2022spring

~聴こえのバリアフリーを目指して~
難聴者の奮闘記

株式会社電波新聞社特別顧問大橋 太郎

概要

1948年生まれの私は、少年時代からアマチュア無線、楽器演奏、オーディオ鑑賞を楽しんできました。1971年に株式会社電波新聞社に入社し、雑誌編集者や新聞記者として活動してきましたが、2020年、私は両耳共に難聴になりました。以来、私は不屈の闘志と持ち前の明るさで、“聴こえのバリアフリー”社会実現に向けて、公私共に取り組んでいます。

ABSTRACT

Born in 1948, I have enjoyed amateur radio, playing musical instruments, and listening to audio since I was a boy. 1971, I joined DEMPA PUBLICATIONS, Inc. where I worked as a magazine editor and newspaper reporter. 2020, I lost my hearing in both ears. Since then, with my indomitable fighting spirit and natural cheerfulness, I work for the realization of a “hearing barrier-free” society in both my public and private life.

【本稿について】

筆者である大橋氏は専門医より感音性難聴(突発性難聴)と診断され、補聴器の使用についてもアドバイスを受けておられます。突発性難聴は医学的に明確な原因が見つかっておらず、症状によっては補聴器が有効でない場合があります。また、有毛細胞の損傷具合によっては骨伝導でも音を感じることが困難な場合があります。そのため、大橋氏の症状は感音性と伝音性の混合性難聴である可能性もあります。本稿の目的はあくまで大橋氏の体験談の共有であり、本稿で紹介した製品の購入・使用を推奨するものではありません。また、効果には個人差があります。補聴器やそれに類する製品をご購入・ご検討の際は、必ず専門医に相談して適切なアドバイスを受けてください。(JASジャーナル編集委員会)

1. はじめに

私も普通に会話をしたり、音楽を聴いたりしていた頃は、たとえ難聴になっても、イコライザーで補正すれば同じように聞こえるものだろうと安易に思っていました。しかし今、自分が難聴になってみると、想像していたこととはまったく違う世界が待っていました。

難聴は誰にでも起きる病気です。そのために知っておいて欲しいことがたくさんありますから、それを伝える何かいい機会がないものかと思っていたところ、日本オーディオ協会の末永専務理事にお声掛けいただき、このJASジャーナルへの執筆を促されました。後半では補聴器や骨伝導イヤホンについて触れますが、まずは私が難聴になっていく過程からお話していきたいと思います。

私は少年時代から秋葉原に通い続け、高校生になる頃にはいっぱしのアマチュア無線やオーディオのマニアになっていました。大学は東海大学の広報学科に進み、就職先はエレクトニクス業界の専門日刊新聞と、小学生から読める電子ホビー入門雑誌「ラジオの製作」を発行している電波新聞社でした。

水を得た魚のように、アマチュア無線、オーディオだけでなく、海外放送受信趣味のBCL、無免許で楽しめるCB無線などの楽しさを、ハード・ソフトの両面で、子どもたちに伝達する編集者としての仕事に従事しました。1970年代末に勃発したパソコンブームでは、BASIC言語によるゲームプログラミングやゲームミュージックのプログラミング、ゲーム解析や攻略、シンセサイザーと組み合わせたデスクトップミュージックやMIDI規格などがテーマの記事や書籍を発行し、また関連機器メーカー各社とも連携して、絶えず良い音を追求する姿勢を貫いてきました。

2. 突発性難聴の兆候は40代後半から

大好きな分野であり、進化する最先端のエレクトロニクス技術、それを使って誕生する製品やアプリーションを読者に紹介し、趣味として楽しめるように分かりやすく解説した記事を掲載した雑誌や別冊企画が次々にヒットしていきました。しかし、超多忙な日々を過ごしていた40代後半から、たまに聴こえがおかしくなることがありました。

兆候は、聴いている楽曲の音程が狂って聞こえ、「楽しみにしていたオスカー・ピーターソンのライブ番組の音程がおかしい」と放送局に抗議の電話を掛けたこともありました。自己分析したところ、雑誌原稿の締め切りや、複数の媒体を抱えてプレッシャーを感じ、イライラして頭に血がのぼったときに、プチッとスイッチが入って、この現象が起きることに気づきましたが、当時は仕事が一山越えるといつの間にか正常に戻るため、深く気に留めることはありませんでした。

