202011

「ハイレゾオーディオワイヤレス」ロゴに左右独立型ワイヤレス製品を追加

一般社団法人日本オーディオ協会
ハイレゾWG 主査 関 英木
専務理事 末永 信一

概要

「ハイレゾオーディオワイヤレス」ロゴに追加された左右独立型ワイヤレス製品について述べます。

ABSTRACT

Adding TWS (True Wireless Stereo) to the “Hi-Res Audio Wireless” logo will be described.

1. 背景

1979年にソニー株式会社からウォークマン®が発売されて以来、音楽を気軽に持ち運べるようになり、屋外でも好きな時に好きな曲を聞くことができるという文化が広がりました。 昨年でウォークマンの発売から40年の月日が流れましたが、この歴史の中で、メディアはカセットテープからCD、MD、メモリーへと変遷を遂げ、いまやWi-Fiを通じてストリーミングサービスを聴く形態もあり、利便性がますます高まってきています。

そのオーディオプレーヤーの進化と共に、リスニングに欠かせないヘッドホンも大いなる進化を遂げてきており、いわゆるイヤホン(ここではインイヤー型ヘッドホンを示す)がワイヤレスになったことで、使い勝手が良くなったことも見逃せません。特に左右独立型ワイヤレスイヤホンは昨今、若者を中心に急速に普及し、ヘッドホン市場の半分以上のシェア(金額ベース)を占めるに至っています。

左右独立型ワイヤレスイヤホンの数々

このような背景の中、2020年11月30日より日本オーディオ協会は、「ハイレゾオーディオワイヤレス」ロゴに左右独立型ワイヤレス製品を追加したライセンスを開始しました。

「ハイレゾオーディオワイヤレス」ロゴは、ハイレゾオーディオ信号を圧縮してワイヤレス伝送する機器の中でも、ハイレゾオーディオとして十分な音質を持つ製品を示すロゴとして、2018年11月27日からライセンスを開始したものですが、すでに17社82機種に採用されており、Bluetoothによるワイヤレス接続で伝送される圧縮オーディオ信号については、2020年11月現在、LDAC(ソニー株式会社)とLHDC(Savitech Corp.)がコーデック認証されております。また、ワイヤレス伝送以外の機能・性能については、「ハイレゾオーディオ」ロゴの規定に準じる必要があります。
※Bluetooth®:は、Bluetooth SIG, Inc. USAの商標です。


「ハイレゾオーディオワイヤレス」ロゴ

2. 審議内容

2年前、「ハイレゾオーディオワイヤレス」ロゴのライセンスをスタートする時点で、左右独立型ワイヤレス製品の扱いについては、協会内でも意見が分かれ、持ち上がった懸念に対して十分な審議が出来ていないということで、対象製品から外されることになり、継続審議されることとなりました。

その時点における懸念のひとつは、オーディオプレーヤー(Source機器)と、ヘッドバンド等を介し、ケーブルで左右チャンネル間のデバイスが連結されたヘッドホン等(Sink機器)の間については、Bluetoothによるワイヤレス接続においてコーデックの定義がされたものの、左右チャンネル間の連結にケーブルを用いず、独立したユニット間で更にワイヤレス通信を必要とする左右独立型ワイヤレス製品は、外部電波などの妨害を受ける可能性が高くなり、安定して音楽を楽しめない、という製品が多々見受けられたため、「ハイレゾオーディオワイヤレス」ロゴのブランド力を落とすのではないかという意見がありました。

もうひとつの懸念は、左右チャンネルのユニットがそれぞれクロックを持って動作するのが一般的で、結果的に左右の音楽信号にはわずかな位相差が生じることにもなるため、これを定量的にコントロールしないと、ハイレゾらしさを損なうのではないかという懸念でした。

まず、使用環境における外部電波からの妨害について、ワーキンググループ(以下、WG)内で評価方法の議論を行いましたが、妨害の起きる環境を一律に定義することが出来ない、という結論に至りました。また、この2年の間には各社のアンテナ技術やSource機器 ― Sink機器間の伝送方法が成熟してきており、非常にたくさんの製品が発売されている背景も鑑みて、この点については各社の仕様や実力に任せることとしました。

一方で、位相差については、実際に左右でズレを持たせた信号を作って確認してみることとなりました。最初は固定的に左右の位相差をずらした音源を作ってWGメンバーで試聴した結果、位相差が大きくなると共に音の定位が片チャンネルに偏差していくことが認識されました。これは大体想定内であり、続いて実動作同等の実験機を用いて動的に位相差をずらした音源を作成し、確認した上で、協議を行いました。結果、大きく位相を揺らした場合と小さく揺らした場合では音質に影響を与える差があり、WGメンバーでハイレゾオーディオワイヤレス製品としての品位を保てる許容値について合意できた数値(±50μs)を、左右間位相差の定義としました。

この±50μsを一般的なスピーカーリスニングの設置に置き換えて考察してみます。左右のスピーカー間を180cmとした正三角形でリスニングポイントを考えた場合[図1参照]、音の速さを340m/sとして計算しますと、片チャンネルのスピーカーを固定し、もう片チャンネルのスピーカーの位置ずれが±1.7cmに値するのと等価になると言えます。リスニング中に頭や体を全く動かさないということはありえないと考えると、この数字はそれらの動きの範囲内だと考えることも出来るため、ほぼ問題のない数字だと言えます。左右の位相差が±50μs以内で管理されることは、かなり精度の高い話であるとご理解いただけることでしょう。

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図1 一般的なスピーカーにおけるリスニングに置き換えて左右位相差を考察

3. まとめ

若者を中心に爆発的な人気となっております左右独立型ワイヤレスイヤホンですが、昨今は各社からノイズキャンセリング機能が搭載されたモデルも発売され、こちらも高い需要と人気があります。この状況にありまして、ハイレゾ対応モデルの登場が待ち望まれておりますので、このライセンスの開始により、益々市場が活性化していくことが期待されます。

参考文献

執筆者プロフィール

関 英木(せき ひでき)
1990年、ソニー株式会社入社。ヘッドホンの筐体機構設計に従事。1999年、ダイナミック型ドライバーユニットを用いた量産カナル型インイヤーヘッドホンを考案。現在、インイヤーヘッドホンの主流である、装着性に優れたカナル型の普及に貢献。2000年以後、アクティブスピーカー・ワイヤレススピーカーの音響設計、テーラーメイドインイヤーヘッドホン〔Just ear®〕の音響コンサルダントに従事しながら、2019年より日本オーディオ協会ハイレゾWG主査も兼務、現在に至る
末永 信一(すえなが しんいち)
1990年、ソニー株式会社入社。レーザーディスク、DVD、BDの商品設計ならびに高画質・高音質化技術開発に従事。2014年よりオーディオ戦略リサーチャーとしてハイレゾオーディオの普及啓発活動を中心に業界活動を担当。日本オーディオ協会ハイレゾWG初代主査。2019年ソニー退社。2020年6月に日本オーディオ協会専務理事に就任、現在に至る