Alexander PALEYとBlüthner
15年ほど前フランス東部、アルザス地方にあるコルマールと言う町でアレクサンダー・パレイというピアニストのリサイタルを聞いたことがある。日本ではあまり有名ではないようだが、経歴は「1956年東ヨーロッパのモルドヴァ共和国生まれ。モスクワでピアノを学び、国際バッハコンクールをはじめとする数々のコンクールで優勝。その後、米国に移住し、全米、ヨーロッパでリサイタルを開催」とある。彼の1997-98年シーズンのヨーロッパ公演ツアーの際、アルザスの小都市にも寄ったようである。リサイタルと言ってもコンサートホールではなく、中世の館の一室で聴衆もせいぜい150人ほど一杯になるような会場であった。逆に目の前にピアノがあり、演奏者の息づかい、指のタッチがダイレクトに伝わってきて、まさに「生(ライブ)演奏」という感じであった。そのような環境では、演奏者の技量が会場と楽曲の雰囲気を大きく左右しがちだが、パレイの演奏は、彼の指がピアノに吸い付くような感じのまさにピアノと演奏者が一体になった演奏で、聴衆も音楽そのものに聞き入ることのできる完璧な演奏であった。アンコール曲のリストの「ラ・カンパネラ」では、最前列にいた小学生くらいの女の子が口を開けて、まさに「演奏に見入っていた」のが印象的であった。
結構印象に残ったリサイタルだったのでパレイのCDを当時FNAC等のレコード屋で探したが見つからずそのまま忘れていたのだが、先日古いコンサート関係の書類を整理していてコルマールでのリサイタルのリーフレットを見つけ、再度今度はネットで検索してみた。さすがネット時代、アマゾンで「Alexander Paley plays Blüthner」と言うCDを見つけ購入した。「パレイがプレイ」と語呂合わせみたいなタイトルだが、演奏録音ともに結構良かった。だが、タイトルの「Blüthner」って余りなじみがない。作曲家と思いきや、これもネットで調べたら、「Blüthner(ブリュートナーと読みます)は、ドイツを代表するピアノメーカーのひとつで、スタインウェイ、ベヒシュタイン、そしてベーゼンドルファーと並んで、世界四大ピアノメーカーの一つ」とあった。音楽好きを自負する自身の無知さを反省しつつも、自宅のステレオで聞く限りでは、ベーゼンドルファーのような中低音の渋さに中高音にかけての明るさを加えた音色を持つピアノと感じた。プライの演奏は、私がリサイタルを聞いた1997年12月から2か月後の録音ということで、リサイタルでの印象そのもので正確無比な演奏だ。9曲目のリストのハンガリー狂詩曲第2番は曲こそ違うが、リサイタルで聞いた「ラ・カンパネラ」と同じような印象だ。そんな演奏のパレイだが日本には来ていないようでCDもほとんどないのが不思議である。このCDもレコード会社制作ではなく、発売元はBlüthner社で一種のプロモーションCDのようである。
そんな、日本であまり知られていない演奏家の情報とCDが、自在に取れ、買えるネットの力はありがたいものである。
リサイタルのリーフレットとCD