日本オーディオ協会 創立70周年記念号2022autumn

『アナログ、復権の10年』
私が思うエポックなアナログレコード10作

選 長妻雅一(ラックスマン)

「詰まらず緩まず」弾力的なサウンドが魅力のアナログレコード10選

2010年頃から盛り上がってきたアナログディスク再生が最近とてもおもしろい。同時期に盛り上がったハイレゾ再生・ファイル再生に対抗してアナログディスク再生が復活したと考えています。

発売されてから数十年を経たレコード、アナログ録音をリマスターしたもの、最近発見されたアナログ録音をレコード化したもの、最新のデジタル録音をレコード化したものと多種多様なレコードを楽しめる良い環境になってきました。

昔、もっと良い音で聴きたいと思ったレコードが現在のシステムで再生するとこんな音が記録されていたのかと驚くことが多々あります。

私はワンポイント録音のようなシンプルな録音が好きですが、それとは対照的にコントロールし尽くされた録音も興味深いものです。特に「詰まらず緩まず」の絶妙なバランス感覚で弾力的な音に仕上げられたものは聴き応えがあります。ここでは上記のような音が楽しめる作品の中から、エポックだと思う作品を取り上げてみたいと思います。

Disc1 『Nightclubbing/Grace Jones』(Island Records)

Disc2 『The Immaculate Collection/Madonna』(Warner Bros.)

Disc3 『Dangerous/Michael Jackson』(Epic)

Disc4 『Don’t Smile At Me/Billie Eilish』(Darkroom)

Disc5 『An Die Musik Shubert Songs Lieder/Elly Ameling』(Philips)

アイランド・レコードから始まった一連の位相と弾力コントロール、つまりソリッドでもソフトでもなく、その中間的な弾力がありつつ、ほぐれた音を作り出す流れは今も進歩し続けています(Disc1~3)。最近ではビリー・アイリッシュ(Disc4)がその変化点に入っているかもしれず、そうあって欲しいという期待を含めて取り上げました。

Disc6 『The Hunter/Jennifer Warnes』(Private Music)

Disc7 『Fantôme/宇多田ヒカル』(Universal Music)

Disc8 『Behind The Dikes The 1969 Netherlands Recordings/Bill Evans』(Elemental Music)

Disc9 『ストラヴィンスキー:バレエ<春の祭典>/ワレリー・ゲルギエフ指揮マリインスキー劇場管弦楽団』(Decca/Stereo Sound)

Disc10 『小椋佳』(Universal Music/Stereo Sound)

小椋佳(Disc10)のレコードは録音されたコンサートを思い出し鳥肌が立ちました。45年を経過して、当時以上に楽しめ素晴らしい経験ができました。

さまざまな年代の演奏・録音を高音質で楽しめるようになったことをとても嬉しく思います。
趣味のオーディオ愛好家として、またオーディオ機器の開発に携わる立場として、レコード制作に関わる皆様の努力に感謝致します。

執筆者プロフィール

長妻雅一(ながつま まさかず)
ラックスマン株式会社 取締役 開発部 部長
1960年、千葉県生まれ。東京電機大学工学部電子工学科卒。東芝の家電機器技術研究所に勤務後、アルパインに入社。その後、ラックスマンに移籍。CDプレーヤーやプリメインアンプなどの開発に携わる。2004年から開発部長として同社製品の開発を統括。2015年から開発本部長に、2020年に同社取締役に就任。今に至る。