学生の制作する音楽録音作品コンテスト

第6回 2019年優秀録音技術賞

All That Jazz5.1ch 96kHz 24bit


※音源は2ch(HPL)に変換されたものです

洗足学園音楽大学 音楽・音響デザインコース
岩本 双葉さん

作品について

作品のコンセプトは?思いついたきっかけは?

5.1chサラウンドの作品の中に自分がいる、というコンセプトで作品を作りました。
サラウンド作品についての勉強を始めた大学3年次に参加した、AES NY(オーディオ技術者協会のイベント) で、ブロードウェイミュージカル『CHICAGO』を鑑賞したことがきっかけです。オーケストラがオケピットではなく、ステージ上で演奏しているのがおもしろいと思いました。音に包まれるサラウンドは気持ちがいいですが、自分はいつも裏方だったので、ミュージカル作品の主役になって楽しんでみたいと思い、サラウンドでミュージカルのステージ空間を作り上げました。

制作時苦労した点・表現できた点・工夫した点は?

大学のスタジオでどうやって大人数でレコーディングをするか、音のかぶりがどうなるか、という点では苦労しましたが、あとはただただやりたいことを楽しんで遊び心満載で挑みました。
いろいろなスピーカーから沢山の楽器が鳴り、また全てのスピーカーからコーラスが鳴ることで、聴くだけでも面白いと感じるミュージカル音楽の表現ができました。完成した作品を聴いた際には、自分がミュージカルの主役になることができたと思いました。
折角のサラウンド作品の制作だったので、LFEを効果的に使いたいと思い、タイミングと使用楽器を考えた結果、曲中ずっとセンターメインになっていたウッドベースの、最後の1音だけをLFEにしました。もっとLFEを欲張りたかったのですが楽曲や楽器と合わなかったので断念しました。それも”ある意味”工夫点です。
ミックスでは演奏者の良さを消さないように、私の遊び心を消さないようにとりかかりました。結果的にその意識でミックスがボロボロになった時期もありましたが、初心を思い返すことで録音の概念にとらわれない面白い作品ができました。

作品の聴き所・アピールポイントは?

ミュージカル作品と散々書きましたが、ミュージカルがわからない方でも楽しめる作品です。なぜなら私がミュージカルに触れたのがこの作品を制作する約1年程度だったので。(笑)
いろいろなところから違う旋律、音、声が聴こえてくる、我ながら振り切った作品が制作できたと思っています。
そしてミュージカルが好きな方には、映像やパフォーマンスのないミュージカル舞台を楽しんでもらいたいです。
きっとCHICAGOの主役になれると思います。
これが私が考えた作品です。私の遊び心の迫力に負けないように作品を楽しんでもらえたらと思います。

コンテスト参加ついて

受賞の感想をお願いします!

率直に嬉しい気持ちと、在学時にコンテストで入賞するという目標があったので、達成感でいっぱいでした。大学進路を決める際に両親に音楽大学に進学することを反対されていたので、「音楽大学に通わせてよかった」と思ってもらえる、恩返しができたかなと思いました。

参加のきっかけは?

大学1年生の時に同大学の先輩2人がコンテストに入賞されました。受賞された先輩方の作品は勿論素晴らしく、祝福の気持ちもありましたが、何故か“悔しい”という気持ちがこみ上げてきました。そこで、大学生活の中で自分も大学で学んだことで結果を残そうと大学在学時の目標にし、大学2年生から毎年、計3回応募をしました。

制作時のエピソードはありますか?

サラウンド作品はいろんな音源を聴いてみても明確な定義がなく、自分はこう作りたいけど、サラウンド作品としてどうなんだろう、と正解がないからこその不安に襲われました。しかし先生に相談をした際、私の提案したプランを否定せずに手を差し伸べて下さり、「やりたい!やろう!」と考えられるようになりました。作品に本気で向き合う遊びです。その遊び心は作品にも出ていると思います。
収録時は、ミュージカル作品だった為、演奏者だけで17人、録音アシスタント6人の総勢20人以上の方々に協力をしていただくことが大変でした。マイク本数も多く、セッティングが大変でレコーディング前で精一杯になりました。(笑)しかし、どの演奏者の方もレベルが高く、そしてレコーディングを楽しんでくれました。また録った作品を聴いてもらった際には、自分たちで演奏しているのにも関わらず「すごーい」と声をだして感動してくださり、レコーディング当日が誕生日だった私にとって最高のプレゼントになりました。

参加してみて良かったことは?

大学という狭い世界にいるだけでは気づかないことが沢山あるので、録音業界で名の知られている方、お会いしたことがない方々に作品の好評をもらえたことは毎年参加していてよかったなと思います。
そして、音の日当日に会場で同じ分野を勉強している同世代の方の作品を聴いて感動したり、レコーディングについてディスカッションができたりするのでとても楽しく、今でもたまに連絡をとっている他大学の仲間ができました。参加して受賞したことで、大学で学んだことが間違っていなかったと私の中での確信が出来、また結果が出たことによって両親へ感謝の気持ちが伝えられたのではないかと思います。

音楽制作をしてみて、音楽の聴き方は変わりましたか?

純粋に音楽を楽しんで鑑賞できるようになりました。それまではコンテストに応募する目標に一直線で、音楽を鑑賞するにもこの曲はなんでこうゆうミックスをしているんだろうなど、ずっと考えていました。音楽に対しての視野がかなり広がったと自分では感じています。

現役学生へコンテスト参加へのメッセージ・アドバイスをお願いします!

私はコンテストに対しての意欲は誰にも負けないと思っています(笑)
録音コンテストで受賞する。この一つの目標に向かうだけで大学生活をダラダラと過ごさずにいました。なので、ぼんやり学生生活を過ごさずに、受賞できたらいいなという位の気持でもいいと思うので、コンテストを学生生活の一つの思い出にしませんか?
きっと、あのコンテスト時期は作品、資料制作で大変だったなーなど、数年たっても思い出になると思います。そして社会人になった今、学生のときにしか作れない作品があると思い知らされました。
学生のわんぱく心で沢山の作品を作り上げてください!!

JASジャーナル

使用機材やマイクセッティング、サウンドメイキングなど、作品についてさらに詳しく寄稿していただきました。合わせてご覧ください。


JASジャーナル
2020年冬号(Vol.60 No.1)