日本オーディオ協会 創立70周年記念号2022autumn

『立体音響、飛躍の10年』
私が思うエポックな立体音響作品10作

選 麻倉怜士(オーディオビジュアル評論家)

没入感抜群! 立体音響の魅力を明確に実感できる、感動の10作品

Title1 『ストラヴィンスキー:バレエ<春の祭典>/ダニエーレ・ガッティ指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団』(RCO Live) Auro-3D ※BD-ROM

Title2 『静かな村/ノルウェー少女合唱団』(2L) Auro-3D、Dolby Atmos ※BDオーディオ+SACD/CDハイブリッド

Title3 『FEEL LIKE MAKING LIVE!/BOB JAMES TRIO」(Evosound) Auro-3D、Dolby Atmos ※UHDブルーレイ

Title4 『冨田勲・源氏物語幻想交響絵巻 Orchestra recording version/藤岡幸夫 指揮 関西フィルハーモニー管弦楽団』(RME Premium Recordings) Auro-3D、Dolby Atmos ※BD-ROM

まずAuro-3D音声を収録している作品から4タイトルを選んだ。今回の10タイトルでは、最大の占有率(?)だが、それはフォーマットとしての高音場再現性と高音質からの選択である。

ガッディ指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の『春の祭典』(Title1)のブルーレイビデオは、このオーケストラと会場、そしてAuro-3Dを知り尽くしている録音集団、ポリヒムニア・インターナショナルの傑作だ。実にブレゼンス豊かで緻密なイマーシブ音場。冒頭、サックスとファゴットの微細音がホールいっぱいに広がり、オーボエ、フルート、クラリネットと徐々に音数を増やし、複数のサウンドが融合する音響の綾が、微細なニュアンスと豊かなホールトーンを伴なって体験できる。

最高レベルの音場と音質にこだわるノルウエー2Lは、Auro-3Dを圧倒的なクォリティで聴かせてくれる。どの作品も傑作揃いだが、なかでも『静かな村』(Title2)のBDオーディオは素晴らしい。実にクリアーでありながら同時にウォームであり、人の声とはこれほど、静穏で神々しく、そして清らかであるかが聴ける。録音会場の教会のソノリティも精妙で、空気が澄み切っている。教会の大きな空間が醸し出す、グラデーションの綾が美的だ。

ボブ・ジェームスのUHDブルーレイ『FEEL LIKE MAKING LIVE!』(Title3)に収録されたAuro-3D音声も絶品だ。WOWOWの入交英雄氏が本家ベルギーのギャラクシー・スタジオでミックス。アンビエント成分は同スタジオでの空気録音から作成したというから驚き。それもあり、音楽的表現と音場的な表現が圧倒的だ。

Auro-3D音声の入交録音作品では、『冨田勲・源氏物語幻想交響絵巻 Orchestra recording version』(Title4)の絢爛イマーシブも圧巻だ。

Title5 『22.2chで楽しむ 日本エコー遺産紀行 ゴスペラーズの響歌』(NHK) 22.2マルチチャンネル ※BS8K放送番組

Title6 『草間彌生 わが永遠の魂』(NHK) 22.2マルチチャンネル ※BS8K放送番組

Title7 『8Kドラマ「スパイの妻」』(NHK) 22.2マルチチャンネル ※BS8K放送番組

Title8 『La La Land』(Lionsgate) ドルビーアトモス ※海外盤UHDブルーレイ

Title9 『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(Warner) ドルビーアトモス ※UHDブルーレイ

Title10 『バッドボーイズ フォー・ライフ』(Sony Pictures) DTS:X IMAX Enhanced ※UHDブルーレイ

NHK BS8K放送の22.2マルチチャンネル音声作品にも傑作が多い。その最右翼が『22.2chで楽しむ 日本エコー遺産紀行 ゴスペラーズの響歌』(Title5)。銭湯や廃坑などの残響の多い場所で、ヴォーカルグループのゴスペラーズがハンドマイクなしのアカペラで歌い、発生した響きを22.2マルチチャンネルで収録する。建物の形、大きさ、材質など収録場所によって違う残響の量と質を楽しむ番組だ。

22.2マルチチャンネルでは『草間彌生 わが永遠の魂』(Title6)も興奮の音だ。彼女のポップな作風と色に負けない、印象的でカラフルな音楽がイマーシブで飛翔する。縦横に飛び交う音の移動感がダイナミック。22.2マルチチャンネルでは『8Kドラマ「スパイの妻」』(Title7)も主観演出型として注目したい。

残り三作はUHDブルーレイの映画作品。ドルビーアトモス音声作品では、『La La Land』(Title8)の高質感に感動し、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(Title9)の過激な音場、音像のイマーシブ展開に興奮。IMAX Enhanced音声(コンテナはDTS:X)の『バッドボーイズ フォー・ライフ』(Title10)はDTS伝統の雄大で鮮明、剛毅なサウンドが嬉しい。

執筆者プロフィール

麻倉怜士(あさくら れいじ)
オーディオビジュアル評論家。津田塾大学/早稲田大学エクステンションセンター講師(音楽)
雑誌編集者を経て評論家の道へ。製品ジャンルやメディアの枠に留まらず、八面六臂、オールマイティな活動を続ける才人。現在、オーディオビジュアル専門誌HiVi(ステレオサウンド社刊)主催の、HiViグランプリ選考委員長。