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JASジャーナル目次
2021summer
新しい生活様式を支える
マイクロホン攻略ガイド
ティアック株式会社
音響機器事業部 タスカムビジネスユニット 国内営業部 販売促進課
加茂 尚広
概要
コロナ禍における新しい生活様式の中、テレワークやライブ配信が注目されて、音響機器においてもマイクの需要が大きくなりました。マイクを使いこなすことで、テレワークやライブ配信を高音質化し、より快適な音環境を構築することが可能です。今回は弊社に寄せられたご意見を基に、マイクを導入するにあたっての基礎知識やトレンドをまとめました。
ABSTRACT
Since the coronavirus disease 2019 (COVID-19) pandemic began, many people started working from home and focusing on live-streaming from home. At the same time, the demand for microphones is getting bigger and bigger in the audio industry. It is important to know how to handle the microphones for making the sound quality of live-streaming and video meetings better, and you can get a more comfortable audio environment if you know that. In this article, we would like to introduce the basics and the trends of microphones based on the frequently asked questions to our company.
1:新しい生活様式におけるマイクの需要
『新しい生活様式』によって、私たちの生活は一変しました。
これまで限定的な需要だったものに大きくスポットライトが当たったものも数多くあります。「マイクロホン」(以下マイク)も大きくクローズアップされた機材です。
もちろんマイク自体は生活の様々な場面で活用されていましたので、いまさら感はあるかもしれませんが、よくよく考えると、マイクのクオリティを重要視していたのは、ボーカリストを始めとするミュージシャンや音響エンジニア、ライブハウスや放送施設のスタッフなどに限られていたのではないかと考えます。
しかし、昨今のライブ配信やポッドキャスト収録、そして現在ではかなり定着したテレワーク等により、多くの方がマイクを使用する機会が増えました。さらに、パソコン内蔵のマイクでは通話の音質に難があったことから、より高音質なマイクを必要とされる方が急増したことで、メーカー各社とも一時品薄になりました。『マイクロホン』はもはや『新しい生活様式』の必需品と言っても過言ではありません。
マイクメーカーや販売店のwebサイトでは、初心者にもわかりやすく解説しているのが見られます。また、弊社が行っている配信やウェビナーでは「自分がやりたいことでどういったマイクを選んでいいかわからない」など、マイクにまつわる悩みが大変多く寄せられます。
今回はライブ配信やテレワークを軸にミュージシャン以外の初心者の方に対してもできるだけ、わかりやすい解説をさせていただきます。
2:マイクの基本的な構造
マイクは構造の違いで大まかにダイナミックマイク、コンデンサーマイクの2種類に分類できます。これらはマイクの駆動方法に違いがあります。音は空気の振動を伝わって耳に届きます。これはマイクにおいても同様です。マイクは、ダイヤフラムという振動板がとらえた音声を電気信号に変換します。ダイナミックマイク、コンデンサーマイクとも基本的な構造は同じですが 、コンデンサーマイクはこのユニットに電源を供給することで微弱な音声信号を効率よく増幅することが可能で「コンデンサーマイクは繊細な音を収録することが可能」と言われています。
3:マイクの種類
構造と形状の違いを基に、より分かりやすく特長や用途によって分類したいと思います。
以下は例外もありますが、ここではわかりやすさを優先させていただきます。
ダイナミックマイク
耐音圧、耐久性に優れたマイク。ボーカル、ギターアンプ、打楽器、管楽器などに相性がよく、広く用いられる。コンサートでは定番のマイクです。
コンデンサーマイク
繊細な録音に用いられる。ボーカル、ピアノ、バイオリンなどの弦楽器やナレーションに用いられます。ファントム 電源という電源をミキサーやマイクプリアンプ、オーディオインターフェースから供給する必要があります。
ヘッドセットマイク
ゲーミングヘッドセットやスマホのイヤホンマイクもこのグループ。パソコンにつなぐヘッドセットマイクの場合、ヘッドホンとマイクがわかれたものと4極で一体化したものが存在する。プラグインパワー方式のマイクは機器より電源を供給する必要があります。
ラベリアマイク
タイピンマイクとも呼ばれ、コンデンサーマイクが多いです。ファントム電源とプラグインパワーの2種類が存在。胸元につけることができ、マイクを意識せずトークできることからテレワークなどで使用するケースも増えてきました。
