日本オーディオ協会 創立70周年記念号2022autumn

日本オーディオ協会 創立70周年記念号について

日本オーディオ協会 専務理事 末永信一

今号のJASジャーナルは、日本オーディオ協会 創立70周年を祝した記念号として発行いたします。この記念号では、たくさんの専門家のご協力の元、主にここ10年でオーディオおよびオーディオビジュアルに起きた変化について振り返っていただきました。

  テーマ1 ハイレゾ、発展の10年
  テーマ2 アナログ、復権の10年
  テーマ3 立体音響、飛躍の10年

この3つのテーマを柱に、その内容をしっかり掘り下げ、ハード設計者だけでなくコンテンツの分野で活躍されている方々にもお話をお聞きし、記事にまとめております。各テーマの総論になる部分はオーディオ、オーディオビジュアル評論家の方々から寄稿していただき、また、エンジニア同士の対談を実施することで、どんなことがあったかを思い出してもらったり、どんなことを感じていたかを話し合っていただきました。どの対談も概ね初対面の相手ではありましたが、同じ時代を生きた者同士、話も合い、和気あいあいとした和やかな場になっていたことが、立ち会っていて大変印象的でした。

加えて、ご協力いただいた皆さんから、エポックメイキングなコンテンツ10選を上げていただきました。業務で評価に使ったり、プライベートで愛聴されているコンテンツであったりと、さまざまな観点からの選定ですが、これらの情報から新たなコンテンツとの出会いがあるかもしれません。記事の深みにはまるだけでなく、そんな出会いも楽しんでいただけたら幸いです。

では、創立70周年記念号として、以下において上記の3つのテーマを取り上げることになったここ10年の時代背景について説明させていただきます。

日本オーディオ協会と共に歩んできたオーディオの高音質化の歴史

日本オーディオ協会が創立された70年前は、終戦から7年後という時期ですから、まだまだ生活は苦しい時期だったかもしれません。しかし、民放のラジオ放送が始まったり(1951年)、テレビ放送が始まったり(1953年)した時期であり、これらの新しい娯楽が徐々に生活を潤わせていたと考えられます。

そんな時代に、ソニーを作られた井深大氏がアメリカ出張の際にステレオ再生を体験され、帰国後にその感動をオーディオ仲間に語られたことがきっかけで、企業の枠を超えてともに学ぶ日本オーディオ学会(翌年に日本オーディオ協会へと改称)が立ち上がりました。井深氏の話を聞いたオーディオ仲間のリーダー的存在であった、初代会長となる中島健蔵氏が、直ちに「それを日本でやろうや」と発言されたと、「オーディオ50年史」発行に当たり、その中で井深氏が語られています。

その後、1958年のLPレコードのステレオ化と共に、オーディオ製品の普及が進みます。当初から日本オーディオ協会が理念としてきた高忠実度録音・再生へのアプローチは実を結び、世界の主導的立場をうるに至りました。

テーマ1 ハイレゾ、発展の10年

1982年にはCDが発売され、デジタル化の時代が始まります。1999年にSACD、その翌年にはDVDオーディオが発売され、CDよりも情報量が多い次世代オーディオとしての高音質化が進みます。一方で、21世紀になるとインターネットの普及に伴い、音源が物理メディアから離れてネット配信される時代が始まります。PCオーディオやネットワークオーディオという新たな楽しみ方が幕を開けました。特にインターネットの高速化が進んできた2010年前後には、ハイレゾリューション・オーディオ、略してハイレゾの配信が開始され、徐々にその人気が高まっていきます。

このようなハイレゾ人気が高まり始めた2014年に、日本オーディオ協会は、“Hi-Res Audio”ロゴによる普及啓発活動を始めました。“Hi-Res Audio”ロゴが貼られたハイレゾ製品、ハイレゾ音源がたくさん販売されたことによって、空気感やアーティストの息使いまでが伝わるというハイレゾの気持ちよさを、幅広い方々に認知していただくことができました。


