2023spring

プロショップ甲府Feelに聞く、
カスタム・カーオーディオの魅力

インタビュアー:日本オーディオ協会事務局 秋山真
記事構成:有路昇

概要

カーオーディオは、ハイレゾの普及や機器の品質向上により、いまやホームオーディオさながらの高音質再生が楽しめるようになりました。しかし、家に比べ不利な音響空間である車内のサウンド調整は、一筋縄ではいきません。そんな時に頼りになるのが「カーオーディオ・プロショップ」です。専門店との上手な付き合い方などについて、山梨県甲府市にあるカーオーディオ&カーセキュリティ専門店「Feel(フィール)」の佐野誠(さの まこと)代表取締役にお話を伺いました。
https://www.sumi-den.com/

カーオーディオ&カーセキュリティ専門店「Feel」の外観および店内

【Part1】「カーオーディオ・プロショップ」とは

自身のカーオーディオ原体験がきっかけでプロショップに

――まずは「カーオーディオ・プロショップ」がどんなところなのか、教えていただけますか?

「カーオーディオ・プロショップ」は、カーオーディオに関する豊富な商品知識をもち、卓越した技術で車に取り付け、依頼者にとって理想的な音響空間を作り上げるショップです。内装を部分的に加工して、本来つかないサイズのスピーカーを取り付ける。ドアに制振素材、吸音素材、拡散素材などを取り付けて、音を悪くする外的な要因を取り除く。イコライジングやタイムアライメントの調整によって、定位や帯域バランスの細かなチューニングを行うことなどがカーオーディオ・プロショップの主な仕事となります。

――「Feel」はどういうコンセプトのお店なのでしょうか?

「Feel」という店名のとおり、カーオーディオならではの音の楽しさや、音の質を“感じて”いただく。そこが一番のコンセプトです。もちろん、車内装のカスタマイズの仕上がりにもこだわっています。スタッフは私と、メカニック2人の計3人です。取り付けなどの現場は基本的に2人のメカニックに任せていますが、最終的な音質の追い込みや、ちょっとしたポイントとなるところは僕がアドバイスしたり、手を出したりしながらやっていますね。


ガレージは車を3台入れても作業ができるだけの広さがある。この裏手にもリフトのついた別棟があり、サスペンション系やマフラーの取り付けなども行っている

――「カーオーディオ・プロショップ」を始めたのは、もともとオーディオが好きだったのですか?

1990年ごろ、車の免許を取って初めて買った車に、CDプレーヤーを自分で取り付けて音を聴いたときに「すごいな」と衝撃を受けたことが、「カーオーディオ・プロショップ」を開くきっかけになりました。当時は、ホームオーディオ向けのCDプレーヤーは普及し始めたものの、カーオーディオはカセットデッキやラジオがまだ主流だった時代で、CDプレーヤーをつけた車は豪華な仕様というイメージだったんです。CDプレーヤー単体で10万円ぐらいしていたと思うんですが、頑張ってアルバイトして取り付けたんですよ。

元々ホームオーディオは好きでした。そんなに高いものは買えなかったですけど、色々組み合わせたりして親しんでいたんです。それでも、車の中で聴く音楽は、家で聴くのとはまったく違うものに感じました。車の中では1人になれて、より音楽と向き合うことができるし、家で音量をガンガン上げると家族から苦情が出ちゃうけど、車だとそういうことがない。そういった原体験が、未だにカーオーディオの虜になっている理由だと思います。

ウチのお客様にも「車の中で音楽聴くのってすごく楽しいですよね」と言っていただけることが多いです。1人で音楽を、好きなときに気軽にポンと聴ける。それがカーオーディオならではの良さです。今ではハイレゾ音源を使って、よりリアリティがあり、立体感のある空間表現もできるようにもなりました。すべてがピタッとハマったときは、嬉しい気持ちになりますね。


楽しそうにカーオーディオの魅力を語る佐野さん。氏の人柄に魅せられて来店するお客さんも多いだろう

ホームオーディオと同じ基準で審査を行うサウンドコンテストが発展の契機に

――ホームオーディオに匹敵する音質をカーオーディオで目指すようになったのは、どんな背景があるのでしょうか?

