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日本オーディオ協会 創立70周年記念号2022autumn
『ハイレゾ、発展の10年』
ハイレゾオーディオ発展の流れ
オーディオ評論家 三浦孝仁
SACD、DVDオーディオを萌芽として大きく発展。
様々な手法でハイレゾ音源の高音質再生が追求され続けている
ハイレゾの先駆けはSACDと、DVDオーディオ
ハイレゾリューションのオーディオ再生(以下、ハイレゾ再生)は、これまでに大きな進展を遂げてきた。本格的なハイレゾ再生の先駆けといえるのは、この2022年から数えて23年前の1999年に登場したスーパーオーディオCD(Super Audio CD/SACD)がもたらした2.8MHzサンプリングのΔΣ(デルタ・シグマ)変調1ビットDSD(Direct Stream Digital)と、少し遅れながらも同じ1999年に登場したDVDオーディオによる最高192kHzサンプリング/24ビット(ステレオ再生)のPCM再生であろう。それ以前に、DVDビデオが96kHzサンプリング/24ビット(ステレオ再生)を実現していたことも挙げておきたい。いずれも光学ディスクを媒体にしたデジタルコンテンツのパッケージメディアであり、それぞれ手法は異なるものの著作権保護を目的としたコピープロテクションが施されている。それは演奏者やレコード会社などコンテンツ制作側にとって大きな安心材料になっていた。
SACDは、ソニーと蘭フィリップスにより規格化された次世代CD規格。CDと同じ12cm径1.2mm厚の光ディスクに1層ないしは2層の記録層を持たせた。1層にSACDに、もう1層にCD信号を記録した2層(ハイブリッド)仕様も可能。信号記録方式はDSD(2.8MHz/1ビット)で、情報量だけでいえばCDと比較して4倍となる。1999年5月21日に第一弾タイトルとして写真の『カインド・オブ・ブルー/マイルス・ディビス』を含む13作品がリリース
SACDプレーヤーの初号機、ソニーSCD-1。SACD規格制定メーカーとしてその高音質を世に問いた意欲作で、SACDプレーヤーの原器ともいえる存在だろう。トップローディング式メカニズムとSACDとCD用の光ピックアップを独立搭載、バランス出力の装備も特徴
1996年に登場して市民権を得たDVDビデオ規格をベースに高品位オーディオ再生を目指したのがDVDオーディオ。物理的規格はほぼDVDビデオだが、5.1ch音源を含む高音質デジタル音声を収めることが可能だ。DVDビデオ盤との互換性を確保していることが特徴だが、操作に静止画メニューが不可欠なソフトがほとんどで、高品位音楽再生にディスプレイを使うという点がネックになり普及はしなかった。写真はワーナー・ブラザースの第一弾タイトルの『FOURPLAY/フォープレイ』。96kHz/24ビットの2chと5.1ch音源を収録していた
1999年末にテイクオフする予定だったDVDオーディオは、著作権保護用暗号方式の一部が不正解読を受けたことへの対応のため、翌2000年に発売延期された。第一世代機はテクニクスDVD-A10(写真)やパナソニックDVD-A7、ビクターXV-D9000など。パイオニアはSACDとのユニバーサル再生が可能なDV-AX10を1999年末市販したが、DVDオーディオ関連のアップデートを行なう前提だった
DRMフリー化がハイレゾ再生の盛況の原動力になった
ここではデジタルコンテンツ(音源)のなかでもハイレゾ音源を再生するオーディオに言及していくわけだが、その普及を加速度的に早めたのは、DRM(Digital Rights Management=デジタル著作権管理)を施さない、いわゆるコピープロテクションがないDRMフリーのデジタルコンテンツが流通し始めたことによる。もし現在もDRMを施したデジタルコンテンツが大半を占めていたら、こんにちのようなハイレゾ再生の盛況はなかったと断じていい。
たとえばデジタルコンテンツのダウンロード販売を行なっている「e-onkyo music」(サービス開始当時はオンキヨーエンターテイメントテクノロジー株式会社の子会社)は、2010年7月からDRMフリーのデジタルコンテンツを扱うようになった。音質の良さをセールスポイントにしている「2L」(ノルウェー)や「Naim」(英国)、「M・Aレコーディングス」(日本/米国)、そして「イーストワークスエンタティンメント」(日本)といったインデペンデントのレーベルが、彼らが最初に取り扱ったDRMフリーのデジタルコンテンツである。