“Hi-Res Audio”ロゴ

“Hi-Res Audio”ロゴを使用するためには、クリアしなければならない技術的なスペックを定めており、また各社の責任において、ハイレゾにふさわしい音が再生されていることを確認するために、聴感評価を実施することを義務付けております。


“Hi-Res Audio Wireless”ロゴ

また、ヘッドホンの市場においては、若者を中心にワイヤレス化が進み、この領域においてもハイレゾらしさを損なわない条件を法人会員各社の専門家たちで審議し、2018年から“Hi-Res Audio Wireless”ロゴによる普及啓発も始めました。

このように、日本オーディオ協会が主導してきたロゴによるマーケティングを通じて、ハイレゾの認知度を上げただけでなく、製品の高音質化が実現し、まさにハイレゾが発展した10年だったと言ってもいいでしょう。ハイレゾ製品がたくさん売れるきっかけになっただけでなく、よりいい音で音楽を聴いて、そして楽しんでいただく文化を広めたことは、日本オーディオ協会が立ち上げ当初からの理念が今も息づいています。

テーマ2 アナログ、復権の10年


日本レコード協会統計情報から 生産実績 過去10年間 アナログディスク より

ハイレゾと共にこの10年、オーディオの話題の中心にあったのは、レコード人気でした。日本レコード協会のアナログレコードの生産実績のグラフを見ますと、2013年から右肩上がりに伸びていることが分かります。またこのグラフには見えてこない中古市場も大変にぎわっていることは、皆さんもよくご存じのことと思います。

テクニクスのブランド復活であったり、ソニー・ミュージックが生産設備を整えたり、市場が拡大した要因は色々ありますが、今やレコードを聴く人たちは、若い頃にレコードを聴いていた世代だけでなく、レコードを知らなかった若い人たちにまで広がっています。最近ではアイドルもレコードを発売したりしていますので、ますますその人気は高まりつつあり、着実にすそ野を広げています。

ハードもソフトも、今の技術を活かしてレコードという懐かしい音が再現されていることに、どの記事も面白く、興味深さがたくさん盛り込まれています。

テーマ3 立体音響、飛躍の10年

サラウンドの歴史は、映像と共に進化してきたと言っても過言ではないと思います。映像がデジタル化されたDVDのフォーマットには5.1chのサラウンドが盛り込まれ、また映像がHD(ハイディフィニション)化されたBD-ROMには情報損失のない(ロスレス圧縮)でかつ最大で7.1chに対応したサラウンド音声規格が盛り込まれました。

映像はここ10年で4K、あるいは8Kへと進化し、それに同期する形で音声は「立体音響」へと進化しています。ここでキーになるワードは、高臨場感です。高臨場感は没入感、イマーシブとも呼ばれています。映像が高精細になり、また大画面になったことで、奥行きまで感じる高臨場感が市場で受け入れられており、音声については周囲だけでなく高さ方向の情報も届けられる時代になりました。現在、高臨場感を体験できるフォーマットが次々と現れています。

日本で最初にドルビーアトモス対応音響設備が導入された「TOHOシネマズららぽーと船橋」で、2013年の年末に上映された映画『ゼロ・グラビティ』は、3D映像の映画であっただけでなく、その音声の立体感において、異次元の体験を与えてくれました。あれから10年、立体音響を体験できるブルーレイなどのパッケージソフトがたくさん販売されました。それらを見ていますと映画の作り方自体が変わってきているように思います。技術の進化が新たな文化を作る。まさに「立体音響」が飛躍した10年と言ってもいいでしょう。

最後に

私ども日本オーディオ協会は、JASジャーナルを通じて、進化するオーディオ技術を今後ともしっかりと紹介してまいります。この創立70周年記念号が、皆様に夢と希望を与える興味・関心の的となりましたら幸いです。

執筆者プロフィール

末永信一(すえなが しんいち)
日本オーディオ協会 専務理事 [2020年6月に就任]
1960年、福岡市生まれ。1990年、ソニー株式会社入社。レーザーディスク、DVD、BDの商品設計ならびに高画質・高音質化技術開発に従事。2014年よりオーディオ技術戦略リサーチャーとしてハイレゾオーディオの普及啓発活動を中心に業界活動を担当。