3. 60歳直前に右耳に難聴定着

40~50代はデジタル技術を応用したパソコンに代表される製品が続々開発され、エレクトロニクス産業も大変革を遂げる一方、私の仕事の内容も変わりました。入社以来所属していた出版部から新聞の編集本部に異動し、新聞記者一年生として、雑誌・書籍編集とは全く手法の違う新聞記事の取材・執筆を、50の手習いで日々行うようになり、半導体やフラットパネルディスプレイ、ブロードバンド通信、スマートフォンなどの新技術担当として海外取材にも飛び回るようになりました。英会話力の不足を挽回するために、朝晩の通勤電車の中ではラジオ英会話講座を聴いたり、録音した海外展示会のキーノートスピーチを繰り返し聴いたりする毎日でもありました。イヤホンを右耳に差し込んで、通勤騒音の中から英会話を聴き分ける日々が加わったためか、右耳の音程が狂って聞こえる難聴期間は徐々に長くなり、回復まで半月ほどかかるようになりました。

60歳になる前年、国内オーディオメーカーに数日間の出張に出かける前日に、上司とスケジュールについて討論したとき、右耳がプチッとなり一気に聴力が減少しました。音程や相手の声がおかしな音になる、これまでの状況とは全く異なる無音状態。これはついに来たかという自覚もあり、出張取材から帰着した日に、職場近所の耳鼻科を訪れ、診察してもらいました。「これは突発性難聴という原因が解明されていない病気」と告げられ、ステロイドを処方されましたが、聴こえは戻りませんでした。

4. 突発性難聴の研究とBose Hearphonesとの出会い

耳鼻科の診察は、正弦波の単音と、ノイズ混じりの音を周波数の低い側から高音に向けて変化させ、徐々に音量を上げて聴こえたときにボタンを押して計測者に知らせる方法でした。昔からノイズ混じりのモールス信号判読が得意だったので、張り切って調べてもらいました。作成してもらったオージオグラムを見ると、右耳の聴力は120Hzを起点に500Hzが-15dB、2000Hzは-30dBという具合に右下がりで、左耳は2000Hzくらいまで持ちこたえていました。

図1は、年令別のオージオグラムです。私の左耳は年相応、右耳は酷使のおかげで70代以上になっていたことになります。楽観的な私は、オーディオ装置の左右音量の調節で調整し、イコライザーを使えば何とかなるのでは、と軽く考えていましたが、ここから聴こえのバリアフリー化への挑戦が始まりました。


【図1】年齢別平均「オージオグラム」[参考文献1]

まず「突発性難聴」とはいったい何かということを調べ始めました。耳は図2のように外耳、中耳、内耳に大別され、内耳が物理的な振動である音を電気信号化して脳に伝えるトランスデューサーであることがわかりました。中耳に属する鼓膜が振動して脳に伝えるという単純なものではなく、複雑な構造であることを学びました。私の突発性難聴は図3のように蝸牛内の有毛細胞がダメージを受けており、蝸牛神経に振動を伝えにくくなくなってしまい、脳幹でニューロンを経由して大脳聴感野に聴こえの感覚を届かせて言葉や楽曲として認識することが円滑に行なえなくなっていたのです。遅かれ早かれ、誰もが体験することだと納得した私は、初めて“補聴器”と難聴に興味がわきました。

補聴器には薬機法で認められ、なおかつ販売時に届出が必要な「補聴器」と、そうではない「集音器」とがあることも知りました。ネットで調べると、大量の製品情報があり選択に迷います。Bluetooth搭載イヤホンは、これまで日本のオーディオメーカーの製品を複数持ち、スマートフォンやAV装置と連動して使っていましたので、信頼のおけるブランドからも補聴器が発売されているはずだと信じ、ネットを検索し続けました。店頭でも試してBOSEの「QuietControl 30 wireless headphones」(写真1)が、ノイズキャンセル機能も付いていて、スマホアプリで左右の音量や周波数特性も調節でき、周囲の声も電話通話もできて気に入ったので、四六時中装着して生活していました。


【写真1】BOSE QuietControl 30 wireless headphones(生産完了品)

実は、当時所属していた日本コンピュータシステム販売店協会(JCSSA)の理事のお一人が、私と同じように聴こえが不自由で、会合でお会いするたびに補聴の情報を交換していました。ある日、その理事が、黒と金色が目立つ、我がQuietControl 30と同型のイヤホンを装着して会議に参加され、離れた席から目配せしてニコリと笑いかけてくれました。会議後、話を聞くと米国出張時に500米ドルで購入した「Bose Hearphones」(写真2)という製品で、日本では販売されていないが、専用アプリはダウンロードできるとのことでした。


