さん(左)、土方さん(真ん中)は、軽妙なトークで常に会場を盛り上げていました
「このビート感で日本語の曲を鳴らすなら、もっとアタックを抑えないと日本語が負けちゃうんですよね」などと、舌鋒鋭く音源の批評をしていく吉良さん(右)。音作りの第一線で活躍するプロの言葉にみな聞き入っていました
がくふぁさん(左)は豊富な知識を活かして参加者が持ち寄ったアニソンの解説をし、アニソンになじみのない参加者の橋渡し役として活躍していました
続いて使用機器の紹介に移りました。ケーブルやアクセサリーは含まないかたちでも、総額2千万円超にもなるシステムです!国内で行われるこれほどの規模のオーディオイベントで、クラシックやジャズ以外の楽曲がメインでかかることは私の記憶ではそうありません。それだけに、本イベントが参加者にとって貴重な体験になることが期待できました。ちなみに、理想的な再生音を目指し、前日から入念なセッティングが行なわれたそう。音源を持ち込んだ方は、特等席に案内されて最高の状態で聴けるようになっていました。
使用機器
- スピーカー
- JBL K2 S9900
- SACD/CDトランスポート
- アキュフェーズ DP-1000
- DAC
- アキュフェーズ DC-1000
- ネットワークプレーヤー
- デノン DNP-2000NE
- ミュージックサーバー
- DELA N1
- スイッチングハブ
- DELA S100
- アナログプレーヤー
- テクニクス SL-1000R
- カートリッジ
- オーディオテクニカ AT-ART1000
- フォノイコライザー
- アキュフェーズ C-47
- プリアンプ
- アキュフェーズ C-3900
- パワーアンプ
- アキュフェーズ A-300(ステレオペア)
- クリーン電源(パワーアンプ用)
- アキュフェーズ PS-1250
- クリーン電源(前段機器用)
- アキュフェーズ PS-550
- 調音パネル
- ヤマハ ACP-2
2. 様々なジャンルの知られざる優秀録音盤に出会える
イベントの進行方法についての説明がされた後、早速参加者が持ち込んだ音源をかけることに。なお、音源はCDやレコードだけでなく、USBメモリー、DAP(デジタルオーディオプレイヤー)、スマホなど何でもOK。さまざまなハイレゾフォーマットや、Apple Music、Amazon Music、Spotifyなどのサブスクにも対応できる再生環境が用意されるなど、あらゆる要望に応えられるようになっており、「オーディオのことはよくわからないけど、いい音で聴いてみたい!」という参加者に寄り添ったものとなっていました。また、都合がつかず来場できなかった方のために、コルグのLive Extremeを使用したハイレゾライブ配信も行われていて、Twitterではそちらを視聴しながらの実況ツイートも行われていたようです。
USBメモリーよりも、DAPやスマホで音源を持ち込む方が多かったのが新鮮でした
記念すべき1曲目は、オリジナルサウンドトラック「交響詩 銀河鉄道999」より「心の詩とアルカディア号」でした。注目は、この音源が複数枚のアナログをリッピングし、ノイズが少ないものをつなぎ合わせて1曲にまとめたという、楽曲を愛している者だからこそ作り上げられたものだったことです。出だしの静謐な雰囲気のハーモニカソロをはじめ、ほとんどプチプチ音が入っていませんでした。そのノイズの少なさは、プロの吉良さんをもってして「自分がやってもこんなきれいに録れないかも」と言わしめたほどです。
1曲目から「このイベントならでは」な音源がかかり、楽曲にまつわる興味深いエピソードが披露されたことで、会場は一気にヒートアップ。以降に登場した方々も、自分が持ち込んだ音源についてのエピソードを熱く語るようになり、参加者全員が楽曲への理解を深めたうえで音源を聴く流れができていました。すべてを紹介するとあまりにも長文になってしまうので、セットリストを紹介し、そのなかから私の印象に残った音源をトピックス的に取り上げたいと思います。
セットリスト
<第1部>
(1)オリジナルサウンドトラック「交響詩 銀河鉄道999」より「心の詩とアルカディア号」 ※アニソン
(2)軌跡jdkアクースティックス「星の在り処」 ※ゲームミュージック
(3)妹尾美里「Chatora」 ※ジャズ
(4)坂本真綾「約束はいらない」 ※アニソン
(5)Suara 「舞い落ちる雪のように」 ※アニソン
(6)Alison Krauss「Ghost in This House」 ※ブルーグラス/カントリー
