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「カーオーディオ」とは何か。
変遷から、音を良くする方法、
楽しみ方まで

カーオーディオ&カーライフライター 太田祥三

概要

カーオーディオの変遷から、カーオーディオシステムのバージョンアップ法、さらにはマニアがどのようにカーオーディオを楽しんでいるのかまでを解説します。なお、音を良くするやり方は純正カーオーディオシステムの状況によっても変化します。どのような選択肢があるのか、そしてそれぞれの利点、実行するにあたっての注意事項までを説明していきます。

はじめに

オーディオに興味をお持ちの方の多くは、「クルマの中でも良い音を楽しみたい」と少なからず思われているはずです。しかし「カーオーディオはよく分からない…」、そう感じ、結局システムは“つるし”のまま、そんなケースも多いのではないでしょうか。当記事ではそのような方々に向けて、「カーオーディオとは何なのか」、「どう始めれば、どう楽しめば良いのか」を全方位的に解説します。

【Part1】「変遷」を振り返る


ハイエンドシステムを搭載したオーディオカーの一例
「製作ショップ:カーオーディオクラブ<大阪府>」(Photo by 太田祥三)

8トラからカセット、CD、iPod、そしてスマホへ

最初に、「カーオーディオ」の移り変わりを振り返ってみたいと思います。

まず、車内に音楽を持ち込むメディアは以下のように変遷しました。古くは8トラ、それがカセットテープ、CD、MD、iPod、そしてスマートフォンへと変化しました。

その流れの中で、カーオーディオシステムのバージョンアップに興味を持ち、簡単にできることからやってみたいと考える「ライト層」は、70年代半ばから2000年代の前半あたりまでは、ヘッドユニット(メインユニット)交換から入り、場合によっては、次にスピーカー交換を実行し楽しんでいました。しかし2000年代半ばあたりからは純正のヘッドユニットが換えづらいクルマが増え始め、ライトに楽しみにくくなっていきます。

いつの時代にもマニア層は、外部パワーアンプを使ってきた

一方、いつの時代にも「外部パワーアンプ」を使う「マニア層」が存在しました。純正・市販を問わず、一般的なヘッドユニットにはパワーアンプが内蔵されていますので、外部パワーアンプは特には必要ありません。しかし、70年代半ばから外部パワーアンプが組み込まれたシステムが販売されるようになり、90年代にはブームが到来し多くの愛好家が外部パワーアンプを使って本格的なシステムを構築し、楽しむようになりました。

なお90年代にはサブウーファーを何発も積んで重低音をパワフルに鳴らすスタイルや、リアゲートを開けて外(ギャラリー)に大音量で音楽を聴かせる「外向きオーディオ」、さらには車両のドレスアップの一環としてオーディオ機器を積む「カスタムカーオーディオ」もブームとなります。そしてそれらと並行してピュアな音質を追求しようとする層もさらに増えました。

しかし2000年代に入ると、それらのブームは一様に下火になっていきます。また2000年代の半ばには5.1chシステムを搭載する「カーシアター」も流行しますが、この熱も2010年代に入った頃にはほぼ沈静化しました。

2010年代以降はブームが去る。しかし音質を追求する文化は根強く残る

かくして2010年代以降はブームと呼べるような盛り上がりはなくなります。しかし音質を追求しようとする文化は残りました。そしてその中のもっともコアな層は、サウンドコンテストに参加してシステムの完成度を競い合っています。その流れは今も脈々と息づいています。

ところでサウンドコンテストが行われる理由は、簡単に説明すると以下のとおりです。「カーオーディオ」のサウンドクオリティは、製品の性能、取り付け技術、サウンドチューニング技術、これら3つの要素の総合力にて決まります。つまり、音を良くするためには創意工夫を発揮する必要があるのです。サウンドコンテストでは、そこのところが競われているというわけです。

【Part2】 現在の“純正”カーオーディオのトレンド


トヨタ・カローラのインテリア(Photo by トヨタ)

交換・バージョンアップを想定しない純正カーオーディオが増えている

次いでは、「純正カーオーディオ」の現状を分析したいと思います。

なお純正カーオーディオとは、標準装備、またはオプション装備されているオーディオシステムのことを指します。実をいうと昨今の純正カーオーディオシステムは、いっそう交換・バージョンアップがしにくくなっています。結果、ますます「ライト層」を遠ざける傾向が強まりつつあります。

例えば純正ヘッドユニットはいわゆる「DINサイズ(カーオーディオ機器のサイズ的な統一規格)」ではないものが増え、外部パワーアンプを繋ぐためのライン出力を備えない機器も多くなっています。

