作品のコンセプトは?思いついたきっかけは?
卒業制作にあたる今作は、これまでの経験と技術を総合したものにしたいと考え、「生楽器と電子音、自然音が合わさり、サラウンドで音響効果にも拘った楽曲」をコンセプトに制作しました。
幼少期からピアノを続け、小学生になってからは金管バンド部、中学〜大学では吹奏楽に取り組んでいたことから、大学入学と同時に作曲を始めてからはピアノやオーケストラ等、生楽器を中心とした曲を多く制作していました。しかし大学生活の中、多様なジャンルの音楽に触れることで、生楽器だけでなく、シンセサイザー等の電子音や虫の鳴き声、車の走行音など、自然の中に溢れている音を使って曲を作ることにも興味を持ち、制作するようになりました。またステレオ楽曲のみならず、5.1chサラウンドでより空間を感じられる楽曲を作る技術も身につけ、このコンセプトを設定しました。
アイデアのきっかけは、大学4年生の夏に家族で青森県の奥入瀬渓流という所に行った際、渓流の中の「阿修羅の流れ」という場所で、水の中から道路標識が出ている景色を見たことです。ガイドさんの説明によると、1999年に奥入瀬渓流で大規模な地すべりが発生し、元々道路だった場所が水に沈んだ結果、現在の阿修羅の流れができ、標識だけが立ったままで水面から見えているとのことでした。
雄大な自然を感じる場所に人工物が混ざっているその景色は、私にとって強く印象に残るものでした。コンセプトとも合うことから、このような自然と人工物が融合した景色を表現する楽曲を作りたいと思い、制作を始めました。
制作時苦労した点・表現できた点・工夫した点は?
曲の構成に力を入れました。前半(〜2:30)は都会的な、電子音の溢れた風景をイメージしたもので、中盤は森の中のような自然溢れる場所にだんだんと人工物が流れ込んでくるイメージ、後半(4:16〜)からはそれらが融合するイメージで制作しています。全体を通して完全4度を積み上げ、音の高低を入れ替えた、機械的な雰囲気のモチーフを繰り返し使用していますが、後半パートではそのモチーフが暖かみのあるメロディー、ハーモニーになるよう制作しています。この構成によって、現代の技術が歴史ある雄大な自然の中に流れ込み、それらが融合して新しい景色を生み出す、というテーマを表現できたと思っています。
制作するにあたり、ピアノは自分で演奏、録音し、弦楽器は奏者に演奏を依頼し、録音させていただきました。最初に演奏していただいたとき、奏者の方々がとても表現豊かな演奏をされていて感動したのですが、曲の前半の人工的な部分で、そのイメージがあまり感じられないという問題点がありました。そこで、自分の曲のイメージと、場面ごとにどのような音色が欲しいかを奏者に伝えたところ、演奏の雰囲気が大きく変わり、理想の演奏を録音することができました。
ミックスをする際には、リバーブや使用するマイクを場面ごとに変えることで、さらに音色に変化をつけました。その結果、最初は人工的な雰囲気ですが、後半になるにつれて表現も豊かになり、景色が広がるような流れができたように思います。
全体のミックスの段階では、録音した演奏、電子音、自然音と、色々な種類の音があったため、うまく混ざらず苦労しましたが、サラウンドを効果的に使うことによって、様々な音を合わせて一つの空間を作ることができたと思います。
作品の聴き所・アピールポイントは?
この曲のタイトル「for(art)est」は、フォレストの中にアートが入っているものになっていて、自然(forest)の中に人工物(art)がある景色を想像できるような曲、という意味を込めています。曲の構成や、アレンジの変化、場面ごとの演奏の音の変化から、景色を想像しながら聴いていただけると嬉しいです。