(7)水木一郎「地獄のズバット」 ※アニソン
<第3部>
(1)SUGIZO feat. GLIM SPANKY 「めぐりあい」 ※アニソン
(2) オリジナルサウンドトラック「THE ビッグオー」より「STAND A CHANCE」 ※アニソン
(3)Joel Corry「Liquor Store」 ※EDM
(4)Dream Theater「The Alien」 ※プログレッシブ・メタル
(5)「ゆるキャン△サウンドトラック」より「ふゆびより(TVサイズ)」 ※アニソン
(6)「リトルウィッチ ボーカルコレクション Vol.1」より「透明な感覚」 ※ゲームミュージック
(7)Avril Lavigne「Sk8er Boi」 ※ポップ・ロック
(8)sora tob sakana「Summer Plan」 ※J-POP
(9)Tom Misch & Yussef Dayes「What Kinda Music」 ※ジャズ
(10)King & Prince「ツキヨミ」 ※J-POP
(11)オリジナルサウンドトラック「NOIR ORIGINAL SOUNDTRACK I」より「canta per me」 ※アニソン
(12)「伊福部昭の芸術 宙- 伊福部昭 SF交響ファンタジー」より「SF交響ファンタジー第1番(1983) ゴジラの動機」 ※映画音楽
(13)「Godzilla: King of the Monsters」より「Godzilla Main Title」 ※映画音楽
※上記以外にも、登壇者オススメ楽曲などが幾つか紹介されていました
全20曲の音源の内訳は、アニソンがトップで8曲。以下ゲームミュージック、ジャズ、J-POP、映画音楽が各2曲、ブルーグラス/カントリー、EDM、プログレッシブ・メタル、ポップ・ロックが各1曲でした。クラシックはゼロだったところに、本イベントの独自性が表れていると思います。
私が注目したのはAlison Kraussの「Ghost in This House」。彼女の音源は優秀録音盤が多く、海外のオーディオファイルには知られた存在です。この「Ghost in This House」が収録されているアルバム「Forget About It」はSACD化もされており、マスタリングはエンジニア関連の数々のグラミー賞を受賞したダグ・サックス氏が担当。オーディオ好きなら聴いて損のない1曲です。
もう1曲挙げるなら「canta per me」です。「canta per me」の作曲者は、TVアニメ『鬼滅の刃』や『劇場版 Fate/stay night [Heaven’s Feel]』などの劇伴を手がけた梶浦由記さん。この曲を聴いたのは初めてだったのですが、TVアニメ『NOIR』が放送された2001年当時から、ドラマティックで精細な梶浦サウンドがほぼ完成形に至っていたことに驚きました。
3. オーディオで音を聴くことの楽しさを再発見
第1部こそ音源の再生に手間取るなどトラブルもありましたが、参加者側の協力もあって、第3部は円滑に進むようになりました。会場内に自然と一体感が生まれ、登壇者と参加者で作り上げるイベントという趣となっていたのが印象的でした。最後は1曲3分としていた再生時間を2分に切り上げて、終了予定時間を少しオーバーしましたが、なんとかすべての音源をかけることができました。
第3部の開始前には再生を希望する参加者の長い待機列が形成されていました
イベントの最後に、登壇者を代表して、土方さんが次のように本イベントを振り返りました。
「まずは参加してくださったことに、お礼を申し上げたいです。オフ会のような温かな雰囲気で楽しかったです。当初はどれくらい参加者が来てくれるだろうか、と関係者全員が心配していたんですが、開場前の行列を見てジーンときました。幅広い年齢層の方にお越しいただいて、『オーディオ、まだまだいけるぞ!』という思いがしました。とにかくうれしかったです!」
個人的には、来年も同内容のイベントを実現してほしいと思っています。音源を持ち込んだ人と、その音源を会場の皆さんがリスペクトして、良い音で音楽を楽しんでいる雰囲気をとても快く感じました。「オーディオが好きだったからこそ、こうした特別な空間と音楽を楽しめたんだ」と、うれしくなりました。第1部から最後まで同席していた日本オーディオ協会の小川理子会長からも、「とても楽しかったです!ぜひ来年もやりましょう!」という心強い言葉があったので、開催の可能性は高いのかも?今回行けなかった方は、次回ぜひご参加を!