純正カーオーディオシステムの“複雑化”も進行中

また、純正カーオーディオシステムの複雑化も進行していて、そのことも「ライト層」を遠ざける要因の1つとなっています。状況がシンプルではないがゆえに、システムをいじりにくくなっているのです。

例えば、昨今の一部の車種では、あらかじめ詳細なサウンドチューニングが成されています。また、コールセンターと通信する機能が組み込まれていたり、ヘッドユニットがオーディオ以外の機能も負っているケースも増え、これらを要因としてシステムを発展させにくくなってきました。

ところで、いわゆる「プレミアムオーディオシステム」と呼ばれるような高級な純正システムも増えつつあります。そういったシステムでは、名のあるメーカーのスピーカーを手にできたり、初めから外部パワーアンプが組み込まれていたりしているので、ユーザーは何もせずとも本格的なカーオーディオサウンドを楽しめます。そのため、これらも音にこだわろうとするときの有力な選択肢の1つとなり得ています。

【Part3】“音を良くする”方法のいろいろ。「ヘッドユニット交換」編


カロッツェリア・サイバーナビ AVIC-CQ912II(Photo by カロッツェリア)

使用中のヘッドユニットの使い心地に不満があれば、「ヘッドユニット交換」が有効

ここからは、“音を良くする方法”について説明していきます。純正カーオーディオシステムが複雑化している状況の中、何をすると音が良くなるのかというと、作戦は大きく3つが考えられます。まず1つ目は、「ヘッドユニット交換」です。先述したように純正ヘッドユニットが交換しづらくなってはいるものの、交換可能な車種がなくなったわけではありません。そして、交換できるのであれば「ヘッドユニット交換」は有効策として浮上します。または一部の車種では「オーディオレス」の設定が有り得ていますので、最初から市販ヘッドユニットを使いたいと考える場合には、その設定があるのならそれが選ばれることも多いです。

なお交換できる車種の場合、以下のようなケースではいっそう「ヘッドユニット交換」が向きます。それは、「使用中のヘッドユニットの使い心地に不満がある場合」です。不満と成り得るポイントは次のとおりです。ナビの地図が古い、操作レスポンスが遅い、画質が悪い、BluetoothモジュールやHDMI端子の装備がない、これらです。これらを不満と感じていたら、最新の市販ヘッドユニットに交換するとドライブの快適性も上がります。

そして、オーディオ機能も優れている機器を選べば、車内の再生環境を一気に好転させられます。

ポイントとなるのは「サウンドチューニング能力」の優秀度!

さて、オーディオ機能が優れている機器とはどのようなものを指すのかというと、ポイントとなるのはズバリ、「サウンドチューニング能力」です。

まずは、「サブウーファー出力」が備わっているモデルがお薦めです。そうであるとサブウーファーの導入、そしてコントロールがしやすくなります。車内ではドアに取り付けられるスピーカーの口径的な問題で超低音が不足しがちですが、サブウーファーを用いれば状況を改善できます。当機能はその時に力を発揮します。

加えて13バンド以上の「イコライザー」と「タイムアライメント」、この2つの機能が搭載されているとさらに良いです。そうであると、車内の音響的な不利要因への対処が可能となるからです(その詳細は【Part5】にて解説します)。

なお、カロッツェリアの『サイバーナビ』をはじめとする「ネットワークモード」に対応した機種と三菱電機の『ダイヤトーンサウンド・ナビ』では、フロントスピーカーのマルチ制御も行えます。音にこだわるのであれば、そして本格的なシステム構築を望むのであればこれらが特に狙い目です。

【Part4】“音を良くする”方法のいろいろ。「スピーカー交換」編


市販カースピーカーの一例「ダイヤトーンDS-G400」(Photo by 三菱電機)

純正スピーカーには多くを望めない。その理由とは

続いては、音の出口である「スピーカーを換える」というアプローチについて説明していきます。実はこれが、音を良くしたいと思ったときのもっともスタンダードな作戦です。

これがもっとも一般的である理由は、「スピーカーを換えれば音が変わる」と考えているドライバーが多くいるからで、そして実際に、換えれば音が良くなります。なぜなら、一般的な純正スピーカーには多くを期待し難いからです。その理由は主には2つあります。1つは「十分なコストが注がれていないから」です。クルマは厳しい価格競争にさらされていて、走行性能や安全性能に直接関係のない部分にはコストを注ぎ込めません。よって、純正スピーカーに注入できるコストも限定的にならざるを得ません。