カーオーディオはホームオーディオと異なり、最高の音質を目指して競い合う様々なカーサウンドコンテストが開催され、ユーザーの注目を集めています。そのはしりとなったのが、1997年に第1回が開催された「パイオニア カーサウンドコンテスト」(2014年の第18回まで開催)なのですが、審査基準にホームオーディオの基準を用いていたことが、より良い音を追求するようになった原点だと思うんですよね。審査員もホームオーディオの評論家を招き、課題曲にクラシックも採用するなどして、ピュアオーディオと同じ目線でステレオ表現などを審査していたんです。

参加するからには、やはり優勝したいですよね。それでカーオーディオ・プロショップ各社がそれまで以上に切磋琢磨するようになったんです。ただ鳴らすのではなくて、ちゃんとバランスを整えて、位相も合わせる。すごく細かな部分まで考えるようになりました。同じ機材でも取り付け方でも音は変わります。ケーブルも厳選するようになりました。そのようなかたちでコンテストを重ねていくごとに、音を良くするためのノウハウがどんどん貯まっていって、今に至るという感じです。

――ちなみにFeelのコンテストでの成績はいかがですか?

第18回「パイオニア カーサウンドコンテスト」の「内蔵アンプシステムクラス(ユーザーカー部門)」で、お客様の車が1位を獲りました。他にも、ハイエンドカーオーディオコンテスト、ヨーロピアンサウンドカーオーディオコンテストといった著名なコンテストでも入賞の実績があります。


店内には数多くの記章が並んでいる

【Part2】 カーオーディオの最新トレンド

高音質なDAPの活用が転機となった

――ここ数年のカーオーディオの盛り上がりはものすごいそうですね。どういった背景があるのでしょうか?

一番はハイレゾの普及です。古いモデルや、普及価格帯のカーオーディオのヘッドユニットには、DSD、FLAC、WAVなどの高品質なファイル形式に対応したものがあまりないんですよね。一方で、ハイレゾに対応したDAP(※1)は音質に優れた高価格帯のものがたくさん出ていて、愛用しているユーザーが数多くいらっしゃいます。そこに、DAPをUSBなどでデジタル接続できるハイエンドなヘッドユニットやDSP(※2)が登場して、カーオーディオにもハイレゾが普及し始めました。

※1 デジタル・オーディオ・プレーヤー。内蔵ストレージまたはSDカードなどの外部ストレージに音楽ファイルを入れ、ヘッドホンやイヤホンなどを使って音楽を聞くポータブル機器

※2 デジタル・シグナル・プロセッサー。イコライザー、ゲイン、クロスオーバー、タイムアライメントなどを細かく調整可能な、システム調整の核となる機器

――高音質なDAPがソース機器となったことにより、より良い音質を求めるユーザーが増え、その声に応えるかたちで各メーカーが新たな機器の開発にしのぎを削るという好循環が生まれているんですね。

コアなユーザーはハイエンドなDSPやパワーアンプを導入し、トランクスペースに大掛かりな加工をして取り付けていますが、一般のユーザーはなかなかそこまでできません。そうした加工をするとリセールバリューが落ちたり、ディーラーで整備を受けられなくなってしまう可能性もあるんです。そういった事情もあり、ライトユーザーはメーカー純正のカーナビやディスプレイオーディオを使う方が多くなっています。そのため、大掛かりな加工の必要がなく、また追加予算もあまりかからずに良いサウンドを実現できるDAPとBluetoothで接続するカーオーディオが流行しています。

安定化電源や仮想アースなどの採用例も増えている

――DAP以外に、何か流行の兆しがあるものはありますか?

電源は、余裕がある車のほうがやはりいい音が出るんです。しかし、特に国産車の場合はスペースが限られているので、大容量の電源を使いたくてもできないケースが多いです。そのため、限られたスペースでも設置がしやすい安定化電源に注目が集まり始めています。車の電源は「オルタネーター」といわれるエンジンの回転数を使って発電するユニットで発電をしている関係上、電圧が不安定な状況になりがちです。そこで安定化電源で電圧を一定に保てば、機器を安定動作させることができます。また、安定化電源で電圧を機器の定格内で昇圧すれば、さらなる音質の向上が期待できます。ホームオーディオで昨今評判になっている仮想アースも効果が高いので人気がありますね。

【Part3】「カーオーディオ・プロショップ」との賢い付き合い方

自分の肌に合う「カーオーディオ・プロショップ」を選ぼう

――Feelでは、初めてショップを訪れたユーザーにどのような対応をしていますか?

