2023spring

ディスプレイオーディオについて

パイオニア株式会社 第1ハード設計部サウンド技術2課 藤塚浩次

はじめに

パイオニア(株)の歴史は、1937年、国内初のHi-Fiダイナミックスピーカーの開発に成功した所から始まります。以来、カー関連の分野でも、世界初のコンポーネントカーステレオや市販GPSナビゲーションシステムなど、さまざまな世界初・国内初の商品を世に送り出してきています。

近年スマートフォンの普及により、カーオーディオの分野ではディスプレイオーディオと呼ばれる製品が登場してきており、その先駆けとして、パイオニアは「Apple CarPlay™」や「Android Auto™」に対応した世界初の市販商品を導入した経緯から、今回、JASジャーナルで紹介させていただくこととなりました。

ディスプレイオーディオとは?

ディスプレイオーディオとは、従来のカーナビゲーションでもなく、単なるカーオーディオでもなく、スマートフォンと連携して、スマートフォンのアプリケーション(以下アプリ)を操作できる製品のことを指します。スマートフォンにはiPhone と Androidがありますが、ディスプレイオーディオでは、

を通じて、スマートフォンのナビゲーションアプリ、音楽アプリといったものと連携することができます。近年は、音楽・映像再生などのエンターテインメント機能に加え、「Apple CarPlay」「Android Auto」を通じてスマートフォンに入っているさまざまなアプリを車内で安全に使用できる機能に対応し、ドライブ中の楽しさがますます広がっています。

スマートフォンは個人に紐づいた端末で、どこにでも携帯して使用していますので、各アプリやサービスは個人に紐づいた検索履歴、プレイリスト、オススメなどの情報を保持しています。 その情報を即座に引き出して利用できることが、単体で動作するカーオーディオやカーナビとの大きな違いと言えます。

パイオニアのディスプレイオーディオの特徴

ディスプレイオーディオは、単体のカーナビゲーションよりもスマートフォン連携機能に価値を感じるお客様に向けた商品とパイオニアでは位置付けています。実は「Apple CarPlay」や「Android Auto」に対応した世界初の市販商品を発売する以前から、独自のスマートフォン連携機能(Linkwithモード)に取り組んできた歴史もあり、コネクティビティ機能には一日の長があると自負しています。

また2023年春に、国内市販ディスプレイオーディオとして初めて「WebLink®」に対応しました。「WebLink」はiPhoneやAndroidスマートフォンのアプリをディスプレイオーディオに表示したり、ディスプレイオーディオから操作を可能にしたりする技術です。「WebLink Host」アプリをインストールしたiPhoneやAndroidスマートフォンをUSBとBluetoothで同時接続し、「WebLink」対応アプリのひとつである「WebLink Cast」を使用することで、「YouTube」などのアプリもディスプレイオーディオに映して操作することができます。普段使っているスマートフォンアプリをいつもと同じ感覚で操作し、大画面で楽しむことができることがディスプレイオーディオの特徴と言えます。

他にもディスプレイオーディオがインターネットに繋がって動作する機能や、スマートフォンアプリを使った機能拡張・ファームウェアアップデートに加え、画面に「ライトモード」「ダークモード」を用意するなど、スマートフォンに慣れたユーザーがより直感的に使いやすいと感じられるUIと合わせて提供できるようにしています。


「WebLink Cast」使用イメージ

充実したオーディオ能力

オーディオ回路については、パーツに至るまで最適化されるように検討し、デジタル信号に起因する高周波ノイズを排除することで、透明感のある音質を実現しています。また、車内環境特有の振動による音質影響の抑制を目的として、パワーアンプ部のコンデンサーに振動の影響を受けにくい 薄膜高分子積層コンデンサー(PMLCAP)を採用しています。

さらには、メインSoCや冷却ファンなどがおよぼすノイズの影響を排除するため、ノイズ源をオーディオ系統とは別の電源にすることでS/N比を高め、クリアな音質を獲得しています。その他、電源ラインのバイパスコンデンサ最適化により、オーディオ用電源を安定させるなど、高音質へのアイデアと工夫が、基板の細部にわたって余すところなく施されています。

「フルカスタム高性能48 bitデュアルコアDSP」など、厳選された高音質パーツを採用し、独自の音質チューニングを実施しています。車室内で最適な音場を創り出す「タイムアライメント」や「ネットワークモード」、音質を細かく調整できる「13バンドグラフィックイコライザー」などの機能で高音質な音楽を楽しめます。


音のポテンシャルを最大限に引き出す高音質パーツ

車室内は構造的にドライバーと各スピーカーの距離が一定ではないため、左右で同じ大きさの音を出すと、ドライバーに近いスピーカーからのみ音が出ているかのように聴こえます。そこでこの問題を解決するためにタイムアライメント機能を使うことで、ドライバーの耳に音が同時に聴こえるように調整できるため、まるで目の前にスピーカーがあるような音響環境を作ることが可能です。(1.4 cm/step、0~350 cm)

周波数ごとにきめ細やかに調整できる13バンドグラフィックイコライザーを搭載しており、ユーザー様の好みの音場環境に調整することができます。(2 dB/step)

また、圧縮音源をCDに迫る高音質で再生する「アドバンスド・サウンドレトリバー」など多彩なオーディオ機能も搭載しています。MP3やWMAなど圧縮オーディオの楽曲は、人の耳では聴こえにくい微小な音や高い音域の成分はカットして記録しているため、音のリズム感や厚み、迫力などが失われてしまいます。パイオニア独自の音質補正技術「アドバンスド・サウンドレトリバー」は、残されたデータから圧縮時に失われた音を補間し、原音が持つ余韻や躍動感、広がり感を復元してCDに迫る高音質再生を実現します。


アドバンスド・サウンドレトリバーの補正効果

最後に

ディスプレイオーディオはカーオーディオに分類される商品で、音を良くしたいということが重要な購買動機となっています。音については、原音の良さを引き出す音質設計に加え、オーディオ設定の充実により、好みの音場を表現いただくこともできるような機能を搭載しています。

カーオーディオは、クルマに取り付けただけで音が良くなるわけではありません。

音楽を聴く環境として、クルマの中は不利な点が多々あります。クルマ特有のネガティブな要素を解消し、より良い音で楽しむためのオーディオ機能が搭載されていますので、ぜひ色々操作をして楽しんでみて下さい!

執筆者プロフィール

藤塚浩次(ふじつか こうじ)
1999年、パイオニア株式会社入社。主にOEM向けのカーナビゲーション、ディスプレイオーディオ、アンプなどの電気設計を担当。その後、2020年からサウンド技術部門にて、カーサウンドの開発に従事。