理由の2つ目は「軽量化が推し進められているから」です。クルマに高い燃費性能が求められるようになって久しいですが、それを果たすにはクルマは軽い方が有利です。よってスピーカーも軽く仕上げられる傾向が顕著です。しかしスピーカーは、性能を上げようとすれば重くなります。磁気回路は大型化しフレームも堅牢になっていくからです。多くの純正スピーカーは、その逆方向へ進んでいます。

対して市販スピーカーはコストをかけて、そしてしっかり作り込まれていますので、エントリー機であっても純正スピーカーと比べて高性能です。

「スピーカー交換」が向かないケースもある

ただし、スピーカー交換が向かない車種も有り得ています。

スピーカー交換が不向きなクルマとは、オプションのプレミアムオーディオ搭載車や、純正ディスプレイオーディオ装着車の一部などです。これらでは純正システムにて詳細なサウンドチューニングが施されていることが多く、しかもその設定は変更できないようになっています。

その場合、そのサウンドチューニング設定は、交換するスピーカーにはマッチしない可能性が高いです。特に「クロスオーバー(帯域分割)」設定が馴染みません。なぜならその設定はスピーカーによって、さらには取り付け条件によって最適値が変わるからです。

そのため、スピーカーを換えるより先に、純正の設定をニュートラルな状態に戻し、その上でサウンドチューニングをやり直せる環境を作り、スピーカー交換はその後にした方がより良い結果が得られやすくなります。

なお、純正状態でサウンド制御がかけられているのか否かは、ひと目では分からない場合が多いです。自分の愛車がそれに該当するのか否かは、「カーオーディオ・プロショップ」にて確認すると良いでしょう。

純正オーディオシステムがシンプルであればあるほど「スピーカー交換」が向く

逆に、「スピーカー交換」が特に向いている車種もあります。それは純正オーディオシステムがシンプルな車種です。特に、ドアに取り付けられたスピーカーだけで低音から高音までを再生している場合は、「スピーカー交換」の効果がよりはっきりと表れます。

その理由は以下のとおりです。セパレート2ウェイスピーカーに換えればツイーターを高い位置に取り付けられるようになるからです。そうすると、サウンドステージが目の前で展開されやすくなります。人間は高音は出どころが分かりやすく、低音は出どころが分かりにくいので、高音が高い位置から聴こえてくると低音も高い位置から聴こえているものと錯覚します。その結果、音場が高い位置で展開しやすくなるのです。

「スピーカー交換」では、取り付け費用にも予算を割くベシ!

ところでスピーカーを交換する際には、取り付け費用にもある程度の予算を計上するべきです。なぜならば、カースピーカーはスピーカーユニットが裸の状態、つまりは半完成品の状態で売られています。そのため、スピーカーを取り付ける作業はいわば、「スピーカーを作る作業」でもあるわけです。そこには部材代も手間もかかるため、相応の費用が発生します。

ただし、どれだけ手をかけるかは調節できます。例えば当初はごく簡単な施工にとどめて、予算の多くをスピーカー代にあてるという作戦も選択できます。

とはいえ、ドア内部の音響的なコンディションを上げるための作業は、後からでもやるべきです。そうしないと交換したスピーカーの性能を十分に引き出せません。せっかく予算を投じてスピーカーを換えるのですから、スピーカーとしての完成度を上げなければもったいないです。

【Part5】“音を良くする”方法のいろいろ。「コントロール機能の追加」編


「パワーアンプ内蔵DSP」の一例「ミューディメンションDSP-680AMPV2」(Photo by イース・コーポレーション)

車内には、音響的な不利要因が3つある

カーオーディオの音を良くするための方法はもう1つあります。それは「コントロール機能の追加」です。なお、高性能な市販ヘッドユニットに交換することでも高度なコントロール機能をシステムに付与できますが、ヘッドユニット交換が向かない(できない)車種も少なくなく、そうであればサウンドチューニングに特化したユニットである「単体DSP」、または「パワーアンプ内蔵DSP」をシステムに加えましょう。ちなみに「DSP」とは、「デジタル・シグナル・プロセッサー」の略称です。

さて、コントロール機能の追加がなぜに有効なのかというと、理由は主には3つあります。1つは「狭いがゆえに反射音の影響を受けやすいから」、2つ目は「リスニングポジションが左右のどちらかに片寄るから」、3つ目は「スピーカーの取り付け位置や取り付け条件が車種やオーナーの考え方で変わるから」、です。

反射音の影響で、周波数特性が乱れがちに。しかしイコライザーがあれば対処可能!

