2021winter

学生スピーカー製作レポート
「Swinging Speaker」製作秘話

立命館大学音響工学研究会萩嵜 真波

概要

フォステクス社からご提供いただいたFE126NVを使用してスピーカーを製作しました。コロナウイルスの影響の中、試行錯誤した製作の感想や、その背景と共に部員目線で作品を語ります。自作スピーカー未経験者でも楽しめる内容になっていますのでお楽しみください!

ABSTRACT

We built the speakers using FE126NV provided by Fostex. I will talk about this work from the perspective of the member of the club, along with their impressions and background of the trial and error process of making this work under the influence of the coronavirus. Even if you’ve never built your own speakers before, you will enjoy this one!

1. はじめに

フォステクス社製FE126NVを計4つ使用したスピーカー、その名も「Swinging Speaker」を製作しました。コロナ禍で様々な制限があったなか、新入部員を含む9人で作業を分担して完成させた今年度の集大成と言える作品になりました。音を聴いていただけないのは残念ですが、設計を担当した部長・萩嵜の随想録という形でこの作品のことを書かせていただきます。どうか最後までお付き合いください。

2. コロナ禍でも最高のスピーカーを!

私が設計を始めたのは……金木犀の香りが漂う昨年10月でした。あの頃は不安でいっぱいで、コロナウイルスの影響による入構制限の中、いつサークルルームで作業する許可が下りるのか?この設計で作り終えることができるのか?材料の調達は間に合うのか?と毎日辛くなりつつも、VituixCADとFusion360を交互に睨めっこして設計を進める日々を送っていました。そしてコロナ禍でまともな活動ができていない新入部員たちと、なんとかして一緒にスピーカーを作ることができないかと考えを巡らせていました。そして、ようやくスピーカーの組み立てが始められたのは、秋も深まり肌寒さが身にしみる11月1日でした。

部員とは1ヶ月間、週2日で作業を進めました。新入部員は全員が初心者だったので、最初は2回生の指導の元、自在錐で木に穴を開ける加工をしてもらいました。これは主にユニットの穴やバスレフポートの穴を開けるときに必要な作業ですが、私が初めてこの加工をした時よりも上手にできていたように思え、筋がいい部員が入ってきたと嬉しくなりました。

そしていよいよ圧着……クランプの扱いが難しい!こちらもどう教えたらいいのかわからない!……接着面に隙間ができないようにボンドで張り合わせていき、なんとかスピーカーの形が出来上がりました。感染症対策のため手袋を着用して作業を進めたことで、指先の感覚がいつもと違い、綺麗に張り合わせるのがかなり難しかったです。

次は塗装。はじめにサンディングシーラーで表面のざらつきを削り落としてからペンキを塗りました。シーラーを塗る作業を疎かにすると綺麗な塗装にならないのでとても重要なポイントです。ペンキの色は1回生のアイディアで、既製品のスピーカーのイメージに囚われない素敵な案だと思いました。ただのピンクでなくあえてくすんだ落ち着いたピンクを選ぶところにセンスを感じますね。

スケジュールの都合上、圧着とシーラーを塗る作業をほぼ同時進行に進める必要があり、それが大変でしたが、おかげでその後のスケジュールに余裕が生まれて、ペンキは1日1面ずつ塗って丁寧に仕上げることができました。そして図3のような仕上がりに。どうしても板と板の境目に目立つところはありますが、まずまずといったところでしょうか。初めてのペンキ塗装と思えば上出来ですね!なにはともあれ新入部員に「設計」「組み立て」「塗装」のすべてに関わってもらった、みんなで作った作品です。

さて、ここからは皆さんお待ちかねの設計について。前面バッフルに取り付けたユニットには回路は入れず、背面に取り付けたユニットにのみローパス回路を入れた、容量およそ6Lのバスレフ型になります。材質は15mm厚のMDFです。全体のバランスを考えて寸法を決めました。また、バスレフポートは木に穴を開けた板を繋げた手作りです。そして、低域に厚みのあるスピーカーを作りたい!せっかく作るならフルレンジ一発のスピーカーじゃ物足りない!という思想の元、裏面下部にサブウーファーのような役割を果たすユニットを追加して低域を増強することを考えました。


【図3-3】バスレフポートのアップ

初めてのネットワーク設計で、まともな音が鳴るか、アンプが壊れたりしないか、回路を組む際に間違えたりしないか、とビクビクしながらCADと向き合いました。回路図を見て思うところがある読者の方もいらっしゃるかとは思いますが、どうか大目に見てください。


【図4】ネットワーク回路

ついにスピーカーが完成し、さっそく聴いてみたところ、「裏側から聴いた方が音のバランスがいい」という意外な結果に。その一方でロック~ポップス~オペラなど様々な音楽を聴きましたが、特別向き不向きがあるようには思いませんでした。バスレフポートの周波数も聴感上はうまく合っています。しかし、正面から聴くと高域だけが前に出てくるのが気になるのです。一方で、裏側から聴く場合には高域が後方に拡散されるため、高域が耳に刺さらず、副次的に部屋の音場も広く感じられることから、結果的に心地よい音になるのだと考えられます。この問題を解決するには、バッフル面に取り付けたユニットにバッフルステップ補正回路を入れるなど、まだまだ改良の余地があると思いました。このユニットの特徴である歪みの少ない中音域をもっとうまく引き出せるような設計にしたかったですね。また今回は単色での塗装ですが、今後は金色のペンキでアンティーク調にして見た目も進化させる予定です。これも1回生のアイディアで、つくづく彼らのセンスを感じます。

まだ名前の由来を話していなかったですね。このスピーカーでDavid Bowieの「Let’s Dance」を聴いた時、体に響く低域がとても心地よかったことから、力強くリズミカルな曲との相性が特に良いと感じたこと。そして製作時の私の揺れ動く不安定な感情……。その2つを表して「Swinging Speaker」と名付けました。恥ずかしいので大きな声では言えませんが、部員と頑張って作った「最高のスピーカー」という意味もあります。

3. 製作を終えて

まず、このような機会を設けてくださった日本オーディオ協会とフォステクスの皆様に感謝申し上げます。そして一緒に製作してくれた部員にも感謝を伝えたいです。この作品は関わってくれた部員みんなとのかけがえのない思い出です。このスピーカーで音楽をかけると、オンラインでしか顔を見たことがなかった部員と会って、お互い緊張しながらも会話を弾ませ作業をした独特の空気感。ソーシャルディスタンスを余儀なくされた作業風景。消毒液の香りが呼び起こされます。既製品にはない「音以外の価値」を見出せる、やはり自作っていいですね。

執筆者プロフィール

萩嵜 真波(はぎざき まなみ)
立命館大学 理工学部2回生
立命館大学 音響工学研究会所属

立命館大学音響工学研究会Twitterアカウント
https://twitter.com/rits_onken