いっぽう、オーディオファイル・レーベルとして世界的に知られている「Chesky Records」(米国)を主宰するデイヴィッド・チェスキーとノーマン・チェスキーの兄弟が米国で立ち上げた「HDtracks」(2008年~)も、DRMフリーのデジタルコンテンツを2008年から販売。2010年には大手ユニバーサル・ミュージック・グループ(UMG)のジャズ部門である「Verve」レーベルの音源が、メジャー初となるDRMフリーのデジタルコンテンツとしてHDtracksに登場している。レコード会社(つまりコンテンツ制作側)はコピープロテクションの存在を歓迎していたはずだが、購買者であるユーザーにとってDRMは不便極まりない存在だったのは間違いない。おそらくコンテンツ制作側は市場調査を行ない、DRMがある以上はデジタルコンテンツの普及は見込めないと判断したのだろう。かくして、ダウンロード販売されるデジタルコンテンツのほとんどはDRMフリーの音源になった。ハイレゾ再生を支えるコンテンツ供給側の態勢はこうして整ってきたのである。
2005年8月8日にオンキヨーがデジタル音源のダウンロード販売サービス「e-onkyo music」をスタート。当初はコピーガード技術(DRM)付きのWMA(Windows Media Audio)音源の販売に限定されていたが、2010年7月にDRMフリー楽曲のリリースを開始。2012年には国内外のメジャーレーベルが参画、2013年には全楽曲のDRMフリー化、2015年にはDSD11.2MHz音源を配信開始するなど、本格ハイレゾ時代のコンテンツ供給の一翼を担う。現在は仏Xandrie(Qobuzの運営会社)傘下
https://www.e-onkyo.com/music/
世界各国にさまざまなオーディオファイル御用達の音楽レーベルがあるが、近年意欲的な活動を行なっているのが、2001年にノルウェーで創立された「2Lレーベル」。創立者は、録音エンジニア、プロデューサーのモッテン・リンドベルグ氏。ハイレゾ・サラウンドにこだわり、米グラミー賞に最優秀録音技術アルバム部門や最優秀サラウンド・サウンド・アルバム部門などで多数ノミネートされている。最近ではAuro-3D、Dolby Atmosなどの立体音響やMQAを収録したアルバムを発売
http://www.2l.no/
カルフォルニア出身で日本在住のタッド・ガーフィンクル(Todd Garfinkle)が1988年日本で設立した「M・A Recordings」は、その名の通り「間」を大切にした音楽作品づくりを続ける音楽レーベル。いち早くDATを使ったハイサンプリング録音を行ない、さらにハイレゾ音楽データを記録した「Hi Rez DVD-ROM」も市販している
https://www.marecordings.com/main/product_info.php?products_id=177&osCsid=av96s6oqj3gtlvha6dq3apht62
日本以外でのハイレゾ販売サイトとしては「HD Tracks」が著名な存在。地域制限があり日本からのアクセスでは購入できない作品も多いが、使い勝手自体は非常に良好なサイトだ。それ以外にも超高品位DSD音源を販売している「NativeDSD」なども人気が高い
https://www.hdtracks.com/
https://www.nativedsd.com/
規格として現在最高峰のハイレゾは、「384kHz/32ビットPCM」と「11.2MHz DSD」
ハイレゾのコンテンツでは、最高位としてPCM系では384kHzサンプリング/32ビットが、DSD系では11.2MHzサンプリング/1ビット(DSD256/CDから比較してサンプリングレートが256倍になっているとの意味)が登場している(なお、演算処理による、これ以上のサンプリング周波数も存在している)。
DSDのコンテンツについて述べると、録音/編集に使われる拡張子(ファイルの末尾でフォーマットの種類を示す)が「DFF」(DSD Interchange File Format)のファイルは「FLAC」(PCMの可逆圧縮であるオープンフォーマット)のようにタグ情報(曲名や演奏者名などの付加データ)を扱うことが出来なかったが、英国SONY Oxfordが主導的に開発した拡張子が「DSF」(DSD Stream File)のDSDファイルでは、FLACと同等のタグ情報(専門的にいうとID3v2形式と呼ばれる)を扱うことが可能になった。このことにより、オーディオファイルにとってPCM(=FLAC)とDSD(=DSF)はハイレゾのデジタルコンテンツとして同等の存在となった。
