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2021winter
学生スピーカー製作レポート
球体スピーカーの製作
中央大学電気工学研究部畑 翔太
概要
フォステクス社製のFE126NVを使用して球体スピーカーを製作いたしました。スピーカーの形状を球体にすることで、エッジディフラクションによる影響を低減させることができます。今回はその設計および製作過程をご紹介いたします。
ABSTRACT
I built spherical speakers using the FE126NV manufactured by Fostex. By making the speaker spherical, the effect of edge diffraction is reduced. In this issue, I am introducing the design and building process.
1. はじめに
今回はフォステクス様よりご提供いただいたFE126NVを使用して、球体スピーカーを製作しました。本来であれば、昨年6月に開催されるはずだったOTOTEN2020での展示用に製作する予定でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大によって中止となり、このような形で発表させていただくことになりました。実際に聴いてみなければわからないことも多いかと思いますが、その分、工夫点を詳しくお伝えできればと思います。
2. 球体エンクロージャーについて
球体エンクロージャーの利点にエッジディフラクションの低減があります。エッジディフラクションとは、バッフルの角で音波が回折した際に元の波面とは異なる新たな波面が形成され、音波が相互干渉する現象です[参考文献1]。図2.1のように一般的な直方体のエンクロージャーの場合、エッジディフラクションによって周波数特性が乱れ、複数のピーク・ディップが生じています。それに対して、球体エンクロージャーは最もエッジディフラクションによる影響が少なく、フラットな特性が得られています[参考文献2]。
【図2.1】エンクロージャーの形状による周波数特性の違い[参考文献2より転載]
しかし、板材から球体エンクロージャーを製作しようとすると、非常に難易度の高い作業を必要とします。そこで今回は、イケアのブランダマットという竹製のボウルを2つ貼り合わせることで球体エンクロージャーを製作しました。エンクロージャー容積を自由に決められないというデメリットはありますが、比較的容易に作ることができます。
3. 設計
エンクロージャーの設計にはVituixCADというソフトウェアを使用しました。今回使用するブランダマットには3種類のサイズがありますが、シミュレーション結果よりFE126NVには直径28cmのものが適切であると判断しました。また、低域を伸ばすためにエンクロージャー形式はバスレフ型を採用しました。できるだけフラットな特性を目指しながら設計を行い、ポート共振周波数は90Hzにしています。
今回はバッフルとバスレフポートを3Dプリンターで作ることにしました。図3.1にそれぞれの3Dモデルを示します。モデリングにはFusion360を使用し、バッフルはスピーカーユニットを取り付ける部分を落とし込むことで、フランジによるエッジディフラクションを防ぎ、バスレフポートは両端をフレア形状にすることで、ポートノイズを抑えるようにしました。
【図3.1】3Dモデル
次に、図2.1にも表れているように、高域に比べて低域は6dBほど低下します。これは高周波の音がほとんど前方に放射されるのに対して、低周波の音は回折現象によって後方にも放射され、音圧が半分になるためです。この現象のことをバッフルステップといい、ネットワーク回路によって補正を行います。回路定数の決定にはエンクロージャーの時と同じくVituixCADを使用しました。本来であれば、測定データを用いて設計する方が良いのですが、大学の利用が制限されている都合上、測定環境を用意できなかったので、データシートの周波数特性にエンクロージャーの特性を合成して、設計に利用しました。シミュレーション結果を図3.2に示します。
4. 製作
ボウルへの穴あけは、ベニヤ板で簡単な治具を作成し、それをトリマーに取り付けて行いました。(図4.1参照)
また、ボウルを張り合わせる際の位置合わせも兼ねて、補強板を製作しました。(図4.2参照)
3Dプリンターで印刷したバッフルとバスレフポートは、ポリエステルパテとやすり掛けで表面処理をした後に塗装し、エポキシ接着剤でボウルに取り付けました。あとは、ネットワーク回路のはんだ付け、ターミナル端子の取り付け、吸音材の充填などといった細々とした作業を行い、ボウルと補強板を木工用ボンドで接着すれば完成です。ただし、このままだと自立ができないので、円形にカットした板に3つのウッドボールを取り付けたスタンドを製作しました。エンクロージャーとの接触面積が小さいので、インシュレーターとしての効果も期待できます。最後に完成したスピーカーの全体像を図4.3と図4.4に示します。
5. 感想
a. 音の感想
低音については、いわゆる重低音までは出ないので、EDMなどを聞くと物足りなく感じるかもしれませんが、ベースやドラムなどの音はほどよく出ており、フレアポートとインシュレーターのおかげでキレのある低音を楽しめます。高音については、少し刺さる印象があるのが難点ですが、女性ボーカルの余韻やピアノの響きが美しく表現されているように感じます。音像定位も良好で、解像度を残しつつ空間の広がりを感じさせます。自分が作ったスピーカーだと、贔屓目に評価してしまっているかもしれませんが、FE126NVのポテンシャルを引き出せるエンクロージャーに仕上がったのではないでしょうか。
b. 製作を終えての感想
まず初めに、このような機会を設けてくださった日本オーディオ協会とフォステクスの皆様に感謝申し上げます。本当にありがとうございました。大学の利用が制限され、部室が使えない状態での製作となりましたが、何とか完成にこぎつけて安堵しています。限られた環境だからこそ、いつもより製作手順をじっくり考え、結果的に良いものが作れたのではないかと思います。測定ができるようになれば、一般的な直方体のエンクロージャーも作って、特性の比較などを行いたいと考えています。
6. 参考文献
- [1] Iridium17,だし,熊谷健太郎「自作スピーカーエンクロージャー設計法マスターブック」 (2018年9月1日)↑
- [2] Harry F. Olson「Direct Radiator Loudspeaker Enclosures」(1951年11月1日)↑
執筆者プロフィール
- 畑 翔太(はた しょうた)
1999年、埼玉県生まれ
2018年、中央大学 理工学部 電気電子情報通信工学科 入学
2022年、同校卒業(予定)中央大学電気工学研究部オーディオ班Twitterアカウント
https://twitter.com/JA1YGX_Audio