それぞれについて踏み込んで説明していきたいと思います。まずは「狭いがゆえに反射音の影響を受けやすいこと」についてです。

車内は狭いがゆえにパネルや窓ガラスに音が反射し、平行面の間で行ったり来たりを繰り返す「定在波」が発生しがちです。これが発生すると、特定の帯域の音が増幅したり減衰したりする現象が起こります。しかし「イコライザー」を駆使すればそれへの対処が可能になります。

そしてリスニングポジションが左右のどちらかに片寄ると、ステレオイメージの再現性が落ちます。左右のスピーカーから等距離の場所で聴かないと、ステレオの原理が成り立ちにくくなるからです。しかし、これについては「タイムアライメント」にて対処できます。当機能を使えば近くにあるスピーカーの発音タイミングを遅らせられるので、すべてのスピーカーから当距離の場所にいるかのような状況を作り出せます。

そして車内ではスピーカーの取り付け条件が、車種や都合によって変化します。結果、帯域分割のさせ方も状況に応じて変えたくなります。そんなときには「クロスオーバー」機能を駆使すれば、状況に合わせた最適な帯域分割のさせ方を模索できます。

「パワーアンプ内蔵DSP」なら、導入のハードルは案外低い

ところで、「DSP」の後段には必ずパワーアンプを置かなければなりません。しかも詳細なサウンド制御をする場合には、フロントスピーカーが2ウェイであればツイーターとミッドウーファーの音を個別に制御することとなるので、パワーアンプのチャンネル数は計「4」が必要になります。スピーカーの1つ1つに対してパワーアンプの1chずつをあてがう「マルチアンプシステム」を組むことになるわけです。結果、システムが大がかりになってしまいます。

しかし「パワーアンプ内蔵DSP」を用いる場合には、システムをコンパクトに仕上げられます。なぜなら「パワーアンプ内蔵DSP」には、その名のとおりパワーアンプが収められているからです。しかも案外リーズナブルな製品もあります(10万円以下のモデルも珍しくありません)。というわけで、「パワーアンプ内蔵DSP」を導入するという作戦は、それほどハードルが高いわけではありません。検討する価値は大きいです。

【Part6】ハイエンドカーオーディオの世界


ハイエンドシステムを搭載したオーディオカーの一例
「製作ショップ:カーオーディオクラブ<大阪府>」(Photo by 太田祥三)

ディープに楽しもうとすると、外部パワーアンプの使用に行き着く

最後に、ディープにカーオーディオを楽しもうとするときの方法論を紹介したいと思います。

冒頭で触れたようにディープに楽しもうとする場合には、外部パワーアンプの使用に行き着きます。なぜなら、純正・市販を問わずヘッドユニットに内蔵されているパワーアンプと市販の外部パワーアンプとでは、大きな性能差があるからです。ヘッドユニットの内蔵パワーアンプにはサイズ的な、そしてコスト的な制約が重くのしかかり、限界があります。対して外部パワーアンプにはそれらの制約がないので、エントリーモデルであっても内蔵パワーアンプと比べて高性能です。

というわけでディープに楽しもうとする場合には、「高音質な市販ヘッドユニット+外部パワーアンプ」、または「単体DSP+外部パワーアンプ」、このどちらかに市販スピーカーを組み合わせてシステムメイクが成されます。

なお、本格的なシステムを組もうとする場合には「カーオーディオ・プロショップ」の力を借りた方が確実です。特に「カーオーディオ」では、機器の性能だけでは最終的なサウンドクオリティが担保されません。取り付けとサウンドチューニングの巧拙も、最終的な音の善し悪しに大きな影響を及ぼします。なので、経験と技術を持ったプロに仕事を任せた方が安心です。

せっかく予算を投じるのであれば、良い結果を手にするべきです。興味があればお近くの「カーオーディオ・プロショップ」を探し、一度店内を覗いてみましょう。新たな発見と出会えるはずです。是非!

執筆者プロフィール

太田祥三(おおた しょうぞう)
1966年生まれ。大学卒業後、出版社に勤務し雑誌編集者となる。カー雑誌、インテリア雑誌、カーオーディオ専門誌の編集長を歴任した後、フリーランスに。カーオーディオ、カーナビ、カーエレクトロニクス関連を中心に広く執筆活動を展開中。ライフワークとして音楽活動にも取り組む。主宰するバンド『3-4-3(さん-よん-さん)』にて、女子サッカークラブ『スフィーダ世田谷FC』(なでしこリーグ1部所属)の公式応援歌の制作も手掛ける。