【写真2】Bose Hearphones(生産完了品)

さっそく、ウェブサイトを見ると、とても評判が良く、使い方もQuietControl 30と同じ。輸入代行会社を経由で購入することにしました。指向性も選べるため、行きつけの赤提灯でも楽しく会話ができて手放せなくなり、3台も揃えて活用していました。多少の不満はありましたが、左耳は欠陥がないおかげで、趣味のアマチュア無線や、小規模ながらサラウンド設定のAVシステムで音楽やネット配信の映画も楽しめ、仕事も生活も順調でした。

しかし2020年9月のある日、精神修養が足りずに会社で少々エキサイトした討論をしてしまいました。翌朝、目が覚めると左耳も右耳同様の状態になっていました。Bose Hearphonesの音量を最大にして、ようやく会話ができる状況。友人から紹介されていた、秋葉原にある「秋葉原補聴器リスニングラボ」を訪ね、相談したところ、まず補聴器相談医のいる耳鼻科で検診してもらい、“補聴器適応に関する診断情報”をもらってきて欲しいとのこと。在宅勤務体制だったので、自宅近隣の耳鼻科を訪れて診断してもらいました。片耳難聴のときと同じ検査を1週間間隔で2回行い、左耳も右耳とほぼ同カーブ。「ようやく左右バランスがとれたか」と呑気な気分でした。しかし、診断情報を提出したリスニングラボでは、正弦波聴力測定の他に、50音、濁音、半濁音による“言葉の聴こえ測定チェック”が行われ、1割も判別できていない成績に愕然としてしまいました。

このころの気持ちを正直に書くと、両耳難聴になってからの1週間は暗黒。その後、勇を決し、リスニングラボに相談した日から少しずつ前向きな気持ちになりました。他には、検査を試験と勘違いしていたことにも気づきました。無理せず普通に検査を受けていれば身体障害者としての恩恵が受けられたかもしれないと、補聴器の高額さを知ってから反省していました。

5. 薬機法適合補聴器は耳型カスタムの完全ワイヤレスタイプを選択

リスニングラボが推薦してくれたのはPhonak社の製品。イコライズチャンネル数が多いほど高額になります。仕様的には2番手で、耳型カスタマイズで完全ワイヤレスイヤホンスタイルの「Phonak Virto Marvel」(写真3)は決して安くはありませんが、1日も早く聴こえを取り戻すべく思い切って選択しました。周囲に違和感を持たせないスタイルと、スマホなどBluetooth搭載機器との連動ができることがポイントでした。耳型をとってもらい、専門家による設定を済ませた同系列の耳掛けタイプの補聴器を無償貸与していただき、カスタム補聴器が完成するまで、耳の訓練に専念しました。


【写真3】Phonak Virto Marvel

当初は、生まれたばかりの赤ちゃんのような感じで、音と言葉が頭の中で結びつきにくく、特に女性の話が良く聞き取れませんでした。生の人との会話が制限されていたコロナ禍の自粛期間なので、なんとか話し言葉を身につけようと、学生時代得意だったラジオ番組を聴きながら勉強するスタイルで、ながら在宅ワークをし、ダイエットと健康維持を目指した早朝ウオーキング時のリラックスと情報収集を兼ねて、補聴器による聴こえ回復トレーニングを続けました。

Phonak Virto Marvelは電池式なので、財布の中に小さなボタン電池を絶えず補給しておけば、電池切れ警告音がしたときにすぐ交換できます。3か月ほど過ぎたころから、昔から慣れ親しんできたパーソナリティーやアナウンサーの声の特徴が蘇ってきました。外国語と同じで聴きとれれば会話ができます。

出社日の同僚たちとの会話は、ソーシャルディスタンスの影響で減っていた時期でしたが、補聴器訓練が進むごとに増え、半年もすると冗談を言い交わすようになりました。それでも、しばらく耳を慣らさないと良く聴こえないことに気づきました。同僚の声の記憶データを脳の奥から引っ張り出してくるには、数分間かかりました。音楽の音程の混乱は依然続いていて、規制の合間を縫って集う、行きつけの赤提灯での常連たちとの対話は聞きにくく、勢い口数は減ってしまいました。

6. 大脳聴感野を目覚めさせてくれた骨伝導イヤホンとの出会い

2021年春頃から取材活動も少しずつ増え、出社時にはなじみの赤提灯に行くことも増えました。会議や飲食店など、大勢人がいる場所での聴こえには不満がありました。リモート会議や、スマートフォンでの通話、アマチュア無線機での交信は、Bluetoothで補聴器と直結しているので何とかなりますが、リアルに人が集まる場面で、複数の音声が錯綜していると、聞き分けが非常に困難でした。もう一つの不満が楽曲の音程乱れです。

