日本オーディオ協会 創立70周年記念号2022autumn

『アナログ、復権の10年』
私が思うエポックなアナログレコード10作

選 小原由夫(オーディオ評論家)

徹底したこだわりが感じられる音質、仕様、装丁の作品を厳選してチョイス

Disc1 『Welcome 2 America/PRINCE』(Sony Music)※DELUXE EDITION LP×2、CD、BD仕様

Disc2 『The Division Bell 20th Anniversary Edition/PINK FLOYD』(EMI/Parlophone)※7 Disc Collectors’ Box Set LP×2、12inch、7inch×2、CD、BD仕様

Disc3 『Kind of Blue 50th Anniversary/MILES DAVIS』(Columibia)※LP、CD×2、DVD仕様

Disc4 『Respighi:Pines of Roma/REINER、CHICAGO Symphony』(RCA)※LP×4仕様

Disc5 『チューブラー・ベルズ/マイク・オールドフィールド』(Mercury)※100% Pure LP仕様

エポックとして採り上げたい近年のレコードを大雑把に分類すると、純粋な音質追求とリマスタリング、未発表発掘物、さらに装丁に工夫がある作品という3パターンになりそうだ。

発掘物で真っ先に挙げたいのがプリンスのDisc1で、お蔵入りしていた生前の録音が、ブルーレイディスク付きの装丁で初めて日の目を見た。豪華ブックレット付きで、資料的価値もひじょうに高い。

Disc2のピンクフロイドは、オリジナル盤リリースから20周年となるアニバーサリーBOXで、7インチ特典盤や5.1ch音声収録のBDオーディオ盤などが収録された豪華版。

Disc3も発売50周年を記念するもので、リマスタリングLP/CDの他にドキュメンタリーを収録したDVDが付属する。こうした仕様がファンにはたまらないところ。

45回転盤は諸条件から高音質が期待できるが、片面のみカッティングの重量盤は、どんなメリットが享受できるのか、私自身は実際よくわからないが、米クラシック・レコードはそうした体裁で数タイトル発売した。私は大好きなレスピーギ/ライナー盤(Disc4)でその恩恵に与っている。

Disc5は本文でも触れた「100% Pure LP」の人気盤だ。

Disc6 『Chant/DONALD BYRD』(Blue Note)※TONE POET Series

Disc7 『Amused to Death/Roger Waters』(Columbia/Analog Productions)※LP×2仕様

Disc8 『The Nightfly/DONALD FAGEN』(Warner/ MOBILE FIDELITY)※Ultra One Step Pressing仕様

Disc9 『Congo Blue/八木隆幸トリオ』(JazzTOKYO RECORDS)※ダイレクトカッティング盤。45回転LP×2仕様

Disc10 『Another Answer〜Special Edition/井筒香奈江』(Jellyfishlb)※ラッカー盤仕様。詳細はこちら

ブルーノートのTONE POETシリーズ(Disc6)は、ケヴィン・グレイによるていねいなリマスタリングが施された貴重な復刻盤シリーズ。

リマスタリング/リミックスの上、プレスのクォリティにもこだわったDisc7は、米Qualty Recordsのヴァージンビニール製で1000枚限定。

本文でも触れたプレス工程を省いた高音質盤では、モービルフィディリティの「Ultra One Step Pressing」シリーズがあり、発売とほぼ同時に完売となったドナルド・フェイゲンの名作(Disc8)がその代表的なタイトルである。

ダイレクトカッティングという手法が最新機材によって今世紀復活したことも嬉しい。キングレコードが関口台スタジオに設備を備え付け、既に3タイトルが発売されているが、私は八木隆幸トリオの45回転LP2枚組(Disc9)を推す。緊張感と鮮度の高さが素晴らしい。

女性シンガーの井筒香奈江は、なんとスタンパーやメタルマザーを作る大元となるラッカー盤(Disc10)を完全受注販売! 最新アルバム『Another Answer』からの5曲を45回転にて、ミキサーズ ラボ所属のエンジニア北村勝俊氏が1枚1枚カッティング。素材の性質上、最良の音で聴けるのは数回のみ。これぞ究極の贅沢だろう。

執筆者プロフィール

小原由夫(おばら よしお)
オーディオ評論家。測定器メーカーのエンジニア、編集者という経歴をバックボーンに、オーディオおよびオーディオビジュアル分野に転身。ユーザー本位の姿勢でありながら、切れ味の鋭い評論で人気が高い。現在は浦賀で悠然と海を臨む「開国シアター」で、アナログオーディオ、ハイレゾオーディオ、ヘッドホンオーディオ、三次元立体音響対応のオーディオビジュアル、自作オーディオなどなど、ありとあらゆる分野を実践中。