追悼 マエストロ ロリン・マゼール
7月は、少し思い入れもあって6月22日にNHKクラシック音楽館で放送(6月3日公演)されたセガン指揮のフィアデルフィア交響楽団のことを書こうかと思ったのですが、先週7月13日、マエストロ ロリン・マゼールの訃報を聞き、マエストロ マゼールさんのことを書きます。
ロリン・マゼールさんは、説明するまでもなくクラシック界の巨匠で数々の名演奏を残されていますが、私にとってのマゼールさんは、ヴィリー・ボスコフスキーさんの後を受けてニューイヤーコンサートの指揮をするようになった指揮者というのが初めでした。1980年から1986年まで連続して指揮をされていて、当時ドイツに駐在していた私は、毎年新年の行事としてお昼のTV放送でニューイヤーコンサートを見て(当時は後半の一時間の生放送でした)、それから日本の実家に電話して新年の挨拶をしていました。ニューイヤーコンサートですから、巨匠と言うより、ワルツを優雅に振り、コンサートの終盤では自らバイオリンを弾きながら指揮するとてもかっこいい指揮者という印象でした。その後、マゼールさんは4回ほどニューイヤーコンサートを指揮され、常にバイオリンの弾き振りされていました。下記は2005年のニューイヤーコンサートのCDですが、この時も2曲ほど弾き振りをしています。
マゼールさんのコンサートを実際に聴いたのは1997年前後のフランス東部、ストラスブールでのコンサートで、演目はベートーベンのバイオリン協奏曲と、交響曲9番合唱付きの組み合わせで結構ボリュームあるコンサートでした。オーケストラはストラスブール・フィルハーモニー管弦楽団、バイオリンは渡辺さんとかいう日本人でした。この時、すごく印象的だったのがマゼールさんの指揮で、非常に優雅で、かつ緻密で、あたかも彼の指揮棒の上の音符が乗っているというか、指揮棒の先から音符が出てくる印象を受けたことです。後にも先にもこんな指揮を見たことがありませんでした。
その後、マゼールさんの指揮を聴いたのは、2010年の大晦日、東京文化会館で開かれたベートーベン交響曲全曲連続演奏会でした。昼過ぎから始まって、第9で新年を迎えるコンサートです。2003年に岩城宏之さんたちが始め、岩城さんが亡くなった後は小林研一郎さんが指揮をされていますが、2010年はマゼールさんが指揮をされました。この時は、私はB席に座っており、マゼールさんからは遠く、ストラスブールでの指揮棒先から音符が出る印象までは確認できませんでしたが、演奏は凄かった。第1番が始まった時から、とにかくオーケストラの音が素晴らしい。とてもなめらかで、「これ日本の臨時編成のオーケストラ?」と耳を疑いたくなるほどの、いい音でした。1番の第1楽章から鳥肌モードで、結局最後まで一気に楽しみました。もちろん出だしの1番と2番で管の不安定なところが若干あったとか、最後の第9の4楽章のソリストがオケと合唱の間で声が通りにくかったとかありましたが、それらは些細な点で、マゼールさんの楽曲コントロールは緻密で、時には「溜め」を大きく取り、緩急織り交ぜ、連続演奏会での緊張感を最後まで保った演奏は素晴らしいものでした。指揮ぶりも最後まで優雅で、とても80歳(当時)とは思えないほど元気でした。終了後、マゼールさんは「ブラームスの交響曲全曲も続けて演奏しようか」とか冗談をおっしゃったとかで、次の日には離日されたとのことでした。
下記写真左は連続演奏会の時間割。1番から連続ではなく、穏やかな偶数番と力強い奇数番をうまく配置しています。写真右は7番から9番までのオーケストラの配置図。1番からすべてロビーに手書きの配置図が張り出されていました。
この大晦日の連続演奏会はその後、スカパーで放映されプレミアムサービスリンク対応のNASに録画しましたので、今でも時々聴いています。ただ、録画したコンテンツはコピーワンスの為、別のハードディスクにバックアップを取ることが出来ませんので、LANダビング対応BDレコーダーを使って、NASから転送(MOVE)する形でBD-Rに保存してみようかと思います。LANダビングは下記サイトを参照してください。
http://www.skyperfectv.co.jp/rokuga/dubbing.html
話がそれましたが、先に「連続演奏会ではマゼールさんの指揮棒の先まではわからなかった」と記しましたが、スカパーの映像では第9が終わった後、マゼールさんは指揮棒を水平し両端を両手で持ち、指揮棒に何か一言声を掛けてから、指揮棒を下しました。マゼールさんの指揮棒への感謝みたいなものを感じました。
最後に連続演奏会で第4楽章が圧倒だった7番を聴きながらマエストロ ロリン・マゼールさんを追悼しました。ご冥福をお祈りします。