学生の制作する音楽録音作品コンテスト

第6回 2019年優秀企画賞

pm 04:292ch 44.1kHz 16bit

九州大学大学院 芸術工学府
田島 俊貴さん

作品について

作品のコンセプトは?思いついたきっかけは?

音楽聴取の手段の一つに Apple Music や Spotify といった、気軽に音楽を楽しむ「ストリーミング」のサービスが拡がりを見せています。このサービスは作り手に対しても気軽に自らの作品を配信できるという利便性を提供していると思います。アマチュアミュージシャンにとって、自らの作品を多くの人に届けるには最良の方法であるとも言えるので、今回は地元福岡で活動するバンドの音源配信を目標に作品制作を行いました。

自分も含め、大学の周りの友人がCDを買う文化がやや失われつつあるということに気づいたことが、コンセプト発案のひとつのきっかけです。聴き手側がCD中心からストリーミング中心へ移行されつつある中で、作り手側の音楽の作り方にも何か違いが生まれるのだろうかと考え、ストリーミングで聴かれることを前提とした音楽制作をやってみたいと思いました。同じタイミングで、ストリーミングで音源配信をしたい大学の先輩のバンドに出会い、制作に携わらせてくださいとお願いして今回の作品制作が決まりました。

制作時苦労した点・表現できた点・工夫した点は?

ストリーミングで聴かれるという「聴き手の聴取形態」に関して特に注意を払いました。
主な聴き手はこれらのサービスを利用する比較的若い世代であることを想定しました。さらに聴取の方法として、音響設備の整った高価なスピーカーよりもPC やスマートフォンのスピーカーやイヤフォンなどを用いて聴かれる場合が多いと仮定して、実際にミキシングの段階でイヤフォンや PC のスピーカーからも再生してモニターを行うなどの工夫をしました。
本コンテストへの提出音源は、コンテスト向けにリミックス、リマスタリングを施していますが、その際は設備の整った環境で聴かれることを想定し、リスニングルーム内のスピーカーのみを主に使用しています。

全体的に、自身と演奏者が思い描いていた完成図に近いものができたと自負していますが、各楽器のサウンドメイクに関して、制作者は楽器の演奏経験がギターしかないため、その他のパート(特にベース)の音作りにかなり苦戦しました。ミキシングなどのポストプロダクションに携わる以上、必ずしも全ての楽器が弾ける必要はないにせよ、その楽器が持つ音の特徴は知っておく必要があると学びました。その上で演奏者と密接なコミュニケーションを取り、両者の間でゴールとする音を共有することを意識すべきと痛感しました。

作品の聴き所・アピールポイントは?

プロのエンジニアの方に比べて実力がどうしても劣ってしまう学生が、作品を制作する上で最も必要なものは、高価な機材や音響設備の整ったスタジオでなく、演奏者が演奏しやすい環境づくりであると考えています。今回の作品は外部のレコーディングスタジオではなく学内の録音スタジオで行ったので、設備はほかのスタジオに比べ多少劣る点もありました。反面、学内設備であることを活かし、演奏者の友人を積極的にスタジオに招待したり、調整室内に遊び道具を持ち込むなどして、全体的に賑やかな雰囲気を心がけました。
今回の作品は少し物悲しげな雰囲気の曲ですが、その中でも演奏者が伸び伸びと演奏している様を感じていただけたら幸いです。

コンテスト参加ついて

受賞の感想をお願いします!

応募するからには受賞を目指したいと思っていたので、受賞の連絡を頂いたときは素直にとても嬉しかったです。
作品制作の意図やコンセプトの面で高く評価していただいたということで、目的を持って制作に取り組む大切さを改めて実感することができました。それと同時に、別の受賞作品のレベルの高さに圧倒され、刺激を受けたことも鮮明に覚えています。

参加のきっかけは?

私の在学していた学部では、レコーディングやミキシングの活動に興味を持つ学生が多く、自身が録音した作品を互いに聴かせ合って感想を共有する、という機会が多々ありました。しかしそれはあくまで学内に限った話であり、作品を学外に出す機会はほぼありませんでした。
そんな中、本コンテストの存在をホームページ上で知り、閉じたコミュニティで行っていた活動を外に広げる機会と思い、応募することとしました。

制作時のエピソードはありますか?

音源を実際にリリースするにあたり、リリース予定日の前日深夜まで学内の施設にこもって、演奏者と一緒にミキシングの最終調整を行っていました。演奏者本人たちには及ばないかもしれませんが、長い時間を掛けただけにとても思い入れがある作品になりました。

参加してみて良かったことは?

表彰式の後、別会場で開催されていた日本プロ音楽録音賞の受賞者の方々との合同パーティーに参加させていただいたのですが、第一線で活躍するプロのエンジニアの方がたくさんいらっしゃる場に同席させていただいたのが非常に貴重な機会でした。
また、賞をいただく前はあまり自分の作品に自信を持てずにいましたが、客観的な視点から評価をいただけたことで、少しだけ自分のやり方や考え方に自信を持てるようになりました。

音楽制作をしてみて、音楽の聴き方は変わりましたか?

プロの方の作品を聴いていて、真似したいところを見つけたときのアプローチの仕方が変わりました。
これまでは少ない経験の中で真似したい音を目指して、ただ闇雲に機器やプラグインの設定をいじるだけを繰り返していましたが、大学で学んだ音に関する知識や理論と録音で培った経験の双方を結びつけて、理論的な側面からも考えてアプローチすれば、より効率的に目指したい音に近づけると気づけました。

現役学生へコンテスト参加へのメッセージ・アドバイスをお願いします!

本コンテストは審査員の方からのフィードバックはもちろん、他の参加学生の方の作品から得られる知見もたくさんあり、間違いなくいい経験になると思います。ぜひ応募してみてください!

JASジャーナル

使用機材やマイクセッティング、サウンドメイキングなど、作品についてさらに詳しく寄稿していただきました。合わせてご覧ください。


JASジャーナル
2020年冬号(Vol.60 No.1)