一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA)が発行した、「ハイレゾオーディオの呼称について(周知)」(25JEITA-CP第42号 平成26年3月26日)では、「ハイレゾオーディオと呼称する場合に“CDスペックを超えるデジタルオーディオ”であることが望ましい」としている。言い換えると、44.1kHz/16ビットもしくは48kHz/16ビットPCMフォーマットを超えるものということになる。しかしながら、DSD(つまり2.8MHz/1ビットΔΣ変調)についての言及は見当たらない。
ハイレゾと呼ばれるデジタル音声データは、図で解説した6つが主流と考えてよいだろう。PCMの非圧縮/ロスレス圧縮で4種、DSDで2種となる
ハイレゾ音源の再生方法①パソコン+USB DAC
今日もっともポピュラーなハイレゾ再生は、パーソナルコンピューター(PC/OS基本操作ソフトはWindows/Macなど)を、USB接続が可能なDAC(D/Aコンバーター)と組み合わせた簡潔なシステムであろう。「USB」(Universal Serial Bus)規格は最初の「USB1.1」で96kHz/24ビットのステレオ再生を可能としていたけれども、High Speed伝送にも対応した「USB2.0」が2000年に登場することで本格的なハイレゾ再生を実現した感がある。
Windowsの場合は2006年リリースのVISTA OS以降で標準搭載されている「WASAPI」(Windows Audio Session API/ワサピと読む)を活用した「WASAPI排他モード」に加えて、録音制作用のオーディオデバイスのドライブインターフェイスのひとつである「ASIO」(Audio Stream Input Output/アジオ。独スタインバーグ社が開発)の利用でハイレゾ再生が容易になった。
たとえばDSDを再生する場合に、WASAPIではDSD信号をPCMの信号列に配置する「DoP」(DSD over PCM Frames)という手法が必要だったが、ASIOでは「ASIO 2.1」(2005年)で直接的にDSD信号を扱うことができるようになった。ハイレゾ再生におけるUSB接続では、再生する側のDACに信号が同期する「アシンクロナス転送」(非同期転送)方式が主流となっている。
PCを使ったハイレゾ再生には、音楽管理再生ソフトウェアが欠かせない。OS(基本操作ソフト)の対応(Windows/Mac/Linux)に加えて有償や無償など再生ソフトウェアには違いがあるが、「foobar2000」(フーバーにせん)や「JRiver Media Center」(ジェイリバー・メディア・センター)、「HQPlayer」(エイチ・キュー・プレーヤー)、コルグの「AudioGate」(オーディオゲート。ライセンス認証が必要)、そして買い切り販売から定額制利用形態(サブスクリプション)に移行した「Audirvāna」(オーディルヴァーナ)などがポピュラーな存在といえよう。また、単体D/Aコンバーターなどの機器メーカーが供給している専用の音楽管理再生ソフトウェアもある。詳細設定が必要な場合もあるけれども、USB接続DACと組み合わせて高音質なハイレゾ゙再生を可能にした功績は非常に大きい。昨今のCDプレーヤーや多くの2chアンプには、上記の接続が可能なPC連携用のUSB Type B入力を備えており、ハイレゾ再生への準備が充分に整っている。
ハイレゾ音源は主にインターネットのダウンロードサイトから購入することが多いので、その購入に使ったパソコンとオーディオ機器をUSBケーブルで直接つないで再生する方法が普及した。再生ソフトやその設定で音質に大きな違いがでることや、パソコンをリスニングルームに常設する必要があること、再生ソフトを含めた環境の変化が大きいことから、パソコン操作のスキルが求められる方法だ
「パソコンとの連携だけ」を想定したUSB入力専用の本格D/Aコンバーターとして2009年に颯爽と登場したのが、エアーQB-9。USB伝送の中で音質面で有利とされる「アシンクロナス」方式を確立、ハイエンドグレードのUSB DACの存在を知らしめた。2010年には192kHz対応(写真)に、2013年にはDSD対応、2017年には5.6MHz DSD、2019年には384kHz PCM、11.2MHz DSD対応を果たした「QB-9 Twenty」に進化している