口ずさむ歌や、口笛は正常に聴こえるようになっていました。もしかすると、音感は正常なのかもしれないと気づき、ベートーヴェンが口にくわえた指揮棒をピアノに当てて作曲したというエピソードを思いだし“骨伝導”という言葉が頭に浮かびました。量販店の店頭で体験してみると、音量は足りないものの、楽曲らしく聴こえます。会話にも使える製品は無いかと、ネット検索したところ、BoCoという会社の「HA-5 CL-1002 /HA-5 IN-1002」(写真4)という、音楽鑑賞にも使えて対話もできるという機種を見つけ、体験できるショールームがある銀座の直営店に足を運びました。試聴させてもらうと、うるさく感じるほど説明する方の声が聞こえ、完全ではありませんが楽曲も旋律が分かります。なぜかお値段はネット表示よりもお安かったので、思い切って購入し、耳慣らしというか脳慣らしをしてみました。

会社で隣席の同僚に聞くと、電話の通話が多少音漏れするようですが、職場なので問題無し。待ちかねた終業時間になったので、会社裏の赤提灯に行き、おなじみさんと一杯始めると、指向性は無いもののなじんでいた友人たちの声の聞き分けも多少はでき、重なった発言も判別できるようになりました。「今日は口数多いね」とも言われました。聞こえれば話せます。しばらく使ってみることにしました。

この製品にはいくつかのタイプがあり、私には耳穴に差し込むタイプが合いました。すっかり気に入って使っていましたし、同じ血筋のせいか、弟や従兄弟も同病相憐れむ仲なので、プレゼントして喜ばれたりもしました。

7. BOSE、Phonak、骨伝導を使い分け

骨伝導で音が聞える原理は、図2の耳の器官周囲の軟骨を通して蝸牛神経に振動を伝えているようですが、不思議な体験をしてから、現在はBose Hearphones、Phonak Virto Marvel、骨伝導を使い分けるようになりました。

昨年11月末に前述のJCSSA設立30周年記念役員合宿があり、10年後の協会ビジョンをまとめる大会議に参加しました。難聴者にとっては最も苦手な環境です(写真5)。落ち度があってはいけないと“補聴三種の神器”を持参しました。Phonak Virto MarvelとBoCo HA-5 IN-1002を試しましたが、多くの人が活発に意見を交換している状況では、グループ討議に参加できませんでした。


【写真5】補聴器利用者が苦手の大規模会議

そこで、ご無沙汰していたBose Hearphonesを装着したところ、発言者の聞き分けができ、しかも装備されている指向性と、ノイズキャンセラーのおかげで活発に発言できました。骨伝導のおかげで音色の違いを判別する脳力が蘇ってきたこともあり、大会議を乗り切れました。設立当時からの知り合いからは「相変わらず元気だね」と声をかけられ、これまで私の聴こえ回復を支援してくださった方々に感謝する気持ちが湧いてきました。

TPOによる使い分けを身につけた後、久しぶりに逢った親友と食事をしたときには「前回の10倍もお話しできた」と言われ、最近は笑顔を取り戻しています。Hi-Fi仕様のBose Hearphonesは、会話中心に設定された2機種に比較して音質はより自然に近く聴こえます。Hi-Fi脳、ハイレゾ脳の覚醒を目的に音楽を聴いていますが、ソロ演奏の楽曲はほぼ正確な音程で聴こえるようになり、これからが楽しみです。

8. 両耳難聴になって初めて気づいた未整備の“聴こえのバリアフリー”

日本も点字ブロック、点字表記、スロープ、音響信号などのバリアフリーが整備され始めています。しかし常時、補聴器を装着する身になり、“聴こえのバリアフリー”はほとんど存在していないことに気づきました。音量を上げれば済むと健常なときは思っていましたが、駅や盛り場、デパートやスーパーの案内、環境BGMなどは、混在すると補聴器を飽和状態にして、ひどい雑音になってしまいます。街中が雑音で満たされているのを毎日経験しています。

一方、中央線の駅は、天井から降り注ぐように音を放射して、隣接ホームとの混信や周辺騒音を抑えるJVCケンウッドの「ラインアレイスピーカー」を採用していて、聴こえのオアシスのような空間を実現しています。

