学生の制作する音楽録音作品コンテスト

第1回 2014年企画賞

祭り~3つのジャポニスムより~5.0ch 96kHz 24bit


※音源は2chに変換されたものです

東京藝術大学
鈴木 勝貴さん

作品について

作品のコンセプトは?思いついたきっかけは?

学内演奏会の演目の一つであった「3つのジャポニスム」の第三楽章「祭り」を、祭の雰囲気と吹奏楽に大太鼓が合わさった特徴的な迫力を捉えられるように録音を計画しました。

大学の実習として何度かオーケストラの録音を行いましたが、中学や高校の部活動などで身近にあった吹奏楽の演奏を録音する機会が少なく、憧れていた部分がありました。
吹奏楽特有の迫力と楽曲の繊細さを捉えられればと、録音の先生や同じゼミの友人に相談しながら録音プランを立てました。特にそれまでの実習で記録していたマイキングの記録はかなり重要なポイントで、プランを立てる上での基準となりました。

制作時苦労した点・表現できた点・工夫した点は?

まず録音プランの構築に苦労しました。録音できなかった音のリテイクはライブレコーディングでは不可能ですので、ミックスを考えつつ全ての音を録音できるように、参考音源とスコアを確認してプラン立てを行いました。
録音を目的とした演奏会ではなかったため、舞台進行に合わせてステージ上が次々に転換されていくので、他の演目も収音する中、限られた時間と人員でマイキングの配置を変更できるよう調整するのが難しかったことを覚えています。今回受賞した「3つのジャポニスム」とそれ以外の演目とで楽曲構成がかなり異なるため、ステージマネージャーや舞台スタッフさんに転換可能な時間を聞いて回り、ステージ上に置けるフロアマイクの位置や本数をかなり厳選しました。
特に大太鼓が入る「3つのジャポニスム」では、転換の関係上置きたい位置にフロアマイクが置けない状況だったため、ステージ天井のメインとなる三点吊りのマイクとは別の吊りマイクを使用することで、演奏会全体を収録できるようなプランに調整しています。演奏会前半ではステージ奥に位置するパイプオルガンの近い音を収録するマイクとして、演奏会後半では「3つのジャポニスム」で大太鼓を狙えるように、通常よりもマイクの指向性を検討してリハーサルで調整しました。
転換の少ないエリアについては、ハープ、コントラバス、パーカッションエリアそれぞれを狙うフロアマイクを立てることができました。ハープはメインマイクでの収音が難しいため、オンマイクを立てる事は必須でした。また、コントラバスは低音と輪郭のある音を収録すること、パーカッションエリアはアタック感を捉えることがマイク設置の目的です。パーカッションは楽器移動の邪魔にならない位置をヒアリングして、なんとかエリア全体をカバーするマイクを置くことができました。

ミキシングでは音の被りが難点でした。広いエリアをカバーする目的のマイクは欲しい音だけをミキシングすることが難しく、欲しい音の入ったトラックを上げると音の明瞭度が下がってしまう、音像が意図せず動いてしまう、といったことを感じました。もっとはっきりとした音が欲しいと感じた部分が多々ありました。

全体としては、当初考えていた吹奏楽の迫力を捉えることはうまくいったと感じました。一方で、楽器の距離感、明瞭さ、演奏の一体感、奥行きの捉え方についてはマイキングと処理の方法でもっと良くなるのではと感じています。

作品の聴き所・アピールポイントは?

盛り上ったところと、静かなところのダイナミクスの差が、より迫力を感じる要因となっています。

コンテスト参加ついて

受賞の感想をお願いします!

企画賞ということで、それまで取っておいた記録と計画性などを評価いただけたと思いました。授賞式でいただいたコメントは、ありがたいご意見ばかりで大変参考になりました。

参加のきっかけは?

学内でコメントをもらうことはあったのですが、大学の外でプロフェッショナルとしてお仕事をされている審査員の皆様からアドバイスをいただきたいと思ったことが理由です。

制作時のエピソードはありますか?

今回この演奏会の録音ができた経緯についてです。本来大学の実習で録音できる演奏会は一つのシリーズに限られていて、大学主催公演は担当部署の先生方が収録されることになっていました。いろんな編成の演奏を録音してみたいと考えていたので、上記のシリーズ以外の演奏会で記録録音(定位置の2ch吊りマイク)のみの演奏会を探してかけ合った結果、気になっていたこの演奏会を録音させてもらうことができました。
挑戦できる機会を探す事が非常に大事な行動だと感じた瞬間です。

参加してみて良かったことは?

身近な方以外のプロフェッショナルな目線からのコメントをいただけたことが最も良かったです。
このコンテストは日本プロ音楽録音賞と一緒に開催されているので、就職先として気になっている会社の方もいらっしゃっていて、お話を伺えたこともまた参考になりました。
コメントいただいた中で、特に明瞭さといった点で、フロアに置かれた各オンマイクと、天井から吊ってあるメインマイクのアタック感を揃えること(ディレイの調整)について、非常に勉強になりました。きちんとタイミングが合わない場合音の解像度が下がってしまうことがあるため、数値の確認と、実際に耳で聞いて合わせる必要がありました。

音楽制作をしてみて、音楽の聴き方は変わりましたか?

当時は基本的にスタジオ以外での音楽視聴環境がステレオしかなかったのですが、特にオンマイクをたくさん使っているであろう音源では、音の輪郭がはっきりしているか、空間を感じるかといった点は気にしていました。

現役学生へコンテスト参加へのメッセージ・アドバイスをお願いします!

取り組んだことの記録をつけておくことをおすすめします。計画したことの理由、目的を記録して、やったことの結果と反省をまとめておくことで、次回これをやってみようというアイディアが生まれてくると思います。説得力のある音作りには、根拠があるほど良いと思うので、試行錯誤を楽しむ経験は役立つはずです。

JASジャーナル

第1回目ということで、コンテスト発足の経緯から受賞作作品へのコメント、当時の表彰式の様子などが掲載されています。合わせてご覧ください。


JASジャーナル
2015年1月号(Vol.55 No.1)