録音の分野でDSD対応を意欲的に行なってきたコルグが、2012年にリリースした同社初の家庭用DSD対応D/AコンバーターがDS-DAC10。専用ソフトウェア「Audio Gate(オーディオ・ゲート)」との連携で、5.6MHz DSD音源がスムーズに再生できた
Windows OSパソコン向けの音楽ファイル再生ソフトプラットフォーム「foobar 2000」。必要なソフトを組み込むことで多機能を実現している。無料で使えるソフトだが、一定以上のパソコンスキルを持つ人が使うソフトというイメージがある
https://www.foobar2000.org/
Mac OSパソコンの音楽再生ソフトとして一斉を風靡したのが、「Audirvāna」。高音質と比較的使いやすい操作ロジックで人気を博した。Windows OSパソコンやネットワーク再生対応などの年々進化を果たした。近年では買い切り型の料金形態から、月額利用制に移行し、その後買い切り型のORIGINも復活している
https://audirvana.com/?gclid=Cj0KCQjwvZCZBhCiARIsAPXbajv81Jut3D3AB17G3BtVoHbvAckoybQgBEP4yJQxN8wvdjureBX16C8aAr6nEALw_wcB
ハイレゾ音源の再生方法②ミュージックサーバー+ネットワークプレーヤー
PC+USB接続DACの組合せと双璧といえる本格的なハイレゾ再生の方法は、ネットワーク回線を利用して専用のネットワーク接続DACと組み合わせる、いわゆるネットワークオーディオであろう。その先駆けとなったのは、リン・プロダクツ(英国)が2007年に提唱した「DS」(Digital Stream)である。ミュージックサーバー・ソフトウェアを搭載する「NAS」(Network Attached Storage)にハイレゾを含む音源を格納してネットワークプレーヤーとLAN(Local Area Network)接続を構築し、専用の音楽再生アプリをインストールした操作用端末(たとえばiPadなどのタブレット)で音楽再生の操作を行なうというのがネットワークオーディオの基本的なスタイル。それぞれの機器は「UPnP(Universal Plug and Play)AV」やそのガイドライン的な「DLNA」(Digital Living Network Alliance)に準拠しており、音楽再生のプレーヤーは「DMR」(Digital Media Renderer)と呼ばれる。近年ではUPnPを基盤に改良が図られた「OpenHome」(オープンホーム)が主流になってきている。また、UPnP/DLNAには準拠せずに、ネットワーク上にある機器をそれぞれのIPアドレス(ネットワーク上の住所を示す値)で管理してハイレゾ再生も行う独自のシステムを採用したネットワークオーディオも存在する。
パソコンとDACをUSBケーブルでつなぐ、という1対1の関係ではなく、ネットワーク技術を駆使して、サーバー/コントローラー/レンダラー(狭義の再生機)を、独立させることで利便性を高める手法が、このネットワークオーディオ再生だ。基本概念はDLNAという家庭内ビデオネットワーク方式だが、英国リン・プロダクツがオーディオ再生向けに洗練させたメソッドを「OpneHome」としてまとめあげ、現在ではそれが広く利用されている
2007年10月の東京インターナショナルオーディオショウで初公開された、世界初の本格ネットワークプレーヤーのリンのKLIMAX DS。DRMフリー音源の普及やスマートフォンやタブレットなど広がりなど環境整備が進んだ2010年前後にその真価が広く知れ渡ったといってよいだろう。ちなみに初代iPhoneが米国で初登場したのも2007年だ(日本発売は翌年2008年のiPhone 3G)
リンが画期的だったのは、単にオーディオ製品としてのDSシリーズの展開だけはなく、コントロールソフトを含む、再生環境の整備を徹底的かつ継続的に行なっていることだ。再生ソフトは、「Linn GUI(グイ)」(2007年)から「Linn Kinsky(キンスキー)」(2011年)、「Linn Kazoo(カズー)」(2014年/写真)、「Linn app」(2020年)に進化している
オーディオ専用NAS、ミュージックサーバーの登場