注:上記はケーブルを使用して機器に接続しますが、無線で使用する「ワイヤレスマイク」も広く使用されています。特にカラオケボックスで使われている赤外線ワイヤレスは皆様ご使用の経験があると思います。これらは集音の違いではなく、接続方法の違いとなるため、ここでは割愛いたします。
4:マイクセッティングのコツ
弊社のウェビナーやライブ配信のアンケートで多く寄せられる音の悩みが「ノイズ」に関するものでした。昨今人気YouTuberやライバーが動画やライブ配信で使われているマイクを見て導入されるケースが多いようですが、いざご自身で使ってみたところ環境に合わないため、特にノイズなどで悩まされるケースも多いようです。
「音を良くするにはいい機材を買う!」というのが近道だと考えがちですが、機材をそろえる前にできる工夫が無いか?というところに目を向けて見ましょう。
例1:通話や配信にノイズが乗る
まずはご自身の配信環境に意識を向けてみましょう。
- 外からの音が入らないよう窓から離れる。
- マイクを空調の音が入りにくい場所や向きにする。
- パソコンのファンの音をマイクが拾ってないか確認する。
- ハムやジーノイズの場合、電源の供給する口を変えてみる。
(TASCAM AV-Pシリーズなどノイズフィルターが入った電源タップなども効果的)
読者の皆様には「初歩的なこと」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、アンケートなどのご意見から、こうしたセッティングが見落としがちであることもわかりました。
まずは機材を使わずにノイズを取る方法を探ってみましょう。
例2:声が小さい
マイクの使い方が適切か確認しましょう。
- 口とマイクの距離は、握りこぶし1個分が基本
- 口がマイクから遠い場合、もっとマイクに寄る
- 地声が小さい場合、マイクのボリュームを上げる
- シャウトするときは少し離れる、ささやきボーカルは近づく
- ポップノイズが気になるときはポップガードを使用(TM-AG1)
- 口とマイクの距離や角度によって音色やリップノイズも変わる
※マイクに近づいて歌うことにより低音が出ることを近接効果と言います。
マイクの角度や距離を変えるだけで音質が変わります。
ご自身のベストな声出しポジションや声の出し方を探してみてください。
例3:感度が低い
マイクには、「どの方向からの音を拾いやすいか」という特性が存在しており、それを「指向性」と呼びます。ボーカル録音で主に使われる「単一指向性」のマイクは、マイク正面側がもっとも感度が高く、横サイド→後ろにいくに従って低くなっていきます。つまり、マイク正面側にノイズの原因になるモノ(例えばファンが回っているパソコンやエアコン、家電等)があると、その音がマイクに入り込みやすくなるということです。
マイクを立てる際には、ノイズの原因になりそうな物がある方向に向かって歌うようなセッティングをすることで、声以外のノイズの混入を低減することができます。
5:用途別マイクの紹介
ここからは弊社で取り扱っている製品を例に用途に応じたマイクの選び方についてご説明します。
パソコンにマイクを直接つなぐ場合
ZoomやTeams、Google Meetなどテレワークで用いられるパソコンベースの会議アプリで、簡単に高音質で通話をしたい場合はヘッドセットマイクがおすすめです。
この場合のメリットはマイクが口元にあるので、環境ノイズが入りにくいこと、安価であることがあります。
米国KOSS社のヘッドセットマイク『CS200i』は4極端子の3.5mmステレオミニジャックを採用しておりパソコンに接続するだけで使用可能です。
デメリットはマイクの位置によっては息のノイズがかかりやすいことぐらいで、セッティングはかなり手軽です。
もう一つオススメはUSBマイクで、各社から発売されております。今春弊社より発売された『TASCAM TM-250U』は面倒なドライバーのインストールは不要、接続いただくだけでご使用いただけます。
本体にゲイン、ヘッドホンボリューム調整、ヘッドホン出力端子を搭載しており音量の調整 も可能です。またミュートスイッチも搭載しており、ご自身の発言が不要な際は簡単にマイクをオフにすることができます。
6:オーディオインターフェースを使用する場合
YouTuberやライバーが動画やライブ配信で使用していることもあり、オーディオインターフェースも一昔前に比べて、身近な機材になったといえます。ヘッドセットやUSBマイクに比べて、プロがコンサートやレコーディングで使用するマイクやヘッドホンを接続できるため、さらに高音質での通話が可能になります。
ここではコンデンサーマイクとダイナミックマイクを軸にオーディオインターフェースと併用する形でご紹介します。
オーディオインターフェースは、マイクやヘッドホンをパソコンやiPhoneなどに接続して音声をやり取りする装置です。すでに多くの方が使用されていると思いますが、説明に関しては今回省略させていただきます。
弊社製品でオススメ は『MiNiSTUDIO CREATOR US-42B』です。ライブ配信やテレワークに便利な『ONボタン(マスターミュート)』をはじめ、様々な機能が満載です。
TASCAM MiNiSTUDIO CREATOR US-42B
