日本オーディオ協会 創立70周年記念号2022autumn

日本オーディオ協会 創立70周年を迎えて

日本オーディオ協会 会長 小川理子

日本オーディオ協会は2022年10月4日に創立70周年を迎えました。これだけ長い歴史を積み重ねて来られたのも、会員の皆様、また業界関係者、そしてオーディオ愛好家の皆様方のご理解の賜物と感謝申し上げる次第です。

未曾有のコロナ禍により制約が多い昨今ですが、人々は様々な知恵と工夫をもってライフスタイルを変えながら、この困難を乗り越えようとしています。今まで当たり前のように朝、家を出て職場に向かっていた生活から、家に居たままオンラインで会議に参加したり、買い物や食事もスマートフォンから注文したりといったことに、何ら不便さを感じなくなってきました。むしろ家に居る時間をどう快適に過ごすか、増えた余暇をどんなことをして過ごすかといった贅沢な悩みにおいて、音楽を聴く時間が非常に増えたといった喜ばしい声をよく聞きます。このような技術の進化やライフスタイルの変化については、コロナ禍が理由であるだけでなく、夢と希望に溢れる未来に向けて、確実に進化し続けるものとなるでしょう。

今号のJASジャーナルは、創立70周年を祝した記念号として、ここ10年でオーディオ及びオーディオビジュアルに起きた変化について、多くの専門家のご協力の元、振り返っていただきました。この10年においても、エンジニアの皆様の苦労が実を結び、その結果としてたくさんの進化が見られました。その熱のこもったひとつひとつの記事をしっかりと楽しんでいただければ幸いです。

また、人類の文化資産としての音楽や社会文化・生活文化を見つめ、エジソンが蓄音機を発明して以来進化してきたオーディオの過去を顧みながら、オーディオの未来を作り上げていくことが大切だと考え、STEAM教育の専門家である中島さち子さん、トレンドウォッチャーである小林久さんをお招きして、私が参加しての鼎談も企画しました。これから先の未来を想像し、どんな世界が待ち受けているか、その時に人としてどんな価値観を大切にしているのか、どんな暮らしの中でどんな音楽再生を試みているのか、私たちにはどんな可能性があるのか、オーディオという概念を大きくとらえて語り合ってみました。時間を忘れるほど、3人の熱い想いがとめどもなくあふれ出て、興味深い対話をさせていただきました。今後ももっと業界の垣根を越えて、多様な方々との意見交換が必要だと実感しました。

JASジャーナルの前身である「日本オーディオ協会誌」が最初に発行されましたのは、1958年のこと。創刊に当たって、初代会長・中島健蔵氏は次の様な言葉から書き出されています。
「日本オーディオ協会が生まれた時には、ほんの少数の同好者の集まりであった。(中略)そのころはまだ初歩的な問題についても疑問が多く、互いに材料を持ち寄り、実験を見せ合い、いつも議論の花が咲いて、まことにたのしい空気がかもし出されていた。」

いかにもオーディオの楽しさ、みんなで技術力を高めていくことのワクワク感が伝わるお話であり、この雰囲気は、今の日本オーディオ協会においても変わることなく、また、未来においても益々盛んにしていくべきことと思います。そんな協会の機関誌であるJASジャーナルは技術分野のワクワクの紹介に留まらず、オーディオの楽しみに関して、カジュアルでオープンな情報発信を今後とも続けてまいります。

引き続き、ご支援ご指導のほど、よろしくお願い申し上げます。

執筆者プロフィール

小川理子(おがわ みちこ)
日本オーディオ協会 会長 [2018年6月に就任]
1962年、大阪市生まれ。1986年、松下電器産業株式会社(現パナソニック ホールディングス株式会社)入社。音響心理、音響生理を基盤とした音響機器の企画、研究開発、商品化、DVDオーディオ国際標準化推進などを担当。2014年、テクニクスブランド復活の総責任者に着任。2015年、同社役員に就任。