ネットワークオーディオに欠かせない重要な存在が、音源を格納しておくNASである。PC+USB接続DACの場合でもNASからの音源で鳴らすという場合もあるだろう。ネットワークオーディオでは「Twonky Server」(トンキーサーバー)や「MinimServer」(ミニムサーバー)などのミュージックサーバー・ソフトウェアを組み込んだNASを使うのが一般的だが、汎用のNASではなく音質を最重視して設計されたオーディオ専用NASという製品が開発されたのもハイレゾ再生の発展での大きなトピックだ。その代表格は株式会社メルコホールディングス傘下のメルコシンクレッツ株式会社が開発した「DELA」(デラ)ブランドのミュージックライブラリーと、アイ・オー・データ機器株式会社による「fidata」(フィダータ)ブランドのネットワークオーディオサーバー。いずれも日本を代表するコンピューター周辺機器メーカーの企業が手掛けたというのも興味深い。
DELAもfidataも、それぞれカスタマイズしたTwonky Serverソフトを標準搭載しており、DELAでは排他的にMinimServerを選択することも可能。このようにオーディオ専用に設計されているNASは世界的にも類例が少ない。
ハイレゾ音源の再生方法③ミュージックサーバー+USB DAC
DELAとfidataのオーディオ専用NASが画期的だったのは、USB接続DACと直結することができるUSB Type A端子を搭載していること。これによりPCを使わずともUSB接続DACと組み合わせることが可能になり、しかも音楽再生のための操作系はネットワークオーディオのそれと同等で便利だというメリットが生じた。DSDのハイレゾ再生では多くの場合で検出用のマーカーを必要とするDoPだけではなく、メーカー側の動作確認と対応を経ることでDSDのネイティブ(ダイレクト)再生も実現できている。
音源格納場所としてのNASから脱皮して、オーディオ製品としての「ミュージックサーバー」という提案が相次いだことも見逃せない動きだ。その嚆矢となったのがパソコン周辺機器メーカーのバッファローが2014年2月にリリースしたDELAブランドのミュージックサーバー。同社では「ミュージックライブラリー」と称して以後、盛んに本格的なオーディオサーバーをリリースしていく
バッファローと並ぶPC周辺機器メーカー、アイ・オー・データ機器もオーディオ用サーバー製品に2015年に参入。fidataブランドで、こだわりの仕様を組み込みんだHFAS1シリーズを発売(写真は、2016年に追加されたブラック仕様)。こなれた画面デザインで使いやすい「fidataアプリ」も2017年にリリースしている
DELAとfidataが画期的だったのは、USB出力にてUSB DACとの連携機能を実装したことだ。USB DACをネットワークオーディオライクに使えるため、パソコンをオーディオルームに持ち込む必要がなくなるだけでなく、トラブルが多発していたパソコン側の設定や面倒な操作が不要になった
ハイレゾ音源の再生方法④Roon
ネットワークオーディオの分野では、「Roon Labs」による「Roon」(ルーン)も躍進している。Roonは独自開発の音楽管理再生ソフトウェアによるネットワークオーディオであり、定額制聴き放題(サブスクリプション契約)型音楽ストリーミングサービスのTIDAL(タイダル)やQuboz(クーバズ)と連動することで提案型の音楽体験を提供するという特徴がある。Roonはサブスクリプション(定額払い)で利用することができ、2022年時点では12.99米ドル/月、199.00米ドル/年、そして買い切りの場合は699.00米ドルである。
RoonはPC(Windows/Mac/Linux)に対応しているが、Nucleus(ニュークリアス)という自社製のRoon専用PCも発売している。Nucleusは、米国インテルが作るNUCという小型PCプラットフォームをベースに、それに最適化したRoon OSで動かすファンレスPCである。Roonは独自の楽曲データベースを構築しており、UPnP/DLNAなどのディレクトリーをベースにした楽曲管理とは大きく異なる。Roon Labsの創業は2015年。その前身は2006年創業のSooloos(スールース。2008年に英国メリディアン・オーディオが買収)である。独自プロトコルによるRAAT(Roon Advanced Audio Transport)というオーディオ信号伝送の仕組みがRoonの音質面での大きな特徴で、Roon Ready(もしくはRoon Tested)の認証を得ているUSB/LAN接続のDACやプレーヤー機能内蔵アンプ等と組み合わせるのが基本である。
オーディオファン、そして音楽愛好家向けに提供されているのがRoonだ。操作体系はシンプルであるが、既存のオーディオ再生機器とは発想の異なる多用途多機能を持つため、まず一部のマニアに受け入れられた。現在はその高音質や対応機器の広がりにより、人気が急速に高まっている
