作品のコンセプトと、どのように考えたのかを聞かせてください。
今回の作品のコンセプトは「5.1chの可能性の追求」です。
OTOTEN2024で聞いた第六回の最優秀賞作品「絶滅種の側から」は上下定位のあるDolby Atmos や360Reality Audio などに負けないサウンドに感動し、上下定位のない5.1ch という制約の中で どこまで没⼊感や包まれ感を表現できるかということを主軸にしようと決まりました。
また、裏テーマとして、誰もやらないような曲にしようというのもあり、かなり挑戦的というか、受け⼊れられるかわからないような曲になりました。
制作のアイディアが⽣まれたきっかけなどがありましたら聞かせてください。
今回の曲の制作にあたって、まずチームメンバーとどんな曲が作りたいかと⾔うところから話し合い、Ambient、Botanica、Musique Concreteのようなジャンルの要素を⼊れようということになりました。
Ambient は空間表現に合いそうだよね!とか、Botanica のようにFoley やglitch などをうまく組み合わせていろんなところから⾳が鳴ったら気持ちいいよね!とか、⾃然の⾳⼊れたいよね!よし⾼尾⼭⾏くか!など、あーでもないこーでもないと⾔いながらたまたま打ち込んだ⾳がめちゃくちゃかっこいい!みたいなことの繰り返しで制作されました。
即興や偶然の繰り返しでできた曲ではありますが、「5.1ch の可能性の追求」というテーマはみんなで共有できていたので、優秀企画制作賞という賞をいただけたのはそういう点が曲から伝わったからではないかと推理しています。
制作する際に、苦労した点、うまく表現できた点、⼯夫した点などを教えてください。
まず作曲が最初のハードルでした。制作開始時は5.1chを使うこと、Ambientなどのリファレンスという⽅向性は決まっていたのですが、どんな曲になるのかなというのは全く⾒当もついていません。曲がないことには録⾳もミックスもできないのでどんな⾳欲しい?とか、ここ適当にピアノ打ち込んでよとか、打ち込んだピアノを半速にするとか、⼀つの⾳のサウンドデザインを凝ってみるだとか、チームのみんなで⼀つのDAWをわいわい操作しなこからどんどんアイデアが湧き出てくるというような場⾯を繰り返しながらようやくデモが仕上がりました。
そこからは予定していた楽器の録⾳、ミックスの毎⽇です。
ここで苦労したことは、どの⼯程も初挑戦だったということです。レコーディングスタジオを使える⽇も限られており、外のスタジオも⾼くて何回も借りられないといった障害があったので、どの録⾳もぶっつけ本番になってしまいました。ただここでよかったことは、実践できないにしろ、ノウハウをネットなどであらかじめ勉強をしておいたことです。そのおかげで限りある時間の中で⾊々試⾏錯誤しながら録⾳することができました。
また、録⾳に関しては少しこだわりポイントがあり、「あえてデッドな⾳を録る」ことを⽬指しました。リアルのリバーブではなく、後からリバーブを付加することで、全体の統⼀感が⽣まれ、さらに⽣⾳と⼈⼯的な響きをうまく融合させることができました。
作品の聴き所、アピールポイントを教えてください。
なんといっても、5.1をフルに使ったコントラバスと、それを加⼯して作ったReese Bassの低⾳に囲まれる、作曲者である吾郷の趣味が⼤きく露出したパートです。定位感が少ないロー帯域ではあるものの、コントラバスの倍⾳やシンセ的なノイズのおかげで全⽅位から低⾳に包まれている感覚を表現できました。
随所に散りばめられたコントラバスとバイオリンの不安定な旋律もまた聴きどころです。
これらは全て奏者のアドリブ任せで収録しました。8⼩節を基本にして何⼗回とループレコーディングをし、後で楽曲にコラージュするといった⼿法を取りました。これもまた作曲の吾郷の趣味全開のパートです。
というか全部趣味全開です。
最初から最後まで全部聞きどころです!