前述のとおり、コンデンサーマイクは多くのYouTuberやライバーが使用しており、一般の方が目にする機会も非常に多くなりました。
TASCAMから『TM-80』という製品が発売されています。
繊細な音を余すことなく収録できるのはコンデンサーマイクならではといえます。一方で、集音能力が高いため、エアコンなど環境ノイズを拾いやすく、また突発的な大声に対する音声割れなども発生しやすいため、注意が必要です。
その場合でも『MiNiSTUDIO』に内蔵されているイコライザーやコンプレッサーなどのエフェクトをご使用いただければ、環境ノイズの軽減や音割れを防ぐことが出来ます。
ダイナミックマイクは、コンデンサーマイクにくらべて ライブ配信やテレワークで使用されるケースはそれほど多くありませんでしたが、感度が低いことを逆手にとると、環境ノイズの低減にはきわめて有効です。
弊社のライブ配信やウェビナーにおいて実践したところ、ノイズの低減に関して視聴者の皆様は一様に驚かれていました。
先日発売を開始した『TM-82』はオーソドックスなボーカル用ダイナミックマイクですがライブ配信やテレワークにも有効です。
ボーカルに使えるマイクは声との相性が抜群にいいので、機材の知識がない方でも気軽に使えるだけでなく、環境ノイズの影響もコンデンサーマイクに比べるとかなり改善されます。
もう一つ、ご紹介したい製品に『TM-70』があります。これはラジオ放送局で長年使われてきたエンドアドレス型のダイナミックマイクです。
特に声の収録に特化しており、耐音圧にも優れ、声を明瞭に捉えることから、ライブ配信やポッドキャスト収録に相性が良いマイクです。
今後TM-70のようなマイクがライブ配信やテレワークの新たなスタンダードになると思われます。
7:マイクプリアンプを用いた方法
マイクは基本的に微弱な電気信号ですので、パソコンに取り込む際に増幅する必要があります。ヘッドセットマイクはパソコン側で増幅し、USBマイクはマイクプリアンプが内蔵されており、原則接続するだけで適切な音量になるように設計されています。またオーディオインターフェースも同様にマイクプリアンプを内蔵しています。
ただしレコーディングの世界では独立したマイクプリアンプも存在します。これはマイクが持つ音のキャラクターをできるだけ損なわずに増幅させる目的で使用されます。
特にプロのレコーディング現場ではなくてはならない機材で、価格も数万円~数十万円と非常に幅があります。
テレワークやライブ配信で必須の機材ではありませんが、ご紹介させていただきます。
TASCAMでは『SERIES 8p Dyna』という8チャンネルのマイクプリアンプがあります。
これはスタジオやステージでの本格的なレコーディングに対応したマイクプリアンプでプロ機器を長年手掛けてきたTASCAMの技術が凝縮された製品です。
8本のマイクを同時に増幅させるだけではなく、S/MUXでのデジタル出力や、独立したファンタム電源、突発的な音量を手軽に抑える事が可能な1ノブコンプなど多彩な機能を装備。様々なマイクからの音声信号をクリアに増幅します。
現在、音にこだわりを持つ歌手の半田健人さんと『半田健人のビンテージマイクコレクションをSERIES 8p Dynaで録音してみた』と題した動画を公開しています。半田さんご自慢のマイクコレクションを録り比べた内容となっていますので、ご興味がある方は是非ご覧ください。
8:マイクは新しい生活様式の必需品
JASジャーナルの読者の皆様においては既知の内容が多いかもしれませんが、マイクの基本的な事や用途に応じた選び方などは情報が多すぎる事で、却って選び方がわからないといったご意見も多くいただいております。
今回貴重な執筆の機会をいただきましたので、あえてマイクの基礎や、非音楽コンテンツにおける選び方にフォーカスして書かせていただきました。
高音質で声を届けることはミーティングやライブ配信の視聴環境においてストレスを大きく軽減させるという点でも、きわめて重要だと考えます 。
決して高価なものだけがよいというわけではなく、ご自身の使用環境を把握し、マイクについて理解を深めることで手軽に高音質なライブ配信やテレワークを行う事が可能です。
新しい生活様式はコミニケーションツールが重要視され、そこに高音質は欠かせないものとなっております。
この記事がライブ配信やテレワークの音質改善でお悩みの方の一助になれば幸いです。
執筆者プロフィール
- 加茂 尚広(かも たかひろ)
TASCAMの販売促進に従事。SNS運営やデジタルマーケティング、アーティストリレーションを担当。様々な製品やイベントでアーティストとのコラボを実施。プライベートでもボーカルや楽器の録音を楽しんでおりTASCAM製品以外でもAKG D-24、C-414TLII、AUDIO TECHNICA AT-4033A、COUNTRYMAN E6、EV RE20、RODE CLASSIC 1、SHURE SM58、SM57、BETA58A、BETA57A、BETA87Aなど定番マイクを中心に様々なモデルを収集。
主な取組実績:奥田民生さんコラボレコーダー、初音ミクスピーカー、石川綾子さんハイレゾヘッドホンコンサート、はとむぎASMRさんとのコラボ動画、人気歌手 伊東歌詞太郎さんとのコラボPV、人気声優 石黒千尋さんとのコラボ動画など。