9. 聴こえのバリアフリーを目指すBluetooth SIGに期待

WHO(世界保健機関)が今年の「世界耳の日」3月3日に「難聴者は2050年までに全人口の25%になる」と予測を公表しました。日本補聴器工業会の最新データでは、日本の難聴者率は11.3%で欧米と比較しても上位に位置しています。一方、補聴器の装用率は欧米諸国が30~50%ですが、日本は14.4%と低くて驚かされました。


【参考記事】全人類の1/4が難聴になると警告するWHO

関連資料を調べると、補聴器を使用していない人の認知力は極端に低下するといずれも警告しています。体験からも頷けます。今でも、補聴器を外した途端に訳のわからない耳鳴りだけが低く響く沈黙の世界に陥ります。両耳の聴こえが不自由になったとき、リスニングラボを訪問しなかったら、今でも楽しく仕事や友人との交流を続けている自分とは別人のような生活を送っているはずです。

今は補聴器の大半がBluetoothを搭載しています。Bluetoothの技術標準化団体であるBluetooth SIGが2022年版の「Bluetoothマーケットアップデート」を3月末に公開し、マーク・パウエルCEOは「Bluetooth市場は今後5年で年間出荷台数は1.5倍になり、2026年には70億台を超える軌道に乗った」と報告しています。機能強化は「LE Audio」によるオーディオ機器と補聴機器の性能向上、高精度距離測定による方向探知や通知機能、より高いスループットによる活用分野拡大だと強調しています。これらの機能を活用し、補聴器着用者に対する街中でのアナウンス、劇場や映画館での音声配信など、新しい聴こえのバリアフリーが期待されます。


【参考資料】2022年版 Bluetoothマーケットアップデート

日本オーディオ協会も、この「LE Audio」に注目しており、会員企業向けにウェビナーを開催したと末永専務理事から聞きました。常に新しい技術を学び、未来を見据えている最近の協会のまっすぐな姿勢に、ますます賛同の拍手を送りたいと思います。

10. 終わりに ~聴覚と視覚補助機器のバリアも取り払おう~

最近、マイクロソフトとグーグルが、口述筆記と字幕スーパー機能を提供開始しました。難聴者にとって、視覚によるサポートは鬼に金棒です。この原稿も口述とキー入力のハイブリッドで書いています。この仕組みはインタビューをする時に大助かりです。逆のケースでは読み上げ機能も充実してきました。聴覚と視覚補助の境界を無くせば、スマートグラスの機能はさらに充実して、人々の役に立つものになります。

まず、オーディオ機器としてのヘッドホン・イヤホンと補聴器機のバリアを無くしてはいかがでしょうか。ローコストで性能の良い製品が提供できます。鼓膜用の製品と骨伝導タイプとのバリアも取り払っていただきたいと思います。ハイパーソニック理論では、耳だけでなく、体が受けた音波も脳には伝わっていることを証明しています、両機能のバランスも音量やノイズキャンセラーのように調整できたら最高です。

最近試した「Shokz Aeropex」というオーディオ仕様の骨伝導イヤホンは、耳の前に当てて聴くタイプの製品で、最初は音量が足りませんでしたが、耳穴に当ててみたら、手持ちの補聴機器の中で一番良い音で音声や楽曲が聴けました。耳穴用のアダプターが欲しくなりました(執筆者プロフィール写真を参照)。Bose Hearphonesは聴こえが不自由な技術者が開発したそうです。もしご要望があれば、“難聴サウンドマスター”として喜んでお手伝いさせていただきます。

浅学で素人の私が、体験を通してまとめました。内容に不備は多々あろうかと思いますが、誰もが体験することになる聴こえの喪失。技術力と思いやりで、バリアフリー化できる製品をぜひオーディオメーカーの皆様に作っていただきたいと願っております。

※Bluetoothは、Bluetooth SIG, Inc.の登録商標です。

参考文献

執筆者プロフィール

大橋 太郎(おおはし たろう)
1948年東京生まれ。7歳から秋葉原に通い続けている元〝ラヂオ少年〟。1971年、電波新聞社に入社。ラジオの製作、マイコンBASICマガジン、コンピュータ・ミュージックマガジンなどの編集長を務め、アマチュア無線や海外放送受信のBCL、電子工作やプログラミング、打ち込み音楽など数々のブームを起こす。現在は株式会社電波新聞のメディア事業本部特別顧問として、新聞のコラムなど記事執筆と雑誌編集、電子工作教室開催などを手掛けている。