https://roonlabs.com/
Roonコアを動作させるRoon純正のハードウェアが、Nucleus(ニュークリアス)。独自のRoon OSで動作する。2018年発売され、現在は、第二世代機のNucleus Rev.Bに進化している
Roonの再生概念。ポイントはRoonコアという再生主体を常時動作させる必要があること。Roonコアはパソコンで動かしてもいいし、一定のスペックを満たすNASに組み込んでもよい。音源保管場所としては、RoonコアとUSBやLANでつながったストレージやNASなども使える。また、TIDALなどの定額制音楽ストリーミングサービスとの親和性も高く、自らのライブラリーと連携してストリーミング音源を再生するときの自由度、楽しさは比類がない
ハイレゾ対応の携帯型オーディオプレーヤーも広く普及
若年層を中心にハイレゾ再生に大きく貢献しているのは、携帯型オーディオプレーヤーこと、DAP(デジタル・オーディオ・プレーヤー)の存在であろう。MP3プレーヤーで知られる韓国iRver(アイリバー)が2012年に発売したAstell&Kern(アステル・アンド・ケルン)ブランドのDAP、AK100は192kHzサンプリング/24ビットまでのハイレゾ再生を可能にし、2014年発売のAK240では5.6MHzサンプリングのDSD再生を実現した。
日本ではソニーのウォークマンが2013年に発売したNW-F880シリーズから192kHzサンプリング/24ビット再生に対応し、翌年のソフトウェア・アップデートにより2.8MHzサンプリングのDSDをPCM変換して聴くことができるよう進化。DAPの分野は中国メーカーの参入もあり、現在も市場を賑わせている。
携帯型デジタルプレーヤーの人気をリードし続けているのが、韓国Astell&Kern。2013年10月に96kHz/24ビット再生対応のAK100をリリース。その人気を糧に意欲的な製品を次々とリリースした。写真は、2014年発売のAK240。当時としては驚異の5.6MHz DSD再生が可能なポータブルプレーヤーとして一斉を風靡した
1979年、世界初の携帯型オーディオプレーヤー「ウォークマン」をリリースしたソニーも携帯型デジタルプレーヤーの積極的な展開を行なっている。4.4mmバランス出力端子や99.96%純度の無酸素銅切削筐体などこだわりのプレーヤーが2016年リリースのNW-WM1Zだ
容量を抑えつつ高音質を獲得するエンコード/デコード技術「MQA」
最後にMQAについて述べておこう。MQA(Master Quality Authenticated)は英国メリディアン・オーディオにおいて開発されたもので、伝送容量を小さく抑えながらも高音質を獲得するというエンコード/デコードの技術。スタジオで録音されたそのままのマスタークォリティを再現することを目的としている。MQAは2015年に独立した法人となり、メリディアン・オーディオの共同創業者であるボブ・スチュアート氏がCTO(最高技術責任者)に就任した。
MQAの技術的な詳細は、日本オーディオ協会発行「JAS Journal 2015 Vol.55 No.6(11月号)」に寄稿されている。英国メリディアン・オーディオは、DVDオーディオ規格でマンダトリー(搭載必須要件)となったロスレス音声圧縮伸張技術「MLP」(Meridian Lossless Packing)を開発したことでも知られている。
MQAエンコードされた音楽CDは日本のユニバーサル ミュージックから「ハイレゾCD」として多くの作品が発売されており、「2L」(ノルウェー)や「eudora」(スペイン)等がリリースしているハイブリッド盤SACDではCD層がMQAエンコードされている。また、ハイレゾ音源のダウンロードを行なっているe-onkyoも積極的にMQAエンコードの音源を用意している。前述のTIDAL(現時点で日本未サービス)は、MQAエンコードされた96kHzあるいは192kHzサンプリング/24ビットのハイレゾ音源を提供している(2Lレーベルなどの音源のごく一部に384kHzサンプリング/24ビットもあり)。
MQA音源は、e-onkyo musicなどでダウンロード販売されているほか、CDフォーマットの物理メディアでも対応可能で、「MQA-CD」という名称でユニバーサルミュージックを中心に市販されている。写真はネルソンス指揮ウィーン・フィルの『ベートーヴェン:交響曲全集』でMQA-CD仕様の5枚組ボックスが2020年にリリース