Vol.63 成熟期にある技術革新の時代に必要なことは何か(1)
~ 私をソフト制作に駆り立てたもの ~
人は不思議に思うことが少なくなったのではないか、そんな気がします。私たちが小学生のころは、鉱石ラジオを組み立てて、イヤフォン(当時はレシーバーと言ってました)から本物のラジオ放送が聞こえてくるのに驚いたものです。そして、なぜこういう仕組みから音楽や会話が出てくるのか、その不思議をなんとか解明したいものだと思いました。
しかし今は、物心ついた頃にはもうすでに多くの電子機器に囲まれています。テレビやオーディオ機器、パソコン、ゲーム機に携帯電話やスマホ、さらにエアコン、冷蔵庫、洗濯機などのさまざまな家電製品。個人用途から家庭用機器まで、触れるだけで快適に動いてくれる便利な電気製品に取り囲まれています。こうなると不思議に思ったり驚いたりするより、身の回りのそういう機器をうまく使いこなすことに関心が向かうことになります。
後年、私は幸いにもLPレコード、オープンリールテープ、カセットテープ、LD(レーザービジョンディスク)、CD、DVD、BDとめまぐるしく記録メディアが交代していくという、歴史始まって以来の技術革新のまっただ中に、電器メーカーに身を置くことになりました。しかもそれは、アナログからデジタルへ、という大変革期でもありました。
そこで求められていたのは、高音質であり高画質でした。なぜ映像や音が記録され、それを再生(復元)することが出来るのか、もはやそれを不思議に思っている自分ではなくなっていました。他社より技術的に1歩でも先に進むこと、それが自分に課された使命となっていたのです。
しかし、LDの記録がアナログからデジタルになり、CDとのコンパチブル機(LDとCDが同居したプレーヤー)が登場するころから、少し自分の気持ちに変化が出てきたのを感じ始めました。技術が一定の段階まで成熟してくると、よりよい機器を作るには、ソフトがいかに作られるかに精通する必要があるのではないか。人々が見たり聴いたりする作品が生まれ、記録される一部始終を知る必要があるのではないか、そう思ったのです。それまでも、テストディスクの制作には関わっていましたが、本格的なソフトを作ることの必要性を強く感じたのです。