作品のコンセプトは?思いついたきっかけは?
かねてより立体音響のもつ表現力の大きさに魅力を感じていたため、立体音響と抽象的な視覚情報で空間を表現できたら面白そうだと思い、「The North Star」という絵本を題材に、立体音響と照明を使った作品を卒業制作として制作しました。
音と照明で表現するということで、日本語の聞き手からすると直接的な表現が少ない英語の作品に絞り、光や音で包まれ感を表現できるような、情景が美しいものを選びました。
劇中曲である今作品の楽曲は、心情表現だけでなく、風で葉が舞う動きや、静寂、夜空に浮かぶ星などの空間表現もできるようにコンセプトを考えました。
楽曲のイメージに関しては「あの時聞いたあの音が印象的で、このシーンに合うと思うから取り入れたい」といったように、過去に聞いた音からアイデアが湧いてきました。逆にそういった過去の経験から思いつかないものはイメージを固めるのに苦労しました。
ミックスのアイデアは、以前聞いた22.2ch作品の影響を受けていると思います。ダイナミックで緩急のある、劇的な演出が常に頭の中に浮かんでいました。
また立体音響作品を制作するにあたり、音の聞こえ方が視覚情報に少なからず左右されるという過去の経験から、はっきりと定位を認識させたい時に手助けになるような照明を用いた作品にしました。こちらも、以前聞いた22.2ch音響作品やDolby Atmosの映画作品がアイデアの生まれたきっかけになっていると思います。
制作時苦労した点・表現できた点・工夫した点は?
苦労した点
楽曲をオーダーする際にテンプトラックを用意したのですが、予めイメージが出来過ぎてしまっていた曲に関しては頭に浮かんでいるものとの差がなかなか埋められず、何度も作り直してもらうことになってしまいました。
録音の際、サラウンドの残響成分用にサイドやバック、トップの位置にマイクを立てたのですが、残響成分は収録できたものの、ミックスしてみると位相の違いか思ったように綺麗な残響のサラウンド感がでないということがありました。サラウンドミックスが前提なら、録音時にはステレオだけではなくて最低でも5.1chでのモニターが必要でした。
また小規模のオーケストラ編成で構成された楽曲なので、パートを幾つかに分けた録音を行いましたが、その際ミックスプランを考えずにどのパートもマイクに対して同じような配置にしてしまい、メインマイクを用いたミックスでは楽器ごとに広がりや定位感の差をつけるのが難しかったです。あらかじめ大体のミックスプランを考えてから録音に挑む必要があると学びました。
うまく表現できた点
物語の風景や絵本の主人公の心情をうまく音楽で表現できたと思います。
編成はシンプルながらもシーンごとに特徴となるフレーズやメロディがあり、作品本編の朗読との相性もよかったです。
工夫した点
M1では、主人公の動きや景色の動きに合わせてより効果音や場面とリンクした構成にしました。
またワルツにすることで序章としてこの先のストーリーをワクワクさせるような演出を試みました。
M3では、主人公が森に迷い込む場面なので、ミニマルミュージックの要素を取り入れ混乱させるような印象にしました。さらに8分の7拍子にし不気味さを足し、金管の煽りを前から後ろへパンニングさせることで焦らせるような演出にしました。
M6ではこもったピアノの音にリバースをかけて表現した雲が晴れる動き、グロッケンの煌く星々は上方に定位させました。またラストにかけて主人公の門出を祝うような音楽にしたかったので、金管を多用し盛り上がるように大胆にミックスしました。録音したスタジオは残響が少なかったので、反射板や平台を用いてホールで鳴っている時の楽器の音に近づけるようにしました。また、M6のピアノの録音では、こもった音にしたかったため反響版をしめ上に布をかぶせ、近接効果が出るように近い位置でのマイキングをしたところ、狙った通りの音を録音することができました。
作品の聴き所・アピールポイントは?
ぜひ音楽を聴きながらどういう場面なのか、どんな話なのか想像しながら聞いてみてください。
音楽だけでも場面が伝わるような作品になっていると思います。