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2022winter
第7回「学生の制作する音楽録音作品コンテスト」受賞作品制作レポート
「I’m Not In Love」 10cc project
音響芸術専門学校 夜間総合学科元山 由香
概要
本作品は、10cc「I’m Not In Love」という素晴らしい音楽作品の特殊なコーラスレコーディングに感銘を受け、今の時代・私たちが持てる技術で再構築してみようと、「I’m Not In Love」に対するアンサーソングの作詞/作曲から演奏/レコーディング/MIXまでを行ったものです。
ABSTRACT
We were deeply impressed with the unique method of a 10cc’s legendary love song called “I’m Not In Love” and decided to produce an answer song by using technique that we could have in the present times.
はじめに
この度は大変栄誉ある賞をいただき、誠にありがとうございました。
10cc「I’m Not In Love」は、46年前の当時16chのアナログMTRや2chアナログテープレコーダーを用いたレコーディングが主流の中、2chアナログテープをループすることでロングトーンを作り上げ、それをMTRの各トラックにコピーしてバウンスし直すことで分厚いコーラスラインを生み出しています。その素晴らしいアイデアから生まれた音楽作品に感銘を受け、私たちの手でもこのような作品を作ってみたいと気持ちが生まれ、今回の作品を企画しました。
10ccのメンバーたちの音と向き合う姿勢に学びながら、10cc「I’m Not In Love」のアンサーソングを自分たちで作詞作曲し、シンプルな編成の原曲に対して、楽器編成を増やし、フェーダー演奏でのコーラス部分については、原曲のコーラスボイス数624を上回る1040にして、ProToolsを用いた現代的な手法でコーラスレコーディングしました。
作品について
以下の手順で制作を行いました。
- ① アンサーソングとなるような作詞・作曲を行う
- ② 参加者4名ほどでメンバーを入れ変えながら、D(レ)からオクターブ上のDまでの13音をロングブレス「アー」でProToolsの1トラックに録音
20回同じ音を繰り返し歌い、次々に別トラックに録音していく(Dの音の「アー」が20トラック分×4人=80名分録音された状態になる) - ③ 全てのトラックをProTools上でコピー&ペーストによって5分程度の長さに伸ばす
- ④ 20トラック分をMIX・バウンスし1つのWAVファイルにする
②~④の工程を、音程を半音ずつ上げて同様の作業を繰り返す
(今回の曲では真ん中のDからオクターブ上のDの音まで13音分) - ⑤ リードボーカルや伴奏を録音
- ⑥ 作成した全てのWAVファイルをProToolsの別トラックにインポートする
- ⑦ 全てのトラックをSSLに立ち上げてMIXする
コーラスパートについては、半音違いのロングトーン(80名分)が各フェーダーに立ち上がってくるので、これを上下させながら演奏していく
作詞・作曲について
10cc「I’m Not In Love」は男性目線の歌詞であるので、それに対する女性目線からのアンサーとなる歌詞を考えました(作詞:山下華凛)。10cc「I’m Not In Love」のアンサーソングを作るということで、原曲からのモチーフを引用しました。フェーダーによるコーラスパートの演奏を行うことが決まっていたため、後からアレンジの幅が狭まらないように構成やコード進行、メロディはシンプルなものを心掛けました。フェーダーによるコーラスパートは、特に左右間での音の移動を効果的に使えるように考えました。コーラスは独立した3本のトラックであり、バラバラに聴こえず、滑らかに色変わりしていくイメージを実現するため、コーラスパートは順次進行を基本に構成しました(作曲:曽根万鈴)。
演奏者
「健康」のメンバーの皆様
マキゾエハロウ(Pf./Key)
タコ坊(Drum programming)
みのりん(E.Bass)
Booran(E.Gtr)
山下 華凛(L.Vo)
奈良 雪乃(Vn.)
曽根 万鈴
奈良 雪乃
元山 由香
森田 千紘
山下 華凛
横山 彩(SSLコンソールフェーダー演奏)
楽曲の音像定位について
パンポットの使用について
コーラスは曲中で左右間での移動があります。
レコーディングについて
録音場所
音響芸術専門学校 本館9階レコーディングスタジオ
広さ
床面積 48.1㎡
天井高 2.5m
モニター環境
GENELEC 1038A
録音用ソフトウェア
ProTools HD、DrumのみCubase打ち込み(作品全体の約5%)
演奏編成および使用マイク
L.Vo→AKG C414(1本)
A.Gtr/E.Gtr/Key/E.Bass→LINE録り
Vn.→AKG C414(2本)
Pf.→AKG C414(2本)
Cho.→AKG C414(1本)
ミキシングについて
レコーディング時とほぼ同じです。
使用機材
SSL 4040G+、GENELEC 1038A、ProTools HD、YAMAHA SPX9000、Roland SRV2000
まとめ
10ccが「I’m Not In Love」を当時のアナログ機器で完成させたことがいかに偉大なことだったかと感じました。私たちの作品でも相当な時間がかかりましたが、音声のコピー&ペーストができない当時に、アナログテープを編集してループ状にすることでエンドレスコーラスを生み出した発想の偉大さに改めて感服しました。今回は2MIXとなりましたが、機会があればイマーシブ音源化にも挑戦したいです。MIX作業についても、音のバランスやコンプレッサー、イコライザーの掛け方などもっと細かいところまでこだわれるとよかったなと思います。
また、参加者全員が初のレコーディングということで、機材やProToolsの使い方、レコーディングの準備から流れまでもこの企画を通して学ぶことができました。1つの作品を作り上げるという作業の中、それぞれの音に対するイメージを発信してもらうことで、自分のイメージのみに固執するのではなく、そういう考え方もあるのかと新しく気付かされる場面が多くありました。相手のイメージも知ることで、それも自身の音に対する考えの蓄えになったように思います。そして、作品を最後まで作り上げることができたという達成感も得られました。
執筆者プロフィール
- 元山 由香(もとやま ゆか)
1994年、東京都生まれ
2013年、上野学園 器楽コース卒業
2017年、聖徳大学 音楽療法コース卒業
現在、音響芸術専門学校夜間部在籍