僕はお客さんにどれが良いなどとは自分からは推さないんです。「今すぐ決めてください」という言い方は絶対しません。見積りを出して、検討してくださいというかたちで一度持ち帰ってもらいます。そのうえで、お客さんが満足されるようなプランニングを一緒に考えていく。この人から買いたいな、相談したいなって思ってもらえるような、心のある接客を心掛けています。

例えばスピーカーを換えたいというお客さんには、「どういうジャンルの音楽を聴かれますか?」とお声がけして、歯切れのいいパワフルな音が好きなのか、滑らかさのある優しい音が好きなのかなど、その方の好みを把握するようにしています。ジャンルによって合うスピーカー、合わないスピーカーがあるので、ある程度は方向性がわかっていたほうが、自分好みのスピーカーを見つけやすいです。店内のデモボードで、各メーカーのスピーカーを聞き比べていただくことも可能です。


デモボードには、様々なメーカーのスピーカーユニットが取りつけられている

ただしカーオーディオの魅力は、デモボードでは伝わりきらないところがあります。そこでFeelでは、デモカーで車にスピーカーを取りつけたときの音のイメージを聴いていただいています。最低でも2台、多いときは4台のデモカーがありますので、それぞれの音の方向性を体験していただく。これ以上に説得力があるものはないんです。加えて、スピーカーの出音を最高の状態にもっていくために、なぜDSPで調整する必要があるのかなども説明できるので、デモカーを聴いていただくとカーオーディオへの理解がより深まると思います。

システムの最初のグレードアップは、5万円~10万円程度が目安

――お客さんの希望が特にない場合は、どのような案内をしていますか?

純正ヘッドユニットやDAPに対応できる、外付けタイプのDSPの追加をオススメしています。まずはDSPでイコライザーやタイムアライメントを調整し、車内の音響空間を整える。その上でスピーカーユニットをどんなブランドにするかなどを決めていきます。

DSPはパワーアンプ内蔵型やパワーアンプレスのものがあります。エントリークラスやミドルクラスのパワーアンプ内蔵型DSPには数万円のものもありますが、音の良さも手伝って10万円前後のモデルがよく売れていますし、実際に僕もオススメしています。ケースバイケースですが、DSPの取り付け料金は2~3万円を見ていただければと思います。パワーアンプレスのDSPの場合は別途パワーアンプが必要になるため、追加するパワーアンプに応じて最終的な予算も高額になってきます。なおスピーカーユニット交換のケースでは、エントリークラスなら取り付け料金を含めて5万円前後の予算があれば十分です。

ハイエンドな音を目指す場合は、例えば先ほどのGTRのデモカーであれば、トータルで90万円くらいかかっています(取り付け工賃は約12万円)。さらにその上のクラスをとなると、数百万となるケースもあります。ご要望に応じて変わってきますので、ご相談いただければと思います。

――目指すシステムの方向性を共有してプランが決まり、車を預けた後は、どんな流れで納車となるのでしょうか?

そのシステムのボリュームにもよるんですが、加工とかが少なければ、大体2~3日で音のセッティングまでして納車となります。加工が多くなると1週間、なかには2週間頂く場合もあります。代車のご用意もあります。

――加工はどういったことをするのでしょうか?

ツイーターの取り付けにともなう加工では、フロントウインドウの左右にある柱のAピラーを、木材やパテで造形しなおして、スエードの生地で巻いて仕上げたりします。

――加工後は結構ガチガチな感じになるんですね。振動対策で重量もあります。ちなみにトランクなどに床枠を作ってウーファーやパワーアンプを設置するのも、同様な作業となるのですか?

木材で床枠を作るんですけど、パテを盛ったりとか木材を削ったりして、車に合わせてピッタリなものをイチから起こします。最近は、スピーカーやウーファーだとマウントキットがあるものも出てきましたので、コストを抑えながら取り付けが可能になりました。とはいえ、初心者の方にこうした造形物が必要となるシステムはあまり勧めてはいません。まずは、その方にとってのいい音を探しながら、段階を踏んで進めていくようにしています。


トランクスペースの施工例。DSP、パワーアンプ、サブウーファーが美しく埋め込まれている

――最後にカーオーディオをやってみたいと思っている方に向けて、メッセージをお願いします。

車と一緒に購入した純正のオーディオシステムのまま乗っているケースが圧倒的に多いと思いますが、カーオーディオをバージョンアップする楽しさを皆さんに知って欲しいです。長年のホームオーディオファンのなかには、カーオーディオというと、かつてのような迫力一辺倒のドンシャリなサウンドをイメージしている方も多いと思いますが、そういう方にこそ一度デモカーの音を聴いていただきたいですね。多分びっくりされると思うんですよ。言葉では伝わりにくい部分もあると思うので、ぜひお近くの「カーオーディオ・プロショップ」を訪れて、最新のカーオーディオの音を聴いてみてください。

(参考リンク)カーオーディオネット ショップ検索 https://car-audio.ne.jp/shops_area/