4. これまでにない体験ができたB1Fのブース
最後に、久しぶりにOTOTENへ来た私から見た、OTOTEN全体の印象について書きたいと思います。
正直なところ、4F~6Fのブースについては、大きく変わったという印象はありません。ヘッドフォン、イヤフォン関係の展示が増えたくらいで、基本的には既存のオーディオファンに向けた展示になっていたと思います。また、より良い音で聴いてもらうためには仕方のないことではあるのですが、各部屋のドアが閉められていて気軽に中に入れないのは、ビギナーの方にとって厳しい環境だなと改めて感じました。私自身も「開けちゃっても大丈夫かな」、「開けても人がいっぱいで入れないかも」という心理が働き、それなら他を回ろうという気持ちになることがしばしば。出音は劣化するかも知れませんが、文字通り門戸を開いておいて、「いい音だな」とふらっと立ち寄れるようなかたちにするのも一案ではないでしょうか。
一方で、B1FはこれまでのOTOTENにない、独自性のある展示があったように思います。上階に比べ、ファミリー層や若者が比較的多かったのも印象的です。どんな展示をしているのかが見えるオープンな環境であることも手伝ってか、ブースの担当者と話し込む来場者の姿も多く見受けられました。以下、私が気になったブースをいくつか取り上げていきます。
B1Fは商店街を回遊するようなイメージで各ブースを周れるようになっていました
エミライでは、実際にユーザーが利用するときの状況を再現した展示を行っていました。音の反響をコントロールしづらいため、部屋での再生と比べて理想的な視聴環境とは言えないのですが、それでもブランドが目指す音は感じられるようになっていました。じっくりと音に向き合い、試聴後に担当者にあれこれと質問する来場者の姿が見られました。
新技術の展示も行われていました。そのひとつが、音響機器の開発および販売を手がけるミューシグナルです。1台の音源から複数台のスピーカーに対して無線LANで音楽を配信する技術「ミュートラックス」により、ブース内に設置した10台のスピーカーにハイレゾ音源を無線配信するデモを実施していました。スピーカー1台だけでは聴こえ方にムラが出る、複数台のスピーカーを設置したいけど配線が大変などといった問題をまとめて解決できるそうで、「オーディオでこんなこともできるんだ」という新たな体験・発見ができました。
ミュートラックスの技術は、クラウドファンディングを通じて製品化済みですが、一般販売は準備中の段階。そうした状況ではありますが、一般の方にも知ってもらいたいという思いがあり、OTOTENへの出展を決めたそうです
4年ぶりに復活したというカーオーディオ体験コーナーは大盛況。ハーマンインターナショナル(マークレビンソン)、アルプスアルパイン、東北パイオニア(カロッツェリア)の3社がそれぞれデモカーを用意していたのですが、いずれも試聴予約の方が列をなしていました。JASジャーナル2023年春号では「カーオーディオ・プロショップ」の記事構成を担当したのですが、OTOTENでもデモカーの音を聴けるとあって、楽しみにしていました。実際に聴いてみての感想ですが、私の車のカーオーディオはメーカー純正品なので、「ここまでピュアオーディオに迫れるのか」と驚くばかりでした。
出音は3社3様でしたが、個人的には東北パイオニアがアタック感がタイトに出ていて好み。音像がダッシュボードのセンターに定位しており、Michael Jackson「Thriller」のイントロで足音が移動する様子がしっかりわかるようになっていました
5. 総評
今回のOTOTENの主目的だった、リクエスト大会のインパクトが大きかったです。どんな音源が飛び出すかわからないドキドキワクワク感は、他のオーディオイベントにはないものだと思いました。繰り返しになりますが、来年以降も開催されるのであれば、ぜひ参加したいですね。
また、リクエスト大会の盛り上がりを見るにつけ、ハイエンドオーディオに触れる機会自体が、若い世代はもちろんのことオーディオファンでも少ないのだと実感しました。私がオーディオに熱中していた2000年前後までは、背伸びをすれば一級品の機器をそろえることができました。しかし、今回ブースを見て回ってみたところ、現在は中古でも手が届かない価格帯のものが多くなったように感じます。
音楽が重要なテーマであった映画『ONE PIECE FILM RED』や『BLUE GIANT』が大ヒットし、ドルビーアトモスをはじめ、優れた音響で上映する映画館に注目が集まったように、人々が「良い音で聴きたい」と求める心に変わりはありません。価格的に若者でも手の届きやすいヘッドフォン、イヤフォン業界が盛況なのは、大きな音を自宅で出せないといった環境的な要因はあるものの、まずは良い音を求める気持ちがあってこそだと思います。難しいところなのは重々承知ですが、各メーカーにエントリー~ミドルクラスの製品を充実させていただき、自分を含めた若いオーディオファンが、より上の音を目指しやすい状況になるとうれしいです。
執筆者プロフィール
- 有路昇(ありじ のぼる)
1977年生まれ。大学卒業後、インテリアデザイン会社、政治・経済専門誌を経てフリーランスに。現在は漫画やアニメなどエンタメ系コンテンツの記事や書籍を主に手掛けている。編集協力・執筆した書籍に『JOJO’s Bizarre Quizzes 500 ジョジョの奇妙な問題集』、『ONE PIECE magazine Vol.15』(ともに集英社刊)など。