日本オーディオ協会 創立70周年記念号2022autumn

『アナログ、復権の10年』
私が思うエポックなアナログレコード10作

選 猪熊隆也(アキュフェーズ)

繰り返し聴いて感動を得た作品、そして音質調整にも使う愛聴盤

Disc1 『TIME OUT/THE DAVE BRUBECK QUARTET』(Columbia)

Disc2 『SERVICE/YMO』(Alpha)

Disc3 『シューベルト:ピアノ五重奏曲「ます」/田部京子(ピアノ)、カルミナ四重奏団』(Nippon Columbia)

Disc4 『魂リク/福山雅治』(Universal Music)

Disc5 『カーネギー・ホール・コンサート/ハリー・ベラフォンテ』(RCA)

Disc1は実家にレコードがあり、変則拍子の曲に惹かれてよく聴いていました。後に、父親の世代は皆持っていた名盤だと知りました。オーディオやジャズに興味を持つきっかけとなったディスクです。

Disc2は、小遣いを貯めて買った“最後”のレコードです。発売が1983年なので、この後はCDがメインソースになっていきますが、当時は珍しかった黄色いカラーレコードで見た目も良く、何度も繰り返して聴いていました。

Disc3は、2008年にデジタル録音された作品ですが,雰囲気や演奏者の気配、熱気までよく収録されており、今でも製品の音質調整用ソフトの1枚として使っています。

Disc4は、ギター一本での弾き語りで録音も良いので,イベントでも使っていますが,予備を購入しようとしたら既に廃盤となっており、ネットオークションでは定価の3倍ほどの値段がついていました。レコードブームを実感した1枚です。

Disc5は、オリジナルは1959年というステレオ黎明期に録音されており、現代のオーディオシステムで聴くと、当時の録音テープにはこんな細かい音まで入っていたのかと驚くばかりです。

Disc6 『ブラームス:交響曲全集/サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団』(Berliner Philharmoniker Recordings)

Disc7 『ニューヨーク52番街/ビリー・ジョエル』(Columbia)

Disc8 『30/アデル』(Columbia)

Disc9 『夜の静けさに/カラブリア・フォーティ』(Moco Records)

Disc10 『パリ~ショーソン・ラウタヴァーラ・プロコフィエフ/ヒラリー・ハーン』(Deutsche Grammophon)

Disc6は、現代の録音では考えられないダイレクトカッティングを名門オーケストラが行なうとは、世界中でアナログが復活していることを象徴する事件でした。

ソニー・ミュージックのプレス工場建設はレコード生産に対する情熱を感じますし、その第一弾がCDとして初めて世に出たこのタイトル(Disc7)というのも洒落ています。

Disc8に代表されるように、昔のリイシューだけでなく、海外の人気アーティストとの最新アナログレコードも増えてきており、幅広い年代でレコード再生が人気になるのも分かります。

Disc9は、2017年に発売されたCDの、45回転重量ディスク盤でお気に入りの1枚です。CDも高音質でしたが、この盤はよりしっとりしたアナログらしい音色が楽しめます。

Disc10は、演奏もさることながら、空気感や音楽のダイナミズム、陰影などもよく再現されており、やっぱりアナログっていいなと思わせる音質です。

執筆者プロフィール

猪熊隆也(いのくま たかや)
アキュフェーズ株式会社 取締役 第二技術部長
1970年、三重県生まれ。金沢工業大学電子工学科卒業後、株式会社ケンウッド(現 株式会社JVCケンウッド)を経て、2003年にアキュフェーズ株式会社に入社。アナログ、デジタル機器の開発、設計に従事し、2022年から現職。現在、同社において音質責任者を務めている。