日本オーディオ協会 創立70周年記念号2022autumn

『ハイレゾ、発展の10年』
私が思うエポックなハイレゾ10作品

選 三浦孝仁(オーディオ評論家)

ハイレゾらしさが存分に楽しめる10タイトルを厳選

Title1 『Gaudeamus/Sacred Feast』(dmp) ハイブリッドSACD

Title2 『ホテル・カリフォルニア/イーグルス』(Asylum) DVDオーディオ

まず筆頭に挙げたいのは米国のDigital Music Products(dmp)から2000年にリリースされた、混声合唱団のハイブリッドSACD『Gaudeamus / Sacred Feast』(Title1)である。主宰者兼エンジニアのTom Jung氏は古くから私の友人で、この作品は世界初の「SACDステレオ/SACDマルチチャンネル/CDステレオ」フル収録盤である。録音にはフィリップスのDSD録音&編集機が使われ、その技術はDSD/DXD対応のPyramix(DAW[Digital Audio Workstation])に引き継がれた。

アナログ録音のマスターテープからハイレゾで新鮮な息吹を与えたDVDオーディオ盤『ホテル・カリフォルニア/イーグルス』(Title2)も印象深い。特にマルチトラック音源から96kHz/24bit化された5.1chは衝撃的。私はマルチチャンネル再生の普及に期待したが、うまくはいかなかった。流行の兆しがある空間オーディオはマルチチャンネル再生に近く、今度は定着するか興味津々である。

Title3 『ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ集1 悲愴&月光/河村尚子(ピアノ)』(RCA RED SEAL) DSF 2.8MHz

Title4 『J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・パルティータ全曲/神尾真由子(ヴァイオリン)』(RCA RED SEAL) DSF 2.8MHz

Title5 『スクリャービン・リサイタルI ピアノ・ソナタ全集Vol.1/尾城杏奈」(TRITON)

Title6 『ザ・ウルティメイト DXD 384KHz』(ART INFINI) WAV 384kHz/24bit

Title7 『ザ・ウルティメイト DSD11.2MHz』(ART INFINI) DSF 11.2MHz

Title8 『ロイヤル・バレエ・ガラ/アンセルメ指揮コヴェントガーデン王立歌劇場管弦楽団』(RCA/Stereo Sound) DSF 11.2MHz

Title9 『ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」/イシュトヴァン・ケルテス指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団』(DECCA/Stereo Sound) DSF 11.2MHz

Title10 『J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲(全曲)/ヤーノシュ・シュタルケル(チェロ)』(Mercury/Stereo Sound) DSF 11.2MHz

字数が限られているので羅列になってしまうが日本人アーティストを中心に述べよう。河村尚子(ピアノ)のベートーヴェンのピアノソナタ第1集(Title3)や神尾真由子(ヴァイオリン)のバッハ無伴奏のDSD音源(Title4)は、鮮度感の高いダイナミクスと音数の多さで好感を抱いている。

高音質レコーディングを追求するオクタヴィア・レコードは、ウェルフロートの採用でグランドピアノの音色の響きに新境地を見出した。『スクリャービン・リサイタルⅠ/尾城杏奈』(Title5/レーベルはTRITON)は、その好例といえよう。

元ソニー・クラシカルの武藤敏樹が主宰するART INFINI(アールアンフィニ)レーベルも日本人演奏家に特化しており、配信限定の『ザ・ウルティメイト DXD 384KHz』(Title6)と『ザ・ウルティメイト DSD11.2MHz』(Title7)は、録音フォーマットによる音の違いもわかるコンピレーション。

古い海外録音のクラシック楽曲では、ステレオサウンド社がライセンス販売するDSD11.2MHz収録のBD-ROM『ロイヤル・バレエ・ガラ/アンセルメ指揮コヴェントガーデン王立歌劇場管弦楽団』(Title8)と『ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」/イシュトヴァン・ケルテス指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団』(Title9)、そして『J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲(全曲)/ヤーノシュ・シュタルケル(チェロ)』(Title10)などは秀逸なアーカイブ音源として推薦できる。

執筆者プロフィール

三浦孝仁(みうら たかひと)
オーディオ評論家。中学時代よりオーディオに目覚め、以来ずっと音の高みを目指している。アナログ技術とDSD/PCMデジタル技術に強く、国内外の最新オーディオ関連の情報、知見、理解は抜きんでている。愛好する音楽ジャンルは多彩であるだけでなく、録音現場の情報にも精通している。現代を代表